第13話 秘密の暴露
「「おはようございまーす!」」「まーちゅ」
レイモンドの小さな手を引くレオナルドとアーリンが『シン華の家』へと出勤してきた。
レイモンドがおもちゃコーナーへと向かうと、待ち構えていたかのように龍輝とサンが駆け寄り、瞬く間にリビングは賑やかな朝の光景に包まれる。
だが、今日のアーリンはどこか様子が違った。彼女はバッグから数冊の真新しい本を取り出すと、まっすぐに一華とシンのもとへと歩み寄る。
「シン様、一華様、この本って、ご存じですか?」
「なに?」
差し出された表紙に視線を落とした二人は絶句した。大きく目を見開き、凍りついたように立ち尽くす。シンが、かすかに震える声を絞り出した。
「こ、これは……どうしたんだ?」
「昨日、レイモンドに絵本でも買ってやろうと本屋に立ち寄りまして。その時、大きなポスターが目に留まり……思わず購入してきました。」
アーリンは不思議そうに首を傾げた。
「この主人公たち、シン様と一華様のお名前に似ていますし、お顔も……そっくりなんです。」
「……お前は、もう読んだのか?」
「はい、すべて読みました。」
「……そうか、読んだのか……。」
シンはどっと疲れたように肩を落とす。
差し出された本の表紙には、『シン華物語』のタイトルと、見覚えのある美男美女のイラストが描かれていた。それは、かつて卒業の日に沙羅が出版することになったと言っていた漫画だった。
二人は高校を卒業し人間界を去る時、いつかは読んでみたいとは思っていたものの、結婚して再び人間界に戻り、会社を軌道に乗せるため多忙の日々を過ごすうちに、その存在は頭からすっぽりと抜け落ちていた。
まさか、こんな形で、しかもアーリンたちに見つかろうとは……。
一華は遠い目をして、懐かしい記憶をたぐり寄せるように話し出す。
「私たちもまだ、読んだことがないんだけど……。高校生の時、一つ下の後輩に漫画家志望がいてね。私たちをモデルに漫画を描きたいって言われたから、気軽にOKしたんだけど……。」
「では……これはすべて、本当のことなんですか?」
「モデルにするとは言われたけど、ノンフィクションとは言ってなかったし……、漫画なんだから、多少は創作して盛ってあるはず……よね?」
「……たしか、登場人物の名前は変えるとは言っていたが……。」
シンは、沙羅を面接した時のあの日のやり取りを思い出していた。
「名前は『シンジ』と『仁華』です。お二人の『シン華』という愛称の響きを残すためだけの配慮だったようですね。」
(ふっ、やられたな。シンジはいいとして、仁華は一華が黒猫に変身した時の名前だぞ……。)
出来上がった原稿のチェックを怠り、そのまま出版を許してしまった自分たちの落ち度だ。
今さら言い訳したところで、世に出回ってしまったものは仕方ない。
(一年の頃の私たちを知らない沙羅ちゃんが、一体どうやって描き上げたんだろう……気になる。)
「アーリン、これ、読ませてもらってもいい?」
一華はコミックスを指さしながら尋ねた。
「あ、はい。どうぞ。そのつもりでお持ちしましたので。」
アーリンは小さく一礼すると、レオナルドと共に小型トラックSINQ号に乗り込み、倉庫型スーパーへと買い出しに出かけて行った。
一華はコミックスを手に取り、ソファに腰掛けた。第一巻のページをめくる。
『マカイ国の王子様『シンジ』とお姫様『仁華』が、この国へと留学することになった。婚約者を守るための護衛を『シンジ』の隠れ蓑とし、独身男女の二人暮らしと好奇の目で見られないよう、両親は海外赴任中の兄妹設定として同じマンションで暮らすことにしていた。』
マカイ国は魔界で、従兄同士ということを抜きにしてみれば、まったくバレていたことになる。
一華は「あちゃー」と頭を抱えながらも、先へと読み進めていく。
シンは一華の反応が気になりながらも、一冊しかない第一巻を読み終わるのを待っていた。先に朝の仕事を済ませ、龍輝たちのおやつを用意することにした。
『入学当初の一華とシン。特にシンは一華以外には冷酷な態度をとり、一切の友人作りを拒絶していたこと。名前こそ変えられていたが、理那や真由、浩輔や直哉という友人たちとの出会い。そして一華が、待ち合わせをして外出することに深いトラウマを抱えていたことまでが、赤裸々に描かれていた……。』
