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シン華物語Ⅱ(最強魔王は誰?)  作者: ゆず華


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第8話 米粉プリン

『合同会社SINQ』が所有する巨大倉庫。

発注をかけた商品の一角には、大人気炊飯器と十キロ入りの米袋が数十組、山のように積み上げられていた。


その様子を眺める一華の腕の中で、息子の龍輝が「キャッキャ」と無邪気に手を叩いて喜んでいる。


「お米も魔界全土で売るの?」


一華が不思議そうに問いかけると、シンは穏やかな笑みを浮かべて頷いた。


「あぁ、冷凍おにぎりを自分たちでも作れないかと要望が上がってきてな。とりあえず炊飯器千台、米を千袋発注した。」


「えっ、そんなに発注して陽の国の米価が上がったりしない?」


「総理大臣には伝えてある。増産して米価を安定させろと。余剰分はすべて俺たちが買い取る手はずだ。」


龍輝が一華の腕の中で「キャッキャ」と手を叩いて喜び出した。


「備蓄米を回されているんじゃないの?」


シンはそう言われると、手元にある米袋の精米年月日を確認した。


「テレパシーを送った以前の日付だ。新米か前年度産米に限定させたうえ、備蓄米は米粉や麺などの転用に回せと忠告しておいた。今後も大丈夫だ。」


「なるほどねぇ……。米粉は見たことあるけど、お米の麺って外国の食材かと思ってた。」


「言ってはみたものの、米粉はどう料理するんだ?」


「麺以外なら、米粉パンとか天ぷらとかは聞いたことはあるけど……うちでも取り扱えないか調べてみるか……。」


一華はシンたちの作業を見つめながら、ぽつりと呟いた。



◇◆◇



シンたちの作業を終え、六人は『シン華の家』へと戻ってきた。

龍輝をサークル内に下ろすと、一華はすぐにスマートフォンを取り出し、『米粉レシピ』と検索をかける。


「パンだけでなく、ケーキやお好み焼きにも小麦粉の代わりに代用できるんだ……。プリンも作れるって。」


「プリン?」


シンの耳がすばやく反応する。


「うん、玉子の代わりに米粉を使うの。しかも、小麦粉の代わりに米粉を使ったスイーツは『グルテンフリースイーツ』になるんだって。米粉プリン、龍ちゃんたちのおやつにもいいかも!」


「『フロールナ・シリーズ』に新たなスイーツを追加させるのもいいな。」


シンの口角がスッと上がった。すっかり代表としての判断モードである。

シンの指示でレオナルドが近くのスーパーへ米粉を買いに出掛けて行った。


「『米粉プリン』ってスーパーで見かけないから食べたことないけど、ミルクプリンみたいな感じかな?」


一華がそう呟きながらレシピを確認していると、いつの間にか小さな天使のような龍輝がふわりと浮遊しながら近づいてきている。まるで背中にはパタパタパタと小さな音が聞こえてきそうな羽がはえているかのようだ。

