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シン華物語Ⅱ(最強魔王は誰?)  作者: ゆず華


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第10話 依頼

『合同会社SINQ』の巨大倉庫。

トレーラーで牽引されてきたコンテナいっぱいの商品のパッケージを魔界文字へと書き換え、配送先ごとにカートへと手際よく振り分けていく。それらを魔界の『SINQstore(サンクストア)』へとテレポートさせ終えたとき、常温コンテナの奥に一つだけ、見慣れないジュラルミンケースが取り残されているのにシンは気づいた。


「ん……?」


怪訝に思いながらジュラルミンケースの蓋を開けると、目に飛び込んできたのは隙間なく詰められた大量の現金の束だった。その上に一通の封筒が置かれている。中の紙を引き抜く。そこには万年筆で書かれた文字でこう記されていた。


『天の声の主へ

 依頼したいことがある。現金一億円は前払いする。今日の夜、連絡を待っている。総理大臣』


シンは思わず絶句した。まさか、国家の最高権力者から一億円もの巨額が前払いとして送りつけられるとは夢にも思っていなかったからだ。


(相談内容によっては、返答できないこともあろうに……。)


「シン、それ何? どうしたの?」


一華の位置からは中身こそ見えなかったが、シンがいつまでも立ち上がらない様子を心配して声をかけてきた。


「総理大臣から、コンサルティング料の前払いだ。……現金が一億円入っている。」


それを聞いた龍輝が「キャッキャッ」と無邪気に手を叩いてはしゃぐ一方、一華、レオナルド、アーリンの三人は完全に言葉を失っていた。


「へっ? い、一億円……?」


「相談内容は分からないが……今日の夜、連絡を待っている、と……。」


シンはジュラルミンケースをしっかりと手に持ち、全員で『シン華の家』へとテレポートで戻った。




リビングのテーブルの上にジュラルミンケースが置かれ、重々しい蓋が開け放たれる。その圧倒的な札束の重みに気圧されながらも、シンは再び手紙に目を落とした。肝心の相談内容が一切書かれていないことで、シンの脳裏にはこれまでのやりとりが嫌でも蘇る。


一華はおもちゃコーナーへと龍輝を下ろすと、ソファに腰掛けたシンの隣にぴったりと寄り添い、興味津々な目を向けた。


「どんなコンサルティングを依頼されたの?」


「それが、肝心の用件は一切書かれていないんだ。しかも、現金のコンテナ輸送なんて法律違反でできないと以前から言っていたはずなのだが……。」


一華も腕を組んで、ふーんと首を傾げる。


「法律を破ってまで現金を渡して依頼するなんて……証拠すら残したくないくらい、よっぽど切羽詰まった状況ってことなんじゃない?」


「……だろうな。いったい、どの問題を持ち出す気だ。」


「何か、事前に言われていたの?」


シンはこれまでに総理が零した懸念事項を一つずつ上げていく。


「確か……、島問題に闇バイト、石油の調達、少子高齢化、地方の過疎化……と言っていたな。」


あまりにも壮大な国家問題の数々に、一華は目の前の現金を指さしながら悪戯っぽく微笑んだ。


「まさか、このお金の出どころって……税金じゃないよね?」


「大臣たちのポケットマネーに限定させたはずだが、直に送られてきては拒否しようがない。返金しようにも、手渡しでない限りシラを切られかねないし……。」


「絶体絶命じゃん。いっそのこと『そんなもの届いてない』って先にシラを切ったら? 現金はどこかに寄付しちゃえば完全犯罪の成立だよ!」


シンの真剣な表情をからかうように、小悪魔モード全開の一華がけらけらと笑う。


「か、完全犯罪って……お前は悪魔か!?」


「えーっ? 一億円を請求するシンに言われたくないよ。どうせ、真面目に相談に乗ってあげるんでしょ? シンの今の立場で簡単に解決できるのって、どれなの?」


シンは深く息を吐き、静かに頭を切り替えて分析を始めた。


「……闇バイトであれば、詐欺電話の通信経路を辿れば拠点は摘発できる……。石油の調達は会社にも直結する問題だから解決すべきだが、他国の戦争を終わらせても即座の解決には至らない。強引にやるなら島問題か……陽の国以外の人間を追い出し、二度と上陸できないよう強力な結界を張れば一発で解決する。」