(こんな細かいところまで……きっと、理那たちが面白おかしく喋ったに違いない……)
『球技大会では、シンがバスケットボールで圧倒的な強さを見せつけ、ワンサイドゲームで勝ち上がっていく伝説の数々……。』
第一巻を読み終えた一華は、深い、深い溜息を吐き出した。
「読み終えたのか?」
待ちきれない様子で、シンが声をかけてくる。
「うん……ふふっ、もう、そのまんま描かれちゃってる。何もかもバレてたみたい。」
「ふっ……そうか。沙羅には、俺たちの隠し事など通用しなかったというわけか!?」
「みたいだね。」
一華が本から目を離した隙に、龍輝がよちよちと近寄ってきた。
「まんま」
おやつの催促だ。
シンは龍輝とレイモンドをキッズチェアに座らせ、手掴み用のおやつをテーブルに置いた。ふたりは仲良くそれを手に取り、嬉しそうに口に運んでいる。
一華はすぐにでも第二巻へ進みたかったが、子供たちのおやつタイムが終わるまではと、優しく見守ることに回った。
「シン、一巻読んでいいよ。その間に片付けもしておくから。」
「いいのか?」
読みたくて仕方がなかったシンは、差し出された本を受け取り、入れ替わるようにソファへと腰掛けた。
小腹を満たした龍輝とレイモンドは満足したのか、再びおもちゃコーナーへと戻っていく。
一華が手際よく片付けを済ませると、シンの隣に座り、今度は第二巻へと手を伸ばした。
『夏休みのウォーターパークで偶然出会った六人。そこで二組のカップルが成立したこと。夏祭りでの射的や花火の観覧。一華とシンの兄妹喧嘩(?)に巻き込まれた理那と浩輔までもが口喧嘩し、相談を受けた二人が仲直りさせるところまでもが描かれていた。』
(ふふっ……完全に理那が喋ってるじゃん……)
横で第一巻を読んでいるシンも、一華の漏らした笑い声が気になりつつも、自分の世界へと没頭していく。
『ボーリングに誘われた日。シンが猛暑の炎天下で待ち合わせする計画を立てた浩輔に注意したこと。何かって言うとシンに勝負を挑んでくる浩輔に言い放った言葉まで描かれている。』
(……そう言えばあの時、浩輔君と何か話していたような気もするけど、こんなやり取りをしていたのー?)
自分たちの知らないところで交わされていた会話までが克明に描かれていることに、一華は胸を高鳴らせた。
その時、車庫のシャッターがガラガラと音を立てて開いた。レオナルドの運転する小型トラックSINQ号が戻ってきたようだ。
シンはまだ読みかけのページがあったが、チラシをきれいにしおり代わりに挟み込むと、そっと本を閉じ、買い出しの荷下ろしを手伝うために車庫へと向かった。
一華はそんなシンを見送ることもせず、夢中でページをめくり続ける。
シンとレオナルドはその場で、パッケージやラベルの文字を魔界語へと書き換え、魔界の『SINQstore』へと転送させていく。
一足先にリビングへと戻ってきたアーリンを見つけると、待ちかねていたようにレイモンドが走ってきた。
「ちー(おしっこ)」
アーリンは抱きかかえてトイレへと駆け込んだ。一華やシンに伝えればいいものを、魔王族と護衛という関係を両親から聞かされているのか、一度も甘えたことがない。
キッチンへと戻ってきたシンとレオナルドは、大袋のパンやプリンの材料を手際よく仕分けていく。パンを個包装して『SINQstore』へと転送したあと、シンは手慣れた手つきでプリン作りの作業に取り掛かった。
一華は構わず読み進める。
『シンが一つ上の上級生から目を付けられ、何かにつけ勝負を挑まれる原因が、体育祭での圧倒的な勝利を見せつけたところから始まり、それとは逆に、生徒会長からは来期の生徒会長へと推薦されることまで事細かく描かれていた。』
そう、シンが生徒会長を引き受けた理由は一華を守るために権力を手に入れることだったのだ。
シンは続きを読みたかったが、みりんシロップから集中を欠くと味が変わることを憂慮し、目の前だけに全集中させる。
『クリスマスとホワイトデーのプレゼント選びについても描かれていた』