そのまま一華の胸にピトッと張りつき、冷蔵庫を指さして「あっあっ」と催促する。


「龍ちゃん、まだ何もないよ。」


それでも龍輝は、冷蔵庫への指さしをやめない。困った一華は、すぐに食べられるバナナを少し潰して食べさせることにした。

バナナを口に入れるとようやく大人しくなった龍輝をサークルに下ろし、一華はふぅと深く腰を下ろした。


「ふぅ……龍ちゃん、最近重くなったよね。歩かないとおデブちゃんになっちゃうよ。」


その言葉を聞いた瞬間、龍輝はすっと立ち上がったかと思うと、目にも留まらぬ速さでサークル内をぐるぐると走り出した。


「ちょ、ちょっと、龍ちゃん!?」


パソコンに向かっていたシンの視線が、驚きと共にサークルへと向けられる。


「龍輝はもう走れるようになったのか!」


「えー、この前、ようやく立ちだしたばかりだったよね。しかもよちよち歩きだったのに!?」


「……魔力で走っているな。」


「龍ちゃん、魔力使わないの!」


一華が強めに注意すると、龍輝はピタッと走るのをやめ、一華の前にトコトコと歩いてきて「ぶー」とふくれっ面を見せた。


「えっ? 私、怒られた?」


「そうみたいだな。」


「龍ちゃん、怒らないの。自力で走るの。いい? わかった?」


「ぶー」


「ははは、初めて魔力を止められたから怒っているみたいだな。」


シンが面白そうに分析して笑う。一華は堪らず、近くにいたアーリンに尋ねた。


「レイ君は走る?」


「いえ、私たちに向かってくるときに少し走ろうとしますが、一人では走って止まることができません。一人歩きしていてもよく尻もちをつきます。とっても危ないです。」


「そうだよね! それが普通の発達の順番だよね!?」


そこへ、レナルドが米粉を手に戻り、一華へ米粉を手渡した。シンはレオナルドに尋ねる。


「レイモンドは魔力を使えるのか?」


「いえ。多少、人間界の子供より発達は早いようですが、魔力を解放している状態を見かけたことがありません。」


レオナルドが答えると、一華がハッとしたように呟いた。


「体幹や筋力が発達していない状態で、魔力で補助しても大丈夫なのかな?」


「いや、逆だな。体幹や筋力が発達しているから、魔力でそれ以上のことができるんだ。」


「えっ、ということは……赤ちゃんを装って、わざと歩かなかったり走らなかったりしてたってこと?」


「そういうことだな!」


その言葉に、龍輝は手を叩いて「キャッキャ」と嬉しそうに笑った。


「そのようだね……。」


一華は、龍輝のすっかり猫を被ったような態度に肩を落とし、愛猫のサンに顔を向けた。


「サンちゃん、教えてないよね?」


「にゃんにゃん……(俺は教えてにゃいにゃ)」


「いや、サンの一華に対する甘え方を参考にしたのだろう。」


「龍ちゃんは猫じゃないんだから、いくらサンちゃんがお兄ちゃんだからって参考にしなくていいのに……。むしろ、レイ君を参考にしてほしいよ。」


「ぶー」


龍輝がきっぱりと拒否のポーズをとる。


「初めてだな。龍輝が拒否したのは。」


「ねぇ、滑り台とかジャングルジムとかブランコ、三輪車とかの遊具を用意すれば遊びだすかな?」


一華は、年齢相当の遊びではもう龍輝が満足できないのではないかと察して提案した。


「なるほどな。だが、この部屋の広さでは限界だな。リフォームするか。」


シンがそう呟いた瞬間、部屋の空気が一変し、強い光が放たれた。


全員が思わず眩しさに目を閉じたが、恐る恐る目を開けると、そこには魔界の『SINQstore』と同じ広大な仮想空間が広がっていた。


「はっ?」


龍輝は「キャッキャ」と手を叩いて大喜びしている。龍輝が空間拡張の魔力を解放したのだ。

シンは驚くことなく魔力を解放し、一華が口にした遊具の数々を部屋いっぱいに具現化していった。



この広大なリビングの一角を遊び場にしつつ、キッチンでは、さっそく一華とアーリンが米粉プリンの試作に取り掛かる。


レシピを見ながら鍋に米粉と牛乳を入れ、ダマがなくなるまでよく混ぜてから、弱火でとろみがつくまで絶えずかき混ぜる。『とろっ』としたプリンの素を、久しぶりの出番となった耐熱ガラス製のプリン容器に流し込み冷蔵庫へ。次に、甘味料としてメープルシロップを入れたバージョンも同じ要領で作り、甘味料なしのものと区別できるよう、しっかりと印をつけて冷蔵庫へと並べた。



その頃、広大な仮装空間では――。


「ルールを設定する。ここに入って遊ぶ場合は『魔力を一切使わない』。守れるなら自由に遊べ。」


シンがピシッとルールを告げると、龍輝がまたしても「ぶー」と不満そうな声をあげる。


「龍輝、守れないならここのおもちゃとゲームは使えない。いいな? お前が広げた空間だから歩くのは自由だ。だが、おもちゃやゲーム機はパパが設置した。パパが決めたルールを守れなければ遊べないぞ。」


「ぶ……。」


しかし、シンに諭されて納得したのか、龍輝はトコトコと自分の足で歩き、サンが遊んでいる滑り台へと向かった。その後をレイモンドが一生懸命に追いかけていく。


「これでようやく人間界の子供と同じように遊びだすだろ。」


レオナルドが我が子の微笑ましい姿に目を細める一方、シンは事務所スペースやキッチンのどこからでも目に入る位置に大型モニターを追加し、おもちゃコーナーのカメラ映像をリアルタイムで映し出した。



◇◆◇



「じゃぁ、二人が遊んでいる間に、試作品の味見でもしてみようか。」


一華は、まだ商品化前の米粉プリンを二種類、それぞれ二個ずつ持ってテーブルに戻ってきた。


「まずは甘味料なしのプレーンタイプね。お米と牛乳のそのままの素材の甘みだけ。」


夫婦で一つのプリンをシェアし、スプーンで掬って口に運ぶ。


「んー、もちもちでとろりとした食感が普通のプリンと違うね。甘みは自然で素朴って言うのかな……。龍ちゃんくらいからのおやつに良さそう。大人には甘みが足りなければ、シロップを掛ければいいかも。」


