夏休みまで 10
気付いたら二ヶ月以上空いてた……。お待たせして申し訳ありませんm(_ _)m
「おおっ。こっちはいい感じに盛り上がってるな。瑠璃さん。皆で何の話してたの?」
「蒼依こそ、随分静かだったけど、撮影は、もういいの?」
声がしたと同時に蒼依に上から顔を覗き込まれる。鼻と鼻がくっつくような近さに少し驚きはしたが、直ぐに答えを返すと隣に居た凪ちゃんの顔が歪むのが横目でうかがえた。
「ちょっと、顔が近すぎるんじゃないかしら? 瑠璃ちゃんから離れなさいよ。この性悪男! そ・れ・か・ら! 写真撮り終わったなら、とっとと出てけば? 存在が目障りなのよ」
「はぁ。まだ、撮り終わってないんだよ。言っただろ? 執務中の写真とそうじゃない写真がいるんだって。本当に人の話を聞かないヤツだよな。お前って」
凪ちゃんの指摘に私から顔を離した蒼依は真っ直ぐ立つとヤレヤレと首を振りサムズアップしながら肩をすくめた。無駄に絵になる姿だ。あれだなこういう時に「ただしイケメンにかぎる」とかいう言葉を使うんだろう。
しかし、私の目の前で凪ちゃんを馬鹿にするような態度をとるとはいい度胸だ。全くもって腹立たしいとチラリと蒼依を睨むと冷や汗を流して両手をあげたので少し溜飲が下がった。
「はぁ。……それじゃあ、今は執務中の写真が撮れたから一段落ついたってところかな」
「正解! 流石、瑠璃さん。理解が早くて助かるよ。そんで、何の話で盛り上がってたのさ?」
直ぐに立ち直る辺り蒼依は蒼依だよな。他のヤツなら、少しの間は大人しくなるのに。こういう態度をとられると怒りを通り越して呆れに変わるな。全くいいことではないが。
「凪ちゃんが居た孤児院についての話だよ」
「へー」
自分から聞いてきたくせに反応悪いとか本当に人として、どうかと思う。嘘でもいいから、もうちょっと反応するべきだろう。馬鹿蒼依め。
「柊先輩は孤児院の話とか気にならないの? なかなか聞く機会ないでしょ?」
「んー。そうでもないぞ? 寧ろ俺には身近な話しかな。あの孤児院は近所じゃ有名だったし、友達も何人か居たしな。瑠璃さんと同じで何回か遊びに行ったこともあるんだよ」
「そっ、そうなんすね。何か凄いです」
龍崎達にしてみれば自分達と同等の上流階級に位置する家柄の蒼依が孤児院に詳しいということが不思議なんだろうな。まぁ。蒼依が詳しいのは父親が出資者の1人で家と孤児院の距離がたまたま近かったってのが大きいんだけど。
「そういえば、3人って、いつからの付き合いなの?」
「おっ俺と萌黄と一緒で幼なじみみたいなもんなんですか?」
「あれ? 2人から聞いてないのか? 瑠璃さんとソイツは小、中、高同じで、俺と瑠璃さんは小4くらいからの付き合い。ソイツのこともそんくらいから知ってはいたかな。実際に同じ学校に通うようになったのは中学からだけど。ちなみに、俺は父親の教育方針で小、中共に公立校出身な」
「そんなに昔から知り合いだったなんて初めて知ったよ」
いつの間にか蒼依の隣に立っていた水瀬が驚いたように私達3人を順繰りに見てくる。蒼依のヤツ余計なこと言いやがってと思わず舌打ちしそうになるのを何とか耐えた。
「別にソイツといつから知り合いだったかなんて、いちいち、あんたに言う必要ないでしょ? あくまで知り合いってだけで友人じゃないんだし」
「お前と俺はな」
「何が言いたいわけ?」
「別にー?」
「ほんっと。あんたって、いけ好かないヤツよね」