クリスマス・プレゼント選びについては、シンが一華の思考を読んだために購入を決めたものだったのだが、さすがにそこは描かれていなかった。
『ホワイトデーでは、一華がバレンタインデーの時に教えた「お菓子の隠された意味」を浩輔と直哉に教えていたことも描かれていた。』
(さすがに、バレンタインデーにガトーショコラを作ったことまでは描けないよねぇ。)
ネタ提供する友人が傍にいなかった時のことまでは、完全にフィクションだった。
プリンの素を耐熱容器へと注ぎ入れ、オーブンへとセットし終わるとシンが戻ってきて、コミックスを手に取り続きに集中する。
一華は第三巻を読み終わり、第四巻へと突入した。
二年生になり、いよいよ沙羅が自身の目で目撃したエピソードが始まる。
『入学式では生徒会長としてまともな挨拶を行っていたシンが、翌日のクラブ紹介の最後に言い放った衝撃的な言葉。その言葉に導かれるようにして生徒会へと入会していく経緯。男子は女子を送り届けるという謎の縁結びの神話を、シンが意図せず作り上げていく過程……。』
『球技大会の代わりに開催したバスケットボール大会中の二人の仲を見て、下級生たちが疑い、仕方なく嘘を交えた告白まで描かれている。』
(……今となっては完璧に騙せていなかったっていうことだよね……。)
『夏休みのウォーターパークでのナンパ事件。もはや兄妹というよりは、完全に恋人同士にしか見えない背景描写の数々。』
(二人ともお互いを心配していたから気づかなかったけど……第三者から見れば、どう見てもカップルにしか見えないじゃん……。)
ページをめくる手が止まらない。
『体育祭実行員会の時のこと。悪巧みを謀った浩輔にシンが罰ゲームを課したのだが、面白おかしくギャグに昇華されていた。』
『体育祭本番では、圧倒的な強さを示しつつ、罰ゲームを課された浩輔の横で、一緒に腕立て伏せを鍛錬だと言って軽々とやり遂げるシンを人間ではない何かに例えているようだった。』
(マカイ国人って人間だよねぇ……)
『一年の時のハロウィーンでは仮装大会で盛り上がったが、二年からは仮装登校を実現させたこと。一華とシンの社交ダンスからの体育の選択科目として実現させることまで描かれていた。』
(ここでも、シンが漏らしたプリンセスって言う言葉に沙羅ちゃんが反応していたなぁ……)
『バレンタインデーのチョコ持ち込みも、一華がシンにあげる女子達の気持ちに共感してしまい、シンが生徒会長の権限を振りかざして禁止にしたことまで描かれている。』
この話はお昼休みにした内容のはずだ。事細かく描かれているということは、完全に四人の誰かがネタを提供していたことになる。このあとの定例会で、下級生女子から告白されることになったのだ……。
『そして、生徒会長としての最後の仕事――卒業式の送辞だ。沙羅は原稿を読んでいた時の文言は適当に描いていたが、そのあとでシンが原稿なしで紡いだ言葉は、一言一句間違っていなかった。』
(まるで、録音でもしていたようね……)
『卒業式は厳かなものというイメージを完全にぶち壊し、怒号と泣き笑いが入り混じった歓声のあと、答辞を読んだ卒業生からの反論、他の卒業生たちも湧きたっていたが、最後にシンが冷淡かつ圧倒的な一言で場を制した瞬間――ノンフィクションで描かれていた。』
(これじゃぁ、あの場にいた生徒は全員、主人公が誰のことか分かるし、それ以外のことを知らなかった人まで知っちゃうじゃない。)
オーブンから、焼き上がりの完了を告げる電子音が響いた。
読みふけっている一華とシンの代わりに、レオナルドが軽やかにキッチンへと向かい、天板からプリンを取り出し焼き上がりを確認すると、粗熱をとるためにケーキクーラーへと並べていく。
物語はいよいよ最終章へと差し掛かっていた。
『通常、三年に上がると生徒会役員からは引退するものだが、宗一郎は一華とシンを相談役として留め置こうと巧みな策を巡らせた。三年からのクレームから、新生徒会を守るため、前最強生徒会長を抱え込むという魂胆だった……。』
(そういうことかぁ……やっぱり、宗一郎君はどこまでも策士だったね!)