「食べられなくもないが、大人には少し物足りないな。」


シンとレオナルドにとっては、プレーンでは物足りないらしい。


「じゃあ次は、甘味料としてメープルシロップを入れたものね。」


同じように一口運ぶと、一華の表情がパッと明るくなった。


「上品な甘さだね。メープルプリンの食感をもちもちっとさせた感じかなぁ。」


「あぁ。これならみりんシロップのバージョンも作ってもいいかもな。」


シンの目が鋭く光る。


「味が素朴だから、いろんなフレーバーを混ぜ込んでもいいんじゃない? 抹茶とかココア、それにチョコとか!」


「うわぁ、全部食べてみたいです。」


アーリンの目がキラキラと輝いていた。

しかし、シンの表情が急に真剣になり、深く考え込み始める。


「種類を増やしては、一日中プリン作りに取りかからねばならぬ……。いっそ、工場でも作るか?」


「へっ? 工場?」


「あぁ、一つの味ごとに自動でプリンの素を作る。鍋に自動かき混ぜ機能を追加して……よし、自動化ラインを組もう。」


シンが龍輝に声をかけると、龍輝は「キャッキャ」と手を叩いて喜び、キッチンの空間がさらに変化した。背後にあったカウンターの配置が変わり、見事な全自動プリン製造工場が現れた。


「ちょっと待って、そんなに簡単に作っちゃって大丈夫なの?」


さらに一華から、衛生管理として調理服の着用や埃の徹底排除することが伝えられる。


「服装や衛生面も完璧にしないとね。部屋を清潔に保つために、調理スペースはしっかり独立させてね。」


「それなら、部屋に入らず外から魔力で材料の計量やカップ充填を行い、そのまま冷蔵庫に収めれば、一切の衛生管理もクリアできるな。」


「それ、シンにしかできない荒技だよね……確かに安全だけど、外から作ると中が見えないよ? それに、『フロールナ・パワー』を注入するタイミングがなくなるよ……?」


「粗熱を取って、蓋をする前に注入しているんだったな?」


「うん。」


「そのタイミングになったら呼ぶ。一華も外から『フロールナ・パワー』を注入してくれ!」



◇◆◇



翌朝。

離乳食とは別に、龍輝とレイモンドの二人に米粉プリンのプレーンタイプが与えられた。


「はい、龍ちゃん。あーん」


「あむあむ……」


「美味しい?」


「あっあっ!」


龍輝は一華にプリンをねだるように大きく口を開けた。とろりとした食感と優しい甘みがすっかり気に入ったようだ。


「龍ちゃんは気に入ったみたい。レイ君はどうかな?」


「はい。レイモンドも気に入ったようです。」


一華は、レイモンドの夢中な食べっぷりに目を細めた。


「ふふ、そのようだね。」


一華の頭には、プレーンタイプのトッピング用として、少量パックの黒蜜やきなこ、チョコレートシロップなどをセットで紹介するチラシのアイデアが浮かんでいた。


一方、シンは商品の顔となる封緘シールのデザインに頭を悩ませていた。


「とりあえずプレーンをメインにして、トッピングの紹介チラシを配れば好きな味付けにできるでしょ。あとは、メープルシロップとみりんシロップは採用するとして、他は季節限定とかでたまに作ってみたら? 」


一華のアドバイスに、シンも「それだな」と納得の表情を浮かべる。



◇◆◇



後日、米粉プリン専用の容器が納品され、早速、プリン工場での試作に取り掛かった。

一華のレシピを参考に、シンはプリン工場の外から魔力を解放して米粉と牛乳を計量し大鍋に入れた。大鍋には弱火でかき混ぜる機能が自動化されている。


しかし、最良のタイミングはシンが魔力で判断するしかない。


「……一華、プリンの素の状態を目視で確認できない状況でどうやって判断すればいいんだ?」


「ふっ、だよね? まずはつきっきりで確認して時間を設定すればいいんじゃない?」


一華の指摘に、シンは苦笑しながら頷いた。


「……大鍋の中が確認できるように監視カメラを付けて、キッチンで確認できるようにしよう。」


シンは魔力を解放し監視カメラを追加し、工場入口近くの壁にモニターを取り付けた。


「これで完璧だ。」


一華はモニター越しにプリンの素の状態を確認する。

数分後、プリンの素にとろみが出てきだした。


「あー、そろそろいいかも。」


シンは一華の合図で魔力を使い大鍋のスイッチを切る。かき混ぜ時間と状態を頭に叩き込んだ。

大鍋からプリン容器へと充填するまでの工程に取り掛かった。プリン容器を定位置へ配置すると、プリンの素が注ぎ入れられ、一か所に集められてアルミホイルを被せ粗熱を取る。


そのまま、三十分程度放置すると、シンは一華を呼び寄せた。


「一華、『フロールナ・パワー』を注入してくれ!」


一華は三日月のステッキを手に、「このプリンを食べると心が浄化される。ピュリファイ、ピュリファイ、ラララララ、フロールナ・パワー」と言いながら、プリンに向けて振りかざし魔力を込める。


一華の魔力注入が終わるとシンが蓋をして封緘シールを貼り、冷蔵庫で冷やし固める。


「ふー、終わった……。」


「ねぇ、魔力でプリン作るのって大変じゃない?」


「思ったより大変だな。普通に調理する方が簡単だな。だが、かき混ぜ時間が判明したから次からは自動化される。安心しろ。」


こうして、龍輝たちの元気な笑い声と、家族みんなのアイデアが詰まった『米粉プリン』は、無事に新たな定番商品の第一歩を踏み出したのだった。

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