第11話 鼠小僧
その日の朝、シンはいつもの時間に目を覚ました。隣では、激しい魔力解放の疲労に耐えかねた一華が、心地よさそうにぐっすりと眠り込んでいる。龍輝もまた、深夜の消耗が嘘のように静まり返り、今はまだミルクをねだる気配すらなかった。
シンは二人を起こさぬよう、音もなく身支度を整えると静かに一階へと降りた。リビングでは、愛猫のサンが完全に無防備な「へそ天」の姿で爆睡している。
退屈しのぎにテレビの電源を入れたものの、あいにく今日は休日。いつもなら流れているはずの情報番組の枠は、旅番組やバラエティに埋め尽くされている。
(陽の国では、まだこの異常事態に気づいていないのか? 北の島にいた住人たちは、今頃パニックに陥っているはずだが……。だが、相手は人間の行える所業ではないと悟ったはずだ。いきなりミサイルを撃ち込んでくるような愚行は冒さないだろうが……さて、どう動くか……。)
画面に映る無関係な旅番組をぼんやりと眺めながら、シンは昨夜の出来事を反芻していた。あまりに強引だったあのやり口に、北の荒野の連中がどのような報復や出方に出てくるのか。その不確定要素が引っかかり、どうにも心から休まる気がしなかった。
『攻撃は最大の防御』とは言うものの、下手に次の一手を出せば事態は泥沼化する。何より、陽の国を無用な争いに巻き込まないためには、この国の政府が主導して平和的な解決へと舵を切る必要があるのだ。
◇◆◇
その頃、北国本土では、自分たちが占領していた島に起きた「怪異による消失」の全貌をまだ誰も把握していなかった。
しかし、突然テレポートさせられた北の島の住民たちは、見慣れない住宅街の景色を目の当たりにして阿鼻叫喚のパニックに陥っていた。
シンたちが施したのはただの『移動』であり、その後のインフラ整備や土地の造成といったアフターケアなど一切なかった。平坦ですらない荒地に、家屋がただ静かに置き去りにされていたのだ。
住民たちは命からがら現在地を特定し、ありとあらゆる連絡網をたどって、ついに北国の最高権力者へとその窮状を訴え出た。
初めは住民たちの常軌を逸した言い分を「映画でも見たか何かだろう」と一蹴していた最高権力者だったが、陽の国を牽制するため本来予定していた北の島への上陸作戦のスケジュールを前倒しせざるを得なくなった。自らの目で実態を確かめるべく、部下に命じてすべての公務をキャンセルさせ、北の島へと急行させたのである。
航空機が北の島の領空へと差し掛かった瞬間、機体に得体の知れない激しい異常が発生した。緊急着陸を試みようにも、そこにはシンが張り巡らせた絶対的な結界が障壁として立ちはだかっている。目に見えない圧倒的な力が加わったかのように、機体は激しく急旋回し、すごすごと離陸した空港へと引き返すほかなかった。
焦燥に駆られた最高権力者は、今度は海上からの上陸を狙い、最新鋭の艦艇に出航を命じた。しかし、それも経済水域の境界線に差し掛かった途端、計器類が狂い、艦艇は突如として鋭く舵を切って母港へと押し戻されてしまう。
どうあがいても上陸どころか、近づくことすらできない。
航空機や艦艇を徹底的に点検させても、機械的な故障や異常は一切見つからなかった。
手詰まりとなった最高権力者は、やむを得ず住民たちが移り住んだというその場所へと、大勢の部下を伴い視察に赴くことにした。住民代表から聞き出したおよその場所へ車を走らせると、そこには信じられない光景が広がっていた。
コンクリートの基礎すらない土の上に、無造作に置かれた家々が所狭しと並んでいる。一体、人間のどの技術を用いればこんな離れ業ができるというのか。現代科学の常識を完全に超越した光景だった。
「……これは、人間の仕業ではないな……。」
最高権力者は乾いた笑いを漏らすように呟いた。