『体育祭では生徒会チームが圧倒的な存在感を放ち、文化祭ではジェンダーレスファッションコンテストを成功させるなど、次々と新しいことを進め、既存の行事は過去を反省しブラッシュアップさせていったことが描かれていた。』
そして、ページは最後の卒業式へと向かう。
『主な行事が終わると、三年になった一華とシンは卒業式を迎えるためだけだ。友人たちの合格発表を知った時のことまでそのまま描かれ、卒業式にはシンの読んだ答辞の挨拶が数ページにわたって描かれていた。』
『そして、卒業式後に生徒会室で後輩たちとお別れし、マカイ国へと帰国していく……。』
『最後のページ。マカイ国へと戻ったシンジと仁華が、静かな城の中で豪華な結婚式をあげ、夫婦となった姿で、この物語は幕を閉じる――。』
「はぁ……」
一華は一気に読み終えたところで、深く、長い溜息を吐き出した。
ちょうどプリンの粗熱も取れた頃合いだった。一華はキッチンへ歩み寄り、『フロールナ・プリン』としての浄化の魔力を丁寧に込めながら、一つひとつに蓋をしていく。
シンはコミックスに集中していたが、一華は構わず声をかける。
「シン、封緘シールお願い。」
「承知した。」
シンは読んでいたページにチラシを挟むと、キッチンへと歩み寄ってきた。
シンが微かに魔力を解放し、特性の封緘シールを貼っていく。一華は貼り終えたものからステンレスバットに並べ、冷やし固めるため冷蔵庫へと収められる。
「一華は、すべて読み終えたのか?」
「うん。……いろいろと言いたいことはあるけれど、とりあえず、シンが読み終わるまでは黙っておくね。」
「あぁ、助かる。」
シンは再びソファに戻り、残された最後の数ページへと視線を戻した。
一華はレオナルドたちと共に、お昼の準備を進める。大人用と、子供用のランチプレートが、手際よくダイニングテーブルに並べられていった。
やがて、すべての料理の準備が整う頃、シンも最終ページを閉じ、静かに立ち上がった。
全員でダイニングテーブルを囲む。龍輝が上手にスプーンを使えているかを見守りながら、一華が口を開いた。
「あの漫画ね……私とシン、二人きりの時以外の部分は、ほぼ全部本当のことだった。たぶん、同級生の誰かが、ものすごく詳細に喋ってる……。」
アーリンが、目を丸くして身を乗り出す。
「えっ、それは……大丈夫なのでしょうか?」
代わりにシンが涼しげな顔で答える。
「まぁ、魔界人だということまでは見破られていない。すでに知っている人間たちもいることだし、今さら特段の制裁を加える必要もないだろ……。同じ高校の連中に隠し通してきた関係が、こうして『バレた』ということだな。」
「うん。それもそうだけど、あれだけ赤裸々に描かれていたら、私たちが結婚したことも本当だって思われちゃうかも……。」
「ふっ。これで、人間界のどこかでかつての級友たちに遭遇したとしても、堂々と夫婦として振る舞うことができるというものだ。」
シンのその言葉を聞いた瞬間、一華の瞳がぱっと輝いた。
「あっ……そっか。これからは、もう『兄妹設定』の演技を続けなくていいんだ!」
今まで周囲の目を気にして、あえて少し距離を取るようにしていた二人。これからは、誰の目も気にせず堂々とイチャイチャできるのだ。
しかし、アーリンが少し申し訳なさそうな顔をして、トドメの一言を落とした。
「あの……実はあの作品、女子中高生の間で大変な人気らしく、すでにアニメ化の話も持ち上がっているようですよ?」
