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シン華物語Ⅱ(最強魔王は誰?)  作者: ゆず華


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第6話 原点回帰

南の脅威がいくらか遠ざかり、つかの間の平穏を取り戻したかのように見えた国際情勢は、しかし、新たな火種によって再び不穏なきしみを見せ始めていた。


『陽の国への旅行自粛』そして『希少金属の輸出停止』。


南国(ナンコク)が突きつけてきたのは、一方的かつ露骨な強硬姿勢だった。


その影響は瞬く間に現実のものとなる。南国(ナンコク)からの旅行者は激減し、国内に滞在していた南国(ナンコク)人たちも早々に引き上げていった。


しかし、それ以上に深刻だったのは、ハイテク製品の製造に不可欠な原材料の枯渇である。突如として手に入らなくなった希少金属に、陽の国の国内企業からはすさまじい悲鳴と突き上げが上がった。


慌てて代替の調達先を探そうとも、人間界の輸出市場で大半を占めていた南国(ナンコク)以外のルートを、今さら急ごしらえで見つけるなど至難の業に等しい。

これまで南国(ナンコク)に過度に依存し、他国とのパイプ開拓を怠ってきたそのツケが、最悪のタイミングで一気に回ってきたのだ。


諸外国と慌ただしく協議を重ね、新たな供給ルートの確保に奔走するものの、一朝一夕に間に合うはずもない。国内の製造業は、かつてない深刻な遅延に見舞われ始めていた。


「このままでは、魔界にも支障が出るな……」


事態を重く見たシンは、静かに目を閉じると、再びあの男――総理大臣の脳内へとテレパシーを飛ばした。


――《我々が、何とかしてやろうか?》


誰もが寝静まった深夜、総理大臣の脳裏に低く冷徹な声が響き渡る。

ハッと跳ね起きた総理大臣は、暗闇の中で静かに口を開いた。


「……希少金属を、用意することができるのか?」


――《あぁ、ただし、条件がある》


「条件とは何だ?」


――《南国(ナンコク)との国交を断絶せよ。あの国は陽の国のことを目の敵にし、さらに下に見てるではないか。旅行者のマナーも最悪だ。あいつらがいなくなれば、観光地も正常化するだろう。》


「だが、こちらから一方的にそんな宣告をすれば、再び激しい挑発行為が起きるのではないのか……?」


――《宣告する必要はない。今のうちに、黙って南国(ナンコク)の拠点をすべて廃止し、国内へ回帰せよ。国内の生産力を上げ、求職者を減らせ。南国(ナンコク)人の勝手な進出を徹底的に阻止しろ。》


「しかし……、少し検討を……」


――《このままでは、南国(ナンコク)人にこの国を乗っ取られるぞ。現に、重要な不動産が買い占められているではないか。今ここで手を打たなければ、陽の国は確実に衰退する。》


それだけ一方的に言い残すと、シンはぷつりと通信を断った。



翌朝。

総理大臣は経済大臣をただちに官邸の奥へと呼び出した。側近すらも全員退室させ、厳重な警戒の中で昨夜起きた出来事を詳細に語って聞かせる。


しかし、常軌を逸したその話を信じられるはずもない。困り果てた総理大臣は、かつて西のミサイルを爆発させ、南の脅威をねじ伏せた『あの時の存在』であること、さらには防衛省の別班の動きまでをも、包み隠さず明かすほかなかった。


「……なっ……! 知らぬ間に、そんな国家の危機が……。」


「信じられないのも無理はない。だからこそ、これまで極秘裏に進めてきたのだ。今回も極秘裏に動く。南国(ナンコク)へ進出している企業を国内回帰させ、不動産の購入は自国民のみに制限するよう法整備を進めろ。」


「ですが……総理、企業を納得させるにはどうすれば……いまの話をそのまま説明するわけにもいきませんし……。」


「そうだな……。目の前に『希少金属』でもぶら下げるか。国内回帰すればそれを優先的に売り渡すと言えば、企業は否応なしに動くだろう。」


「不動産規制は法務省の管轄になりますが……この件、どこまで共有すべきでしょうか。」


「外務大臣と法務大臣を含め、早急に極秘の臨時閣議を開く必要があるな。」



◇◆◇



総理大臣の緊急の指示により、各閣僚たちは側近すら伴わず、人目を忍んで官邸へと集められた。


はじめは映画のワンシーンでも見ているかのような、どこか現実味のない顔をしていた大臣たちも、防衛大臣から語られる闇組織の別班の実態や、西国(シャーコク)・南国(ナンコク)の具体的な実例を聞かされるうちに、青ざめた顔で冷や汗を流し、信じざるを得なくなっていった。