「いつものように、関係者全員を脅してみたら?」


「はっ? 全員とは誰だ?」


シンは思わず目を丸くして一華を見た。


「だから、戦争をしているお偉いさんとか、闇バイトの指示役とか、全員まとめて!」


「脅すというのは、テレパシーを直接送り込むということだ。個人を特定できなければ無理に決まっている。」



その言葉に、一華はさらに目を輝かせた。


「あ、少子高齢化と過疎化を一気に解決するアイデア思い付いちゃった!」


「なんだ?」


「地方に魔界人を住まわせるの。」


「……お、お前、本気で陽の国を乗っ取るつもりか!?」


シンが驚愕の声を上げると、一華は涼しい顔で続ける。


「まさか! 魔界人を人間界で研修させるの。インフラの整備やものづくりの技術を学ばせて、それを魔界に持ち帰って展開させるの。」


「それじゃあ、俺たちが売っている会社の商品が売れなくなるじゃないか……。」


「あっ……、それはダメか。じゃあ、人間界への体験ツアーとして魔界人を期間限定で派遣するのはどう?」


「以前、義母上にも言われただろ。魔界人を人間界の最低賃金でこき使うのかと。」


「労働じゃないってば! あくまで体験研修で、魔界人生で一度は人間界を巡る観光ツアーにするの。商品については、必ず『合同会社SINQ』を通さないと輸入できないように法整備させれば完璧じゃない?」