北の島には、人間が到底太刀打ちできない『得体の知れない存在』の超常的な力が働いている――そう認めざるを得なかった。住民たちには「二度とあの場所へは戻れない」と冷酷な通告を下し、彼は二度と北の島へ近づかないよう厳命したのだった。
◇◆◇
一方その頃、西の島でも同様の異常事態が起きていた。
西国がこれまでに建設してきた諸施設が、ある日突然、本土の未開の地に丸ごと引っ越させられていることを、住人たちは朝起きて初めて知ったのだ。
まるで悪夢でも見ているかのような錯覚の中、パニックに陥った職員たちは次々と上層部へ緊急連絡を入れた。
報告を受けた西国の最高権力者もすぐさま警備艇を出動させ、現場海域へと向かわせたが、領海に足を踏み入れた瞬間に全システムの機器から警報音が鳴り響くと、暴走し旋回させられ港へと強制送還された。海がダメなら上空からとヘリコプターを飛ばすも、領空の境界を越えた途端に耳をつんざくような異常音が鳴り響き、機体は逃げるように離陸地へと引き返していった。
現地に置かれた施設をこの目で確認すれば、造成すらされていない荒地に建物が無造作に放り出されているだけだった。
「……人間ができる仕業じゃないな……。」
西国の最高権力者もまた、青ざめた顔でそう呟くと、部下たちに「西の島には一歩も近づくな」と固く言い渡し、その場から逃げ去った。
◇◆◇
その頃、『シン華の家』のリビングでは、テレビを消そうともせず考えにふけるシンのもとへ、一華が龍輝を抱きかかえて降りてきた。
「「おはよう」」
「一華、もう起きても大丈夫なのか?」
「うん、魔界仕様のベッドのおかげで体がすっかり軽くなったよ。龍ちゃんにも朝の母乳をあげたんだけど、なんだかまだ満足し足りないみたいなんだよね。」
「……魔力を急激に解放した反動でお腹が空いているんだろう。すぐに離乳食を用意するよ。」
「私も手伝う! お腹ペコペコだし。」
一華は龍輝をリビングのラグにそっと下ろすと、キッチンへと入り込む。サンも目を覚まし、龍輝の傍に寄ってきた。
味噌汁を作り、目玉焼きを焼き、冷凍おにぎりをレンジに放り込む。ベビーフードのパウチを開けて、おかゆを少しアレンジしていく。
慌ただしく朝食をダイニングテーブルに並べると、龍輝を専用のベビーチェアへと座らせた。一華は念のためおかゆをフーフーと冷まし、自分の口で温度を確認してから、優しく龍輝の口へとスプーンを運ぶ。
あむあむと小さな口を懸命に動かす龍輝の姿を見届けながら、一華は自分の前にある熱々の味噌汁を一口すすった。
「ふーっ、しみる……美味しい!」
「あぁ、美味いな。」
龍輝に二口目を与えながら、一華はふと気になっていたことを切り出した。
「シン、昨日の夜はあまり眠れなかったの?」
「いや、いつもの時間には起きたんだが……サンもまだ寝ているし、テレビを点けてもどこもバラエティばかりで、どうも頭が切り替わらなくてな。これからどう動くべきか考えていたんだ。」
「だったら、総理大臣にでもこっそり教えてあげたら?」
「いや、それはしない。陽の国は一切関与していないというスタンスを貫いた方がいい。恐らく西国と北国ではパニック状態だろう。人間の仕業ではないことを理解するほどに。」
「知らぬ存ぜぬで通させると?」
「あぁ、だが、パニックになった国が次はどんな手を打って来るかと考えるんだが……人間の……いや、三国の奴らの考えがわからない。」
「あっあっ!」
龍輝が早く次をよこせと小さな手を振って催促する。一華は急いでスプーンを動かした。
「いきなりミサイルをぶち込んでくるような度胸はないでしょ? それよりも、あの大量の現金はどうするつもり? あのままじゃ銀行にも預けられないよね?」
「あれは全額、寄付する!」
その言葉に反応したのか、龍輝が両手をパチパチと叩いて嬉しそうな声を上げた。