今までのシンの見返りは、あくまで商品の卸値での取引だった。しかし今回は、民間企業や国民全体を動かさなければならない。一朝一夕にはいかない大事業である。


「ですが、もし本当に希少金属が安定して入手できるというのなら、南国(ナンコク)からの撤退など企業にとっても渡りに船なのでは?」


「国内回帰する企業には手厚い補助金を出し、国内に工場を建てさせましょう。」


「働く場所が新たに建設されれば、雇用の創出にもつながり税収も増える。」


「そもそも慢性的な人手不足ですが……」


「そこはロボット化や自動化を進めればいい。体力勝負の現場から脱却し、女性やシニア層でも働きやすい環境を整えれば、フルタイムにこだわらなくとも十分な労働力は確保できます。」


閣僚たちからは次々と現実的かつ前向きな意見が飛び出し、共通の脅威を前にして、方向性は瞬く間に一致していった。

中には、「無心する他国を頼るより、その声の主の言う通りに従う方がよほど安全だ。」と、深い安堵すら滲ませて漏らす者もいた。


「しかし……その声の主は、次はもっととんでもない要求をしてくるのではないですか?」


「いや……。『この国が豊かになり、その恩恵に与ればいいだけ』と言うくらいだ。陽の国の国益を損なうような無理難題は吹っかけてこないはずだ。」


「一体、何者なんだ……その声の主とやらは……。」


「わからん。脳内に直接響いてくること自体常軌を逸しているが、間違っても正体を暴こうなどとしてはならない。下手に刺激すれば、この国がなくなると心得よ。」


異論を挟む者は誰一人いなかった。極秘裏に行われた臨時閣議は、要求された政策を全速力で実行に移すという揺るぎない結論をもって幕を閉じた。



◇◆◇



そして、その日の深夜。再び総理大臣の脳内に、あの低く冷徹な声が響いた。


――《どうだ、話はまとまったか?》


「……臨時閣議を開き、貴殿の望み通り、企業の国内回帰と法整備を進めることにした。……本当に、希少金属は用意されるのだろうな。」


――《あぁ。必要な希少金属のサンプルを届けてくれ》


「わかった。商品の配送と一緒に届けよう。」


――《買取金額は南国(ナンコク)と同額にしてやる。それと、希少金属の調達が可能になったことは諸外国には絶対に秘密だ。万が一でも漏れたら、代金の百倍を請求するからな。》


「ひゃっ……百倍……!? 決して、決して漏らしません……!」



◇◆◇



翌日、精錬済みの極めて純度の高い希少金属が、厳重に密閉された専用の冷暗コンテナに積まれて届けられた。シンはその場で魔力を解放し、コンテナいっぱいの希少金属を瞬時にコピーして複製を完了させる。翌日、回収にやってきたトラクターヘッドは、お宝がぎっしりと詰まったコンテナをけん引し何食わぬ顔で走り去っていった。



◇◆◇


その日の深夜。シンは再び総理大臣の脳内へとテレパシーを飛ばした。


――《どうだ。品質に問題はないはずだ》


「……間違いなく、最高品質のものだ。代金の振込先を指示してくれ。」


――《コンテナにそのまま積んでくれ。》


「法的にそれはできない。セキュリティの観点からも、現金輸送車か銀行振込のどちらかで……。」


――《なら、商品代金と相殺しろ》


「……わかった。」


――《今のうちに、自国内で完全に調達・生産ができるよう整備を進めておけ》


シンはそれだけ言い捨てると、一方的に通信を切った。その手腕は、さながら世界を裏から牛耳る真の王そのものであった。




総理大臣の指示のもと、政府は南国(ナンコク)へ進出していた各企業のトップを極秘裏に呼び出し、国内製造へと回帰するよう厳命を下した。




一方、陽の国を敵視する外国人の入国は完全にシャットアウトされ、すでに滞在していた者たちも早々に出国措置が取られた。観光地で迷惑行為を繰り返していた外国人観光客も一掃され、街には穏やかなマナーの守られた空間と、国内旅行客たちの活気が見事に戻ってきたのだった。



水面下では南国(ナンコク)の工場が一斉に縮小・解体され、駐在員たちも全員帰国させられていく。

『歴史的な円安によって事業継続が困難になった』という表向きの理由のもと、日本が誇る圧倒的なものづくり技術は海外ではなく国内へと回帰し、結果として国益をもたらす最高の転換点となっていったのだった。

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