「ひどくなってないか? 魔界人は高額なツアー費用を支払い、人間界ではただ働きさせられるようなものじゃないか!」



◇◆◇



その日の深夜。

シンは静かに意識を集中させ、総理大臣の脳内へと直接テレパシーを送り込んだ。


――《なんの用だ》


総理大臣は脳内に響いた低い声に飛び起き、ベッドの上で姿勢を正した。もっとも、深い眠りについていたわけではなく、連絡を待ちわびて横になっていただけだったが。


「あぁ、現金一億円はしっかりと届いたようだな。」


――《前払いをしておきながら、連絡が来ないとは思わなかったのか?》


「あなたは、そんな不誠実な真似をする男じゃないと思っている。」


――《……っ》


図星を突かれたのか言葉が出ないシンに、総理大臣は重々しく口を開いた。


「相談内容なのだが……まずは、島問題を何とかする方法はないか。」


――《北か? 最近騒がしいが……。》


「だけじゃない。北以外にも、西と南の方にもそれぞれに主張してくる国がある。」


――《陽の国以外の人間を追い出すことは可能だが……》


「それぞれの周辺海域の経済水域にも近づけないようにしたい。」


――《三か所か……多いな。》


「……っ、わ、わかった。一か所につき、一億円支払う!」


――《北と西の島からは追い出すことで目に見えるが、南はどうする……》


「島周辺に出没する南の海賊船から我が国の船を守り、経済水域での密漁が解消されればいい。」


――《三国とも話し合いができる国ではないことは分かっていたはずだ。》


「……わかっている……、陽の国では平和的解決を進めているんだが……。」


――《ふっ、上陸や密漁を許しているではないか》


「許しているわけではない。その都度抗議もしている。」


――《我々が住人たちを追い出しても返還されるわけではない。三国を壊滅させない限り、全面的な解決にはならないぞ。》


「陽の国は戦争できない。島を奪い返し、上陸、侵入できないようにできれば……平和条約を締結すると言ってくれないかのぅ……。」


シンは口角を上げ、薄笑いで言い放った。


――《ふっ、ミサイルでもぶっこんでくるのではないか》


「……っ、恐ろしいことを言わんでくれ……西国(シャーコク)、南国(ナンコク)のように、北の荒野の連中からも守ってくれぬか?」


――《それは二つ目の依頼か》


「……わかった。別に一億円支払う。」


――《いつまで守ればいい。》


「三国からずーっとお願いしたい……。」


――《たった一億円でか? 笑止千万だな》


「わかった、一国につき年一億円でどうだ」


――《今年はそれでよい。来年以降はまた交渉せよ。》


「……わかった。」


――《最後に一つ聞いておくが、あの現金一億円の出どころはどこだ?》


「……そ、それは……」


――《言えぬのか?》


「……緊急を要したため、国家の予備費から一時的に借り入れた。いずれ必ず返金するつもりでいる。」


――《ふっ、『いずれ返すつもり』……か。それは端から返す気などないと言っているのと同義だな》


「い、いや、絶対返す! や、約束する!」


――《国民たちの血税で私に依頼を持ちかけるとは……お前たちの性根はどこまでも腐りきっているな》


プツリ、と冷酷にテレパシーが途絶えた。


総理大臣が慌てて呼びかけても、二度と返事は返ってこなかった。

静まり返った公邸の寝室。冷や汗の滲んだ額を拭うことも忘れ、総理は暗闇の中でただ荒い息を繰り返すしかなかった。



◇◆◇



その日の夜更け。

朝、誰にも知られずに総理大臣から緊急招集をかけられた閣僚たちは、側近さえも伴わず人目を忍んで官邸の密室へと集まっていた。


前回の緊急閣議で予備費からの捻出を決めたものの、費用の使途や出どころ、「返す気がないだろう」という相手からの見透かしについて総理から報告を受けると、室内には重苦しい沈黙が広がった。


「な、なんと……見抜かれておったのか?」


一人の大臣が額の冷や汗をハンカチで拭いながら、力なく椅子にもたれかかる。


「すべて国家に関わる重大な問題ですし、税金を投入すること自体は問題ないはずですが……相手は公にできない宇宙人ですからね。」


「宇宙人が金の出どころまで気にするとは……どういうことなのだろうか。」


「我々と変わらない常識を持っているように思えますが……ひょっとすると、一般市民としてこの国で暮らしているのではないでしょうか? もし彼らが税金をきちんと支払っているのだとしたら、不正な使途には怒るのも無理はありません。」


「次回からは『支払った税金を還元する』と伝えれば納得してもらえるのでは!」


言い訳の議論はそこそこに、閣議は本来の目的である「島問題」へと切り替わった。


「一か所につき一億円、それが三か所で、さらに防衛費も含めれば今年の支払いは計六億円……!」


一人の若い大臣が青ざめた顔で呟く。


「毎年となると予備費の枠を大きく圧迫します……。」


「……要するに、我々はあの宇宙人とやらに足元をすっかり見透かされているわけだな。」


今まで静かに聞いていた老齢の大臣が乾いた笑いを漏らすと、周囲の空気がさらに冷え込んだ。


倫理や法秩序といった建前は、巨額の現金を税金からひそかに持ち出したという保身の前にはあまりにも無力だった。不正を見抜かれ、「性根が腐りきっている」と冷酷に断じられた屈辱よりも、契約を一方的に打ち切られ、明日にも外国のミサイルが頭上に降り注ぐかもしれない恐怖の方が圧倒的に勝っている。


「……予備費はこういうためのものでもある。この国が本格的な侵略戦争に巻き込まれて国が滅びるよりはマシだ……。六億円など国家の延命費としては破格の安値……億単位の予算で『平和と領土』が買えるのなら、これほどコスパの良い外注先はないと言えるのかもしれん。」


自嘲的な呟きには、道徳心をとうになくした国家の現実政治(リアルポリティクス)と、強大な力の前で為す術もなく従属していく滑稽な絶望が深く滲んでいた。


「そうだな。北の連中は我々が白旗を上げたとなると、さらに他の島までも対象にしかねないからな。それまでに宇宙人と契約しておく方が賢明と言うものだろ。」


「宇宙人と契約……ですか?」


「卸値で商品を調達している現時点で、十分契約済と同じことだろう。あとは成果に応じてコンサルティング料を支払うという契約だ。」


「……あのぅ、この契約は現内閣で成り立つものですよね。解散や再び組閣で入れ替わった場合は、引き続き、この平和は維持されるのでしょうか?