「ふっ、龍ちゃんも賛成だって。で、どこに寄付するの?」
「被災地だな。この前の大地震は龍輝の力で再生させたが、それ以前に起きた震災の傷跡はまだ残っている。今さらあの一帯を俺たちの魔力で直すのも不自然だしな。」
「なるほどねぇ。」
「隈本、房総、越前へ、それぞれ二億円ずつ寄付することにする。」
「でも、どうやって寄付するの? わざわざ私たちが直接持って出向くわけにいかないし。」
「当然だ。顔を晒すわけにはいかないからな。」
「じゃぁどうするの? テレポートでポンッと送っちゃう?」
一華は龍輝と自分の口へ交互に朝食を運びながら、首をかしげた。
「そのつもりだが……。」
「ただ現金を置くだけじゃ、『そんなもの届いてない』ってシラを切られるかもしれないよ? もしくは、大金に目が眩んで自分のものにしちゃうかも。」
「……お前、時々ものすごくリアルに悪魔みたいなことを言うな。」
「違うよ! そういう不意の状況を作られちゃったら、本当は真面目な善人であっても『魔が差す』ってこともあるんじゃない? 人間の理性なんて案外もろいというか……悪魔のささやきが襲い掛かるの。」
「では、どうしろと言うんだ?」
一華は龍輝の給仕の手を止め、真剣に腕を組んで唸った。見かねたシンが代わりにスプーンで龍輝に朝食を食べさせる。
「うーん……そうだ! 各知事が執務室にいるタイミングを狙って部屋の中に送り込んで、遠視でこっそり監視するの。で、もし変な魔が差して自分のものにしようとしたら、『天の声』で一喝するの。」
「……っ、まあ、それしか確実な方法はないか!」
「なんだあ、シンも本当は分かってたんじゃない! わざわざ私に言わせなくたって……。」
「いや、一華ならもっと斜め上の斬新なアイデアを口にするかと期待していたんだが……俺の考えと完全に一致していて安心したよ。」
それならばと、一華はさらに目を輝かせてアイデアを膨らませる。
「じゃぁさ! マイク放送でもジャックして、『これは天からの寄付だぞー!』って言いながら、上空から札束を盛大にバラまいてみるのはどう?」
「おいおい、それじゃぁ被災者たちに均等に行き渡らないだろ。」
「知事に渡したって同じじゃない? いや、むしろ鼠小僧みたいに、困ってる家の一軒一軒に直接バラまいたら?」
「鼠小僧か! 時代劇好きなお前らしい発想だな。普通に寄付するより余興としては面白いが……。」
「でしょー!」
龍輝も「あーい!」とばかりに手を叩いて大喜びしている。
「十万円くらいずつの封筒がいいかなぁ。各地域二千世帯くらいには配れるよ。」
「だが、どの家が本当に困っているかなんて、どうやって特定するんだ??」
「……それは、分からない。不自由していない裕福な家に配っちゃっても意味ないもんね……。」
「残念ながら、一軒一軒の家庭事情を調査して回るわけにはいかない。やはり、各地域のトップである知事に託すのが一番確実だ。」
「ぶーっ!」
不満そうにほっぺたを膨らませる龍輝に、シンは優しく諭すように語りかけた。
「龍輝、個別の家庭の事情を勝手に覗き見して調査するわけにはいかないんだ。この世界には『個人情報保護』というルールがあってな。俺たちができるのは、各地域の代表へ誠意として寄付を届けるところまでだ。それをどうインフラ整備や支援金に割り振るかは、そのトップの責任に委ねるべきなんだ。いいな?」
「ぶ……」
龍輝はまだ少し不服そうだったが、シンの真剣なまなざしに負けたのか、しぶしぶ納得したように頷いた。その後はまたパクパクと美味しそうにご機嫌で朝食を平らげ、ベビーチェアから降りるとトコトコとおもちゃコーナーへ歩いて行った。サンもその後をのそのそとついていく。
「で、いつ、そのテレポート作戦を実行するの?」
「月曜日の朝だな。」
