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石蕗学園物語  作者: 透華
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夏休みまで 12

「遅かったわねぇ。また、何かあったんじゃないかって心配してたのよ? って、瑠璃るりちゃん。どうしたの?」


雪城ゆきしろさん。少し体調が悪いみたいで……」


「そうなの? 瑠璃ちゃん。大丈夫? 気分が悪いなら無理しないで帰ってもよかったのよ?」


 迎えの挨拶をしてくれたあかね先輩はなぎちゃんに手を引かれ蒼依あおいに荷物を持たれている私を見て目を見開いた。

 水瀬みずせの説明を聞いて心配そうに顔を歪め声をかけてくれるが、ぶっちゃけ、そんなに体調が悪いわけではないので罪悪感がわいてくる。


「私もそう言ったんだけど、大丈夫の一点張りなんです」


「いや。本当にもう大丈夫だから。凪ちゃんも茜先輩もご心配なく」


 凪ちゃんは僅かに拗ねたような顔をしているが、そんな顔も可愛いなぁと思いながらもフォローをいれた。本当に帰らなきゃ行けないほどではないのだ。


「そうは言うが、顔色は悪いな。よし。会長命令だ。雪城。少し休んだら、今日はもう帰れ」


「えっ!?」


 まさか、会長にまで顔色について言及されるとは思わなかった。なんて私の驚きをよそに会長はソファーに座らせてもらった私の後ろに突っ立っている蒼依に声をかけていた。


「おい。別に写真は今日中じゃなくてもいいんだよな?」


「大丈夫っすよ。でも、いいんですか?」


「雪城が居ないなら、お前も写真は撮らないだろう? それなら、お前が此処にいる必要はないから仕事は捗る」


「まぁ。瑠璃さんが居ないなら集合写真は撮れませんけど、プライベート写真は撮れますよ?」


 なんか、蒼依の態度にひっかかるな。さっきから、やたらと会長が苛立つような物言いをしている気がするんだが。会長が蒼依を嫌いなのは知ってたけど、蒼依も会長のこと嫌いだったっけ?


「あら? それは無理よ。だって、皆、瑠璃ちゃんが心配で普段通りなんて出来ないもの。それに、瑠璃ちゃんが帰るなら凪ちゃんも帰るでしょ? メンバーが2人もかけたら生徒会とは言えないわ」


「…………本当に馴染んでるんだな」


「蒼依? どうかしたのかい?」


「いや。何でもねぇよ。それじゃ、俺も瑠璃さん達と一緒に帰ろうかなー」


 茜先輩の言葉にぼそぼそと呟いた蒼依を水瀬は気遣わし気に見ていたが当の本人はあっさり気持ちを切り替えたようだ。理由は分からないが、蒼依は私が生徒会に馴染むのが面白くないらしい。まぁ。だからどうという話でもないのだがな。



「私が帰るのは決定事項なんですね……」


「当然だろう。会長命令だからな」



「…………そうですか」


 久しぶりに『王様』らしい生徒会長を見た気がする。最近は苦労人枠を確立していたからな。


けいの物言いはどうかと思うけれど、アタシも瑠璃ちゃんは帰った方がいいと思うわ」


「はーい! 僕も、瑠璃先輩は帰った方がいいと思う!」


「おっ、俺も家で休んだ方がいいと思います。あ、あの、今は凄く忙しいわけじゃないし、休めるうちに休むのも大事だと……」


 悪い意味ではないが猛烈な帰れコールを浴びせられた。烏羽からすば先生以外の全員に言われた以上、大人しく帰った方がこの場はいいかもしれないな。

 普通の人には分からないだろうけど、烏羽先生は烏羽先生で目で「帰って休め」と語りかけてくるし。


「瑠璃ちゃん。皆もこう言ってるし、今日は帰りましょ。あっ、何かあったら心配だから泊まらせてもらうわね」


「分かった。今日は大人しく帰る。でも、凪ちゃん、泊まりに来ちゃっても大丈夫なの?」


 凪ちゃんが泊まってくれるのは非常に嬉しいが基本的にお泊まりは週末と決めているので水瀬の連中が家出だなんだと騒がなければいいんだが。


「祖父には僕が伝えておくから問題ないよ。雪城さんの為だって話したら誰も文句言えないからね」


「まぁ。水瀬家にとって瑠璃さんは大恩人と言っても過言ではないしな」


「そういうことだね。だから、今日はゆっくりしてくれた方がありがたいんだよ。雪城さんにまで何かあったら、今度こそ見限られかねないしね」


 穏やかに笑いながらも水瀬の内心は複雑だろうな。実際、去年例の事件の時、水瀬は跡取りから外されかけてたし。まぁ。水瀬を外すと他に継ぐ人間が凪ちゃんしか居なくなるので、仕方なく水瀬を跡取りにしてるような状態だったりする。