誰かが発したその一言に、室内の温度がスッと下がった。総理大臣は苦渋に満ちた表情で天井を仰ぎ、乾いた笑いを漏らす。


「……あちらも陽の国の製品を卸値で購入し続けたいだろうからな……簡単に打ち切りはしないだろうが……次の内閣で、億単位の支払いに文句を言わずに応じるかどうかは……私にもわからん。」


「野党に政権を奪われでもしたら、この国家機密の契約自体が闇に葬られかねませんな……。」


「……次の総理にも継続の意思があるといいのだが……。」


次の総理へ引き継ぐ難しさと、背中合わせの危うさを痛感しながら、臨時閣議は重苦しい沈黙の中で解散した。



◇◆◇



数日後、『合同会社SINQ』の巨大倉庫。

いつものようにコンテナいっぱいの商品のパッケージを魔界文字へと書き換え、配送先ごとに振り分けたあと、常温コンテナの隅には、一億円が入っていたものと同じサイズのジュラルミンケースが五つ、ドドンと置かれていた。


シンは静かに近寄ると、ジュラルミンケースの蓋を開けた。それぞれに現金の束が隙間なく敷き詰められている。

黙って蓋を閉じ、『シン華の家』へと持ち帰った。


リビングのテーブルの上に、ジュラルミンケースが五つ並べられる。


「今度は何が入っていたの?」


一華が興味津々な面持ちで尋ねる。


「五億円だ。」


「ご、五億円!? ふ、増えてるー!」


レオナルドとアーリンは、その途方もない金額に言葉を失っていた。


「三か所の島から陽の国以外の人間を追い出す。一か所につき一億円。それに南国(ナンコク)、西国(シャーコク)、北国(ペーコク)の脅威から守るための三億円だ。」


「……」


一華はあんぐりと口を開けたままシンに顔を向けた。


「とりあえず、北の連中から島を奪い返す。そのためには、今いる北の連中を北の荒野へとテレポートさせた上で、北の島に強い結界を張る。陽の国以外の人間の上陸を認めない魔力も施す。」


「う、うん……」


「上空から魔力を解放する必要がある……今日の深夜、決行する。」


「西と南の島はどうなるの?」


「明日、会社は休みだ。できれば続けてやりたいが、お前たちの体力次第だな。」


「えっとー、もしかして私と龍ちゃんとサンちゃん?」


「そうだ。地震の時みたいに三人で魔力を重ねて強固にしたい。」


「わかった。今日は早めに寝ようね。龍ちゃん。サンちゃん。」


一華はおもちゃコーナーにいる龍輝とサンに向けて言うと、龍輝は両手を上げて元気に返事をした。


「あーい!」


「にゃーん……(わかったにゃーん)」



◇◆◇



その日の深夜。

陽の国の人間が深く寝静まっている時間帯。シンと一華はベッドから起き出し、動きやすい服装へと着替えた。一華は龍輝を軽装へと着替えさせると、落下させないようベビーキャリアでピタリと体に固定する。


「龍ちゃん、重くなったね。……失敗できないから、しっかりパパに力貸してね。」


まだ眠っている龍輝に向けて、一華は誰にも聞こえないように優しく、しかし真剣な眼差しで呟いた。

シンは自分のベッドで丸くなって寝ているサンを抱き起こし、主寝室へと上がってきた。


「サン、ペガサスに変身してくれ。」


サンはシンの手から床に下ろされて大きく伸びをしたあと、神々しく光り輝く真っ白なペガサスへと姿を変えた。

一華、シン、そして龍輝を乗せると、シンが自身のテレポートの魔力を重ね合わせ、さらに強力な隠蔽結界で姿を隠しながら、北の島上空へと静かに羽ばたいた。今までサンが飛び立つと後ろには光の粒が美しく尾を引いていたが、今回は降ることはなかった。


シンは誰の目にも触れないよう周囲にも、光と音を完全に遮断する極限の隠蔽結界を張った。


全域が見渡せる上空でサンはふわりと滞空する。日中は暑いぐらいだが、北の夜空では冷気が肌を刺す。体温が奪われそうだ。一華は静かに衣装チェンジの魔力を解放し、それぞれ冬物の温かい服装へとチェンジした。


「一華、ありがとう。助かった。」


一華はシンを見つめて微笑む。


「いくぞ、一華、龍輝、放て!」


シンの合図とともに、一華と龍輝が自身の魔力をシンの魔力に重ね合わせる。だが、数多くの住宅ごと強制移動させる負荷は想像以上だった。一華は魔力を手のひらに全集中させるが額に汗がにじむ。龍輝は魔力を感知すると目を開け、シンと一華の魔力に自信の魔力を重ね合わせ、パワーアップさせる。