一華は、それまでの二日間も、あの途方もない大金を『シン華の家』のどこかに保管しておかなければならないことが少し気がかりだった。もし闇バイトの連中にでも見つかったら一発で狙い撃ちにされるに違いない。
頭の片隅に常に巨額の現金の存在がちらつくせいで、せっかくの休日だというのに、一華はなんとなく外へ出かける気になれなかったのであった。
◇◆◇
同じ頃、総理官邸には緊急の呼び出しを受けた外務大臣が駆けつけていた。
「総理、北の島に強行接近していた北国の艦艇と航空機が、なぜか慌てふためくように急旋回して本土へ引き返していったとの情報が入りました。さらに、最新の人工衛星画像を確認したところ……北の島にあったはずの住宅や施設群が、跡形もなくぽっかりと消え去っていることが確認されました。」
「なんだと……? 建物ごと丸ごと消えたというのか?」
「はい。跡地にはただ生々しい地肌が露出している状態とのことです……。また、西の島においても、西国の住人の姿は一切なく、同じように施設ごと消滅していました。」
(これが……人間を超越した、あの『宇宙人』の実力というわけか……。)
建物ごと一瞬にして別の場所へ移動させるという神業の報告を聞き、総理大臣は背筋に冷たいものが走るのを覚えた。
「……では、もうあの島には上陸できるのか?」
「いえ、完全に脅威が去ったかどうかは、実際に足を踏み入れて確認するしかありません。ですが、宇宙人がこれほどの力を誇示している以上、これからは我々が主導権を握って平和条約の締結を進めるべき絶好の機会かと。」
「わかった……外交ルートを通じた交渉の準備を進めろ。」
総理大臣は外務大臣に強い口調で指示を飛ばし、北国との平和条約の締結に向けた外交交渉へと動き出すことを決意したのだった。
◇◆◇
そして迎えた月曜日の朝。
レイモンドを連れてレオナルドとアーリンが、『シン華の家』へと元気に出勤してきた。
「「おはようございまーす!」」
「おはよう!」
レイモンドをおもちゃコーナーへと降ろすと、ジャンの代わりにアーリンがレオナルドと一緒に小型トラックSINQ号に乗り込み、買い出しへと出かけて行った。
シンは朝食の片付けを終えると、一足早く、いつものネット注文を終わらせた。
リビングのテーブルの上にジュラルミンケースを六個並べた。そのうち三つのケースの蓋を開け、印刷したメッセージを現金の上にそっと置いた。
準備が整うと、シンは静かに魔力を解放した。
ふわりと浮き上がった二つのケースが、周囲の光を歪ませるようにして一瞬で目の前から消え去る。残りの地域分も、同じように宙に舞ったかと思うと、音もなく空間の裂け目に吸い込まれていった。
シンはさらに「遠視」の魔力を解放し、寄付先である三か所の知事室の様子を、リビングの空中にリアルタイムのホログラムとして投影した。
現金が収められたジュラルミンケースは、それぞれの知事室のドアの前に、まるで最初からそこに置かれていたかのように整然と鎮座している。
シンが魔力を使ってそれぞれのドアをコンコンとノック音を鳴らした。
室内から「どうぞ」と声をかけるも、一向に入ってくる人物がいないことを不審に思い、ドアを開けて確認するもそこには誰もいなかった。そこには見慣れないジュラルミンケースが二つ置かれていただけだった。
「……ん?」
事態を重く見た知事は、不審物として直ちに警察へ通報し、現場には『爆発処理班』が急行して中身の確認が行われることとなった。
その一部始終をリビングのホログラムで見守りながら、一華とシンは思わず顔を見合わせて苦笑する。
やがて、厳重な警戒の中で爆発処理班によって開けられたジュラルミンケースの中身が明らかになった。中には危険物など一切なく、ただ隙間なくびっしり敷き詰められた一万円札の束と手紙だけだった。
その手紙には、こう記されていた。
『被災地の知事殿