「……な、なんだと? アニメ化、だと……?」
シンは驚愕のあまり、思わず天を仰いだ。
「コミックスならまだしも、アニメ化となると、俺たちの目にも、嫌でも触れることになるではないか……。」
「さすがに、恥ずかしい?」
一華がクスリと笑いながらシンを覗き込む。
一華とシン、二人の物語となっているが、ほぼシンが主人公のようで、作中での彼の圧倒的なハイスペックぶりが大人気で、読者層は多くの女子ファンで占められていたようだ。
高校時代でさえシンのファンが大勢いて、その扱いに苦労させられたというのに、主人公と同じ顔のシンがあちこちで姿を見せることになったらと思うと……お出掛けも一苦労だなと密かに心配する一華。
「恥ずかしいという問題だけではない。いずれ、龍輝の目にも留まることになりそうだ……。」
シンは、美味しそうにランチを口に運ぶ龍輝を見つめた。
「ふふっ、パパのカッコいい高校生活を、龍輝がそのまま参考にしちゃうかもね?」
「や、やはり……今からでも制裁対象とすべきではないか……?」
「ちょっと、やめてよ! 沙羅ちゃんが一生懸命描いた大切な漫画なんだから!」
「……しかし、俺と主人公の顔が瓜二つだぞ。一華、お前もだ。これでは人間界への外出も、一苦労どころの騒ぎではないのではないか?」
「さすがに高校生の時よりも少しは大人になっているんだから、アニメのキャラクターと現実の私たちが同じだなんて、誰も思わないでしょ?」
一華は、シンが自分以上に動揺していることに気づくと、これ以上「制裁」などと言い出さないよう、必死に話題をそらした。
「そうか? まぁ、そうであればよいが……。お前たちはどう思う?」
シンが納得しきれない様子で側近の二人に視線を投げると、レオナルドが答える。
「そうですねぇ……お顔の造形は酷似しておりますが、アニメを視聴するような女子中高生とは生活の時間帯も異なりますし、過度に心配する必要性は低いかと存じますが……。」
アーリンがそれに続ける。
「龍輝様のお年はまだお若いですが……これから成長されるにつれて、シン様にますます似てこられるのではありませんか?」
「龍ちゃんの学校生活に関しては、アニメ化の話が出る前からすでに覚悟していたことだから、今さら慌てる必要はないよ。それに、龍ちゃんはシンと同じ性格じゃないから、むしろ、同級生たちが失望するんじゃない? 『シンジみたいにカッコよくないって……』」
「あぁ……一華様を想うあまり、少々過激な発言をしてしまうあのあたりの描写ですね。」
「そうそう!」
「まぁ、龍輝が通学する頃には、そのようなブームもとうに下火になっているだろう。」
シンが自身をも落ち着かせるように口にしたその時だった。
「……ねぇ。もし本当にアニメ化されたら、パパ達にも観られるんじゃない?」
「あっ……」
数年前、執務室と魔王夫妻共有の間に、アズサの提案によって設置した『大型テレビ』の存在を、シンは今しがた思い出した。
『シン華の家』に設置した全自動録画レコーダーを経由して、魔界の宮殿内でもテレビ視聴できるようにしてあげていたのだ。
ハオとアズサがアニメを好んで観るとは思えないが、CMが目に入れば気になって視聴しだすかもしれない。
事前にすべてを打ち明けておくべきか、それとも聞かれるまでシラを切り通すべきか……。
平穏だったはずの『シン華の家』のランチタイムに、シンと一華の頭を悩ませる新たな種が、またひとつ増えてしまったのだった。