何かを含んだようにニヤニヤした蒼依とそれを睨みつける凪ちゃん。2人のただならぬ雰囲気のせいか龍崎はオロオロし始め、水瀬と橘は互いに顔を見合わせ、会長達まで視線を向けてくる始末。全くもってカオスだな。
こういう時に動じずに居られる烏羽先生が羨ましい。本当に図太い人だ。単純に事情を全て知ってるがゆえの余裕でもあるんだろうが。私も全て知っている側の人間だが、一応当事者なのであんなに泰然としていられない。
「ねぇ。蒼依。邪魔するなら帰ってくれる?」
「邪魔はしてないと思うけどなぁ。俺は事実を口にしてるだけだよ」
にこりを微笑みかけてくる蒼依の考えは完全には読めないが、私にとっては、あまりよくないことを考えているのだけは何となく分かる。無駄に付き合いが永いせいで、他の人間には分からないような態度でも分かってしまうのだ。それが良いのか悪いのか分からないが、今回は恐らく良い方に働いた。
「そう分かった。……じゃあ、言い方を変えるよ。お前の話しは耳障りだから黙って仕事だけしてろ。それが出来ないなら今すぐ帰れ」
想像以上に低い声が出たが仕方がない。蒼依には優しく諭しても意味がないことは分かっているからな。それに会長に蒼依との関係がばれると面倒臭いことになるし。いや会長以外の面子にもばれるのは面倒だな。凪ちゃんのこと以外で面倒事に巻き込まれるのはごめん被る。
「る、瑠璃ちゃん? どうしたの? 彼、瑠璃ちゃんの逆鱗に触れるようなことを言ったのかしら?」
茜先輩が恐る恐る私に声をかけてきた。ハッと辺りを見回すと蒼依と凪ちゃんと烏羽先生以外が顔をひきつらせている。
そういえば、こんなに不機嫌な姿を見せるのは初めてだった気がするな。いや、それ以前に彼らからしてみれば私が蒼依の何に腹を立てたのか分からないから余計に戸惑っているのか。凪ちゃん達は見たことあるから動じてないみたいだけど、私は不機嫌になるとかなり雰囲気が変わるらしいから気をつけないと。
「いえ。蒼依の凪ちゃんへの態度に苛ついただけですから、大丈夫ですよ」
「ああ。そうだったのね」
普段通りを意識して茜先輩に返事をするとホッとしたような顔をされた。上手く誤魔化せたらしが、何か悪いことした気分になるな。
「それより、そろそろ生徒会室を出た方がいいんじゃないでしょうか? 確か移動教室だって言ってましたよね?」
「あっ。そういえば、先生に用事も頼まれているんだったわ。柊君ごめんなさいね。アタシもう行かないと」
茜先輩は諸悪の根元である蒼依に対しても優しい態度を貫くらしい。うん。やはり生徒会役員の中で一番の有望株は茜先輩かもしれないな。凪ちゃんとも仲がいいし。茜先輩なら凪ちゃんと友人以上恋人未満くらいの立場なら許せ……。いや、今はまだ早いな。
「矢霧先輩。丁寧にありがとうございます。そういうことなら、また、放課後にお邪魔させていただきますよ」
「来るなと言いたいところだが、無理か……。とりあえず解散するぞ。続きは放課後だ」
会長は疲れたような顔を一瞬したが直ぐに表情を切り替えて席から立ち上がった。なんとしても今日中に撮影を終わらせるという強い意志がうかがえる気がしたが気のせいではないだろう。
あまり蒼依と一緒に居ると柚木先輩から、いちゃもんつけられそうだし。嫌いな男に写真撮影をされる上、普段から何かと張り合ってる従姉妹に突っかかられるとか流石に気の毒だよな。
放課後は少しだけ撮影に協力してやることにしよう。いつまでも蒼依に来られると色々面倒なことにもなりそうだしな。主に人間関係的な意味で。