ささやかながら、二億円を寄付させていただきます。どうか、被災された住民の方々の生活再建のために役立ててください。 ――鼠小僧より』
爆発物騒ぎだと思い込んで警察を呼んでしまった手前、知事たちは激しく冷や汗を流すとともに、善意の人間を疑ってしまった自らの浅はかさを深く恥じ入った。他の二県の知事室でも、全く同じドラマが繰り広げられていた。
「まぁ、あんな怪しげなケースが突然置かれていたら、普通は不審がるよね。」
各知事たちは一華の懸念とは裏腹に、その大金をありがたく受け取り、迅速にインフラの復旧や住民への支援金として配分することを即座に決定したようだった。
「ネコババするような愚か者は、一人もいなかったな。」
シンが満足そうに呟いて遠視の魔力を解除すると、空中に浮かんでいたホログラムはスッと霧のように消え去った。
「にゃにゃ……(ネコババとはにゃんにゃ!!)」
龍輝、レイモンドと一緒に終始見ていたサンが、『ネコ』という響きに過敏に反応して鋭く抗議の声を上げる。
悪口を言われたと思ったのだ。
◇◆◇
三つの地域で同時に起きた奇妙な事件は、瞬く間にお昼の全国ネットのニュース番組で大きく取り上げられていた。
『現代の鼠小僧現る! 被災地へ合計六億円の巨額寄付!』
ちょうどその時、買い出しを終えて戻ってきたレオナルドとアーリンも加わり、賑やかに昼食をとっている最中だった。
「この鼠小僧って……もしかしてシン様と一華様のことですか?」
「あぁ、そうだ。」
「どうして『鼠小僧』なんですか?」
アーリンの素朴な疑問に、一華が嬉しそうに解説を始める。
「陽の国にはね、昔、『鼠小僧』っていう、権力者やお金持ちから金を盗んでいた実在の泥棒がいたの。で、現代の時代劇なんかでは、その奪ったお金を貧しくて困っている家へこっそり投げ入れてあげるっていう話が創られたの。」
「それを少しばかりオマージュしてみたわけだ。」と、シンが満足げにうなずく。
「これで完全犯罪成立! 私たちがやった証拠は、見事に消え去りましたー。」
一華が両手を高々と上げておどけて見せると、隣のベビーチェアにいた龍輝も「あーい!」と言いながら元気に両手を挙げて満面の笑みを浮かべた。
レオナルドとアーリンは、そのやり取りを微笑ましく見つめながら心の中で感嘆していた。
この家族は、どれほど強大な力や莫大な富を手に入れたとしても、自分たちの私欲を満たすためにそれを使ったりはしない。ただ「欲望を満たすための労働には正当な対価を受け取るべきだ」という哲学を持ち、あぶく銭はすべて本当に困っている人々に分け与える――それこそが彼らの美学なのだと。
◇◆◇
同じ頃、テレビのお昼のニュースで「鼠小僧からの六億円寄付」のニュースを見た総理大臣をはじめとする閣僚たちは、画面の前で一斉に絶句していた。
金額の規模、そしてタイミング。口には出さないものの、全員の頭の中にはあの天の声の主である『宇宙人』を思い浮かべていた。
総理大臣は一昨日の外務大臣からの報告を思い返す。おそらく彼らは、依頼された仕事を完璧に遂行した上で、そのコンサルティング料、さらには防衛費として動いていた巨額の資金すらも、まとめてすべて被災地へと還元したのだろう。
(どこまで型破りな……まるで現代の救世主じゃないか……)
だが、感嘆している暇はない。ここから先は、あくまで我々陽の国の政府が片付けなければならない政治の仕事なのだ。
総理大臣は気を取り直し、北の連中との外交努力を再び進めようとするが、相手国は未だに高慢な姿勢を崩しておらず、北の島の実効支配権を失った今でも平和条約の締結する気配は微塵も感じられなかった。
(このままでは、島に一歩も近づくことすらできず、周辺海域の安全な操業すらままならないではないか……!)
総理執務室で、総理大臣は深く頭を抱え込むのだった。