 別に凪ちゃんが跡取りに相応しくないから水瀬で妥協しているとかではなく、凪ちゃんが水瀬家に引き取られたせいで色々苦労してるのに、その上、跡取りとしての重荷を背負わせるわけにはいかないという凪ちゃんへの配慮だ。


「それは、俺にも言えることだな。生徒会長でありながら、たった数名しかいない役員の体調に気を配れないとは何事だと、どやされかねん。みどり深尋みひろにも何かしらの小言は言われるだろうしな」


「でしょうね。翠先輩も深尋先輩も瑠璃さんのこと気に入ってますし」


 会長が顔をしかめながら言った言葉に蒼依は納得したように頷いている。


「そういえば、雪城さんって姫倉ひめくら先輩にも結構気に入られてるんだったよね?」


「あー。胡桃くるみ先輩の場合は大熊おおぐま先輩との恋愛相談を一年の時にうけてたんですよね。それで、まぁ。ちょっとしたアドバイスをした結果、上手くいったらしくて気に入られたわけです」


「ああ。そういえば、胡桃ちゃんもそんなこと言ってたわね」


「何か意外だなぁ。瑠璃先輩って恋愛相談にのったりするんだね~」


「もっ、萌黄もえぎ失礼だろ!」


 龍崎は慌てているが、橘の言うことはごもっともである。私自身背に腹はかえられないとはいえ似合わないことをしたと思っていたのだ。


「まぁ。恋愛相談というか価値観の違いを指摘しまくったって感じですけどね」


「ああ。なるほど。内部生のお嬢様と外部生じゃ価値観違うものね」


「そうなんだよ。だから、アドバイスって言っても、何かある度にブランド物を貢ぐのをやめろ程度のものだったんだよね」


「そういや、俺も大熊先輩に高価な物を渡されそうになったときの断り方とか聞かれたかな」



 外部生組としては内部生との価値観の違いに一度は悩むものだ。蒼依の場合、昔から良いところの坊ちゃまだったが、小中が公立だったから周りの友人にあわせた金銭感覚持ってるんだよね。しかし、大熊先輩はどうして蒼依に相談したんだろうな。


「蒼依って、大熊先輩と親しかったっけ」


「ああ。あの人、柔道部の副部長だからな」


「ああ。そういえば、そうだったね。体育委員長ってイメージが強くて忘れていたよ」


「まぁ。颯達と関わるときは、体育委員長としての立場だろうし」


 そういえば、大熊先輩は部長会に入る可能性もあったんだよな。もし、部長会に入っていたら、周りが女ばかりという環境に身をおかずにすんだだろうに。


「委員長と言えば、瑠璃ちゃんって翠ちゃんや深尋ちゃん、胡桃ちゃんとは仲がいいのに、同学年の子との話はあまり聞かないわね」


「そういえば、そうだな。藍川あいかわ夢宮ゆめみやとは、どういう感じなんだ?」


「どういう感じとは?」


 会長の質問に首を傾げる。そんな質問をする必要性が分からない。


「仲良いか良くないかなら、どっちでもないわよね。まぁ。私もだけど」


「凪ちゃんの言うとおりだね。親しくなる理由もないし」


「そうは言うけどね。来年は僕達が中心になるんだから、少しは歩み寄ってくれないかな?」


 歩み寄るとか、まるで此方が避けているような物言いはやめて欲しいものだ。単純に接点がないのだから仲良くなりようもないだろうに。まぁ。積極的に近づかない理由もあるけど。


「下手に仲良しこよしにしてた方が色々問題ありません?」


「瑠璃さんの言うとおりだな。生徒会と特別委員会が仲良くしすぎると、いざという時に困るし」


 部長会は中立組織なので、生徒会と特別委員会は微妙な距離感というか、少しだけ緊張感のある距離感でいて欲しいんだろうな。癒着とか洒落にならないし。


「それに、蒼依の取り巻きだから面倒くさいんですよね。柚木ゆずき先輩達は良識がありますけど、あの2人はそういう点について、甘いというかなんというか」


 性格的にあの2人は微妙に分別がなさそうだし、藍川も夢宮も会話が面倒くさそうで話す気にならないんだよな。


「あー。確かに、翠や深尋と比べると公私混同しそうではあるな」


「まぁ。ぶっちゃけ、そうですね。あと、蒼依について聞かれそうで嫌なんですよね」


「なるほどな」


 会長がうんうん頷くのを見る限り会長にも私と同じように見えているようだ。そう、あの2人はなんとなく恋のせいで周りが見えなくなりそうなのだ。それこそ、憧れて盲目になった朽葉くちはみたいに。


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