↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シン華物語Ⅱ(最強魔王は誰?)  作者: ゆず華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/54

第37話 龍神【中編】

魔界の西、ドラゴンの生息地手前の境界地上空へと、テレポートしてきたシンと龍輝、そしてペガサス・サン。

シンは隠蔽と結界の魔力を最大限に解放し、上空のドラゴンたちから完全に姿を隠した。


「龍輝、浮遊させられるか?」


父親の問いかけに、龍輝は「うん!」と小さく頷き、西の大地に向けて両手をしっかりと突き出した。


瞬間――。


龍輝の小さな手のひらから、淡く神々しい光が溢れ出た。次の瞬間、広大な土地にいる無数のドラゴンたちまでもが、その巨体ごとふわりと宙へと浮き上がっていった。


あまりの出来事に、我が子を護ろうとするドラゴンたちがパニックに陥り、大空で激しく鳴き声をあげる。


シンは遠視の魔力を研ぎ澄まし、浮遊する無数のものの中から『白い卵』を探し出す。しかし、そこにあるのは小動物ばかりで、探しているシンプルな『白い卵』は見つからない。


「龍輝、ここにはない。移動するぞ。」


シンの合図で、龍輝が浮遊の魔力をそっと解除した。目の前で浮いていた小動物や卵が、元の場所へとゆっくりと舞い降りていく。小動物たちは草むらへ慌てて逃げ込み、パニックだったドラゴンはすぐに卵をしっかりと抱え込んだ。


シンはテレポートでさらに南へと移動する。龍輝は同じように浮遊の魔力ですべてのものを空中に浮かび上がらせ、シンが遠視で探す。小さな爬虫類や鳥類の卵は見つかるものの、大きな龍の卵の姿はない。


南の端を通り過ぎ、北上すること数回――ついに、探していた『白龍の卵』がふわりと浮遊してきた。



「龍輝、見つけたぞ!」


シンの声に、龍輝は額にうっすらと汗を浮かべながらも、キッと強い眼差しで頷いた。


シンが『白龍の卵』に向けて隠蔽の魔力を重ねると、龍輝が鮮やかなコントロールで、『白龍の卵』をスルスルと手元へと引き寄せる。


あまりの大きさに、龍輝の小さな体がすっぽりと隠れてしまいそうになるが、彼は懸命に両手でそれを抱え込み、「ふぅ……っ」と小さく息を吐いた。


その小さな背中と驚異的な魔力の使いこなしぶりに、シンは我が子の頼もしい成長を実感し、そっとその頭を優しく撫でた。そのあと、すぐさま大きな布を具現化し、『白龍の卵』を優しく包み込むと、龍輝の体にしっかりと結びつけた。


その頃、温めていたはずの卵が突如消えたことで、一匹の水色のドラゴンが目の前でパニックを起こしていた。


「ピキュー、ピキュー……!」


我が子を探すその鳴き声は、あまりにも悲痛で、聞く者の胸を締め付けた。龍輝は不安そうにシンの顔を見上げる。


「パパ、これ、返したほうがいいの……?」


「……いや、孵化してもドラゴンは生まれてこない。可哀想だが、これは本来の持ち主である白龍へ返す。」


これ以上ここにいても自分たちにできることはないと、シンは東の生息地へ向かおうとしたが、ふと足を止めた。


――《白龍の卵を奪ったのは、なぜだ?》


シンは、卵を探してうろうろとするドラゴンに向けてテレパシーを放った。

ドラゴンはハッとしてシンたちのほうを向いたが、そこには誰の姿も見えない。困惑しながらも、宙に浮いていた体を地上へと下ろした。


――《……我が子の代わりだ。》


――《その我が子はどうしたんだ?》


――《龍に奪われた……。》


――《なんだと。先に仕掛けたのは龍のほうだと……。何色の龍だ?》


――《黒龍で、目が異様に真っ赤だった気がする……。》


――《それはいつ頃の話だ?》


――《三日ほど前だ……。》


――《卵はどんな模様をしていた?》


――《白地に、水色の水玉模様だった……。》


――《そうか……。この白龍の卵を返すことに、異論はないな。》


――《悪かった……。謝っておいてくれ……。》


水色のドラゴンはトボトボと肩を落とし、踵を返して去っていった。

シンは深い息をつき、東の龍の生息地手前の境界地へとテレポートした。



◇◆◇



東の龍の生息地手前の境界地上空。

シンは龍に向けてテレパシーを送った。


――《白龍殿、卵を取り返してきたぞ。》


東の空から、一匹の白龍が大空を縫うようにして、シンたちのもとへと急接近してきた。


シンは卵を包み込んでいた布を龍輝の体から外し、龍輝が再び浮遊の魔力を解放した。龍輝の小さな手のひらから、淡く神々しい光が溢れ出た瞬間、『白龍の卵』を上空へとふわりと浮かび上がらせた。

白龍は我が子を見つけると、愛おしそうに両手でしっかりと抱き締めた。


――《卵を奪ったドラゴンが、悪かったと謝っていたぞ。》


――《あんな所業をしておいて、許せとでも言うのか!》


白龍は凄まじい怒りを露わにする。


――《だが、先に手を出してドラゴンの卵を奪ったのは、そちらの仲間らしいぞ。》


――《俺たちの仲間で、そんな手を出した奴がいるというのか?》


――《黒龍だそうだ。赤い目をしていたらしいが、そいつはどこにいる?》


――《黒龍は北を生息地としているが……赤い目をした奴など、我が一族にはいないはずだ。》


――《どういうことだ? 龍ではないということか?》


――《……卵を奪い返してくれた礼だ。これをやる。》


白龍の手にある『白い宝玉』をシンたちに向けて見せた。


――《その『白い宝玉』には、何のいわれがあるのだ?》


――《我ら白龍には『金運』や『良縁』のほか、心身や場のエネルギーを清める『浄化』の力がある。この卵を取り戻してくれた息子への礼としてこれをやろう。……いや、むしろそれを使って、あの悪事を働く黒龍を浄化してくれ!額めがけて投げつければいい!》