龍輝は今まで自身の赴くままに魔力を解放してきた。地震の時の『再生の魔力』解放時はシンと一華がサポートする側へと回っていた。しかし、今回はシンの魔力に自身の魔力を重ね合わせる……魔力をコントロールする力が不安定な龍輝の魔力が、魔力の弱い一華へと逆流しそうになる。


一華から「うぅっ……」と苦しい声が漏れる。


(――苦しい……! でも、ここで失敗したら争いが始まっちゃう……っ!)


一華が歯を食いしばり、必死に龍輝の魔力を押し戻そうとする。シンは一華の異変に気付き、一華へのサポートにも魔力を解放し、逆流を元に戻していく。シンのサポートがなければ、その跳ね返りで一華の精神が焼き切れていたほどの激流だった。


ギギギ……と空間が悲鳴を上げるかのように、住人たちが眠る住宅ごと、北の荒野へと一瞬にしてテレポートさせていく。

島から北の連中の住宅がごっそり消え去り、あとには冷たい地肌だけが取り残された。


すべての転送を終えた瞬間、一華はその場に崩れそうになり、荒い息を吐き出す。シンがすかさず一華の肩を支えた。


「無理をするな。まだ終わりじゃないぞ。」


「……うん、大丈夫……まだやれる……!」


休む間もなく、経済水域の境界線から、三人はさらに魔力を結合させて強固な結界を構築する。陽の国以外の人間や兵器の侵入を許さない、絶対的な魔力の壁を何重にも重ねていく。


次々と魔力を解放していく一華の体力を、シンは隣で見つめながら気遣う。


「一華、大丈夫か? 次は西の島だが続けられるか?」


「……たぶん大丈夫。行ける。」


「よし、テレポートするぞ。」


シンはそう告げると、西の島上空へと一瞬で空間を移動する。シンのテレポートの魔力に龍輝も重ねてきた。


連続する転送と結界の構築は、魔界の戦士として厳しい訓練に耐えてきたシンにとっても神経をすり減らす作業だった。


一歩でも魔力のコントロールを誤れば、人間界の物理法則を破壊し、大地震や津波といった大参事として観測されかねないからだ。


次は、西の島だ。シンの魔力に龍輝と一華の魔力を重ねるが、テレポートの魔力を覚醒させていない一華には、これ以上続けて魔力を解放することが厳しすぎた。


「シン、私のサポートに回さず龍ちゃんとお願い。」


「承知した。龍輝、魔力を高めるぞ!」


シンは龍輝と二人で西の島からの建物ごと西国(シャーコク)本土へとテレポートさせていく。一瞬にして冷たい地肌だけが残されていた。


「次は結界に移る。」


一華は二人の魔力に自身の魔力を重ねる。二人の強固な魔力に比べたら微々たるものだが、少しでもサポートしたいという想いで力を振り絞る。


そして最後の南の島へと、三人は限界ギリギリの集中力で結界を刻み込んでいった。


「ふーっ……、これで、最後……!」


南の海域に最後の一撃となる強固な結界を定着させた瞬間、一華の体からカタリと力が抜け、シンの胸にぐったりと寄りかかった。


「よくやった。帰るぞ。」


シンは震える手で『シン華の家』の主寝室へと空間を繋ぎ、全員を無事に連れ帰った。

一華は龍輝を着替えさせ、ベビーベッドへと寝かせる。自身も着替えると、安堵の息を漏らしながらベッドに横たわった。


シンは元の姿に戻ったサンと一緒に一階へと降りていき、ご褒美の猫缶を食器に移してやる。地震の時ほど時間はかからなかったものの、やはりお腹は空いていたのだろう。サンはガツガツと美味しそうに猫缶を平らげると、水を飲み、再びベッドで丸くなった。


食器を片づけて二階の主寝室に戻ったシンは、龍輝の寝息を確認し、一華の隣へと潜り込む。静かな寝息を耳にしながら、シンもまた深い深い眠りへと落ちていった。

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