そう告げると、白龍は片手で掴んでいた『白い宝玉』をこちらへと押し出した。龍輝は三度(みたび)、浮遊の魔力を解放し『白い宝玉』をするすると手元へと引き寄せ、不思議そうに見つめる。


白龍は我が子を抱えたまま、元のねぐらへと力強く帰っていった。

魔界にも夕暮れが迫り始めており、黒龍を探すのは翌日に持ち越すことにして、シンたちは人間界の『シン華の家』へと戻った。



◇◆◇



『シン華の家』に戻り、ペガサス・サンからシンと龍輝が降りるなり、サンは元の黒猫の姿に戻った。一目散に一華の足元へ駆け寄り「おやつくれ!」と激しく催促した。

相当体力を消耗したのだろう。一華が慌てて猫缶を食器に移し替えると、サンは夢中になってガツガツと食べ始めた。


「随分と時間がかかったみたいだけど……龍ちゃんが持ってるその綺麗な玉は、もしかして白龍の卵?」


「いや、白龍の卵は無事に本人へ返してきた。これはそのお礼にといただいた『白い宝玉』だ。」


シンは、ドラゴンの卵を黒龍が奪ったせいでドラゴンが白龍の卵を奪う連鎖が起きていたこと、その黒龍が赤い目をして北に生息していること、そして白龍から「浄化してほしい」と頼まれてこの宝玉を受け取った経緯をすべて説明した。


「赤い目をした黒龍……ってことは、もしかして何かに肉体を乗っ取りでもされてるの?」


「憑依か……しかし、冥王はすでに討伐されている。一体、誰が何の目的で……?」


「みゃみゃ……(憑依できるのは『霊魂』でちゅ。……ほかには……『神がかり』と呼ばれるものもありまちゅ。)」


「神がかり?」


「みゃみゃ……(『神がかり』とは、わたちのように神の言葉を伝えることが多いでちゅ。悪さはしまちぇん。)」


「なら、やっぱり霊魂か?」


「みゃみゃ……(そう考えるのが一番自然かちょ!)」


「非常に強い怨念を抱いたまま亡くなった霊魂が、魔界に迷い込んで龍に乗り移ったと言うのか……?」


「でも、通常は生まれる時に魂が宿るんでしょ? 神様でもないのに、魔界で憑依なんてできるの?」


「魔界で命を落とした者の霊魂が、冥界へと堕ちる前に龍の肉体に憑依したと考えれば、十分にありえる話だ。」


「今頃、そんな強い怨念を持ったまま亡くなった魔界人なんて……いったい誰の魂なんだろう?」


「義父上に確認してもらうのが一番だな。ちょっと行ってくる。」


シンは再び、魔王ハオの執務室へと単身テレポートしていった。

その間、白龍から預かった『白い宝玉』は、リビングのチェストの上に大切に飾っておくことにした。



◇◆◇



執務室に招き入れられたシンは、白龍の卵の件や黒龍の浄化についてハオに報告した。さらに、黒龍に憑依しているのが怨念を残した者の霊魂ではないかと切り出し、心当たりがないか尋ねる。


「……魔界で怨念を残したまま亡くなった者か……。シン、ついて来い。」


ハオは表情を険しくさせ、シンを伴って魔王城の奥深くへと続く階段を下りていった。


カツン、カツン――。


松明の光すら呑み込むような冷徹な深淵の闇、そして息をひそめる絶対的な沈黙。かつて前魔王が魔力を封じられて幽閉されていた、あの厳重な地下牢の前へと辿り着く。


しかし、錆びついた鉄格子の向こうから感じられるべき気配は、完全に消え失せていた。


魔界の者は、命が尽きて魂が抜けると、肉体の物理的な結合すらも保てなくなり、肉眼では見えない霧状となって自然へと散っていく。そこに肉体が残されていなければ、それは『死』を意味する。


しかし、そこにはかつて使われていた食器や配膳の道具がそのまま放置されていたままだった。


「……まさか。」


ハオの手元がわずかに震えた。


「従者たちはここに足を運ばず、食事ごとテレポートさせていたのだ。最近は食事に手を付けていないという報告は受けていたが……まさか、もうすでに亡くなっていたとは……。死後、魂が成仏できずにあの黒龍に憑依したということか……私の見落としだ。」


地下牢の冷たい空気の中に、ハオの深い後悔の念と、言い知れぬ重苦しい衝撃が重く淀んだ。


「ですが、幽閉されていた当時は、後悔しているとおっしゃっていませんでしたか?」


「あぁ、幽閉された当初は確かにそう言っていた。だが……二十年以上も暗い牢に閉じ込められているうちに、心変わりでもしたのだろう。魔界の龍に憑依すれば、自分なら再び崇められる存在になれるとでも思ったのか……あるいは、ただ我々に見つからず、魔界に留まりたかっただけなのか……。」


「ですが、ドラゴンの卵を奪うなどという問題を起こしていれば、いつか我々に見つかり、除霊されることになるとは考えなかったのでしょうか?」


「……本人に直接聞いてみないと、本当のところはわからんな。」


「では、明日、黒龍のもとを訪ねてみましょう。」


ハオは従者に地下牢の片づけを命じ、重い足取りで執務室へと戻っていった。

シンもまた、胸のざわめきを抑えながら『シン華の家』へと帰還した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。