第98話 やったぜ!
次のローソク足で、株価は移動平均線をあっさり抜けた。
上髭3円、実践1円。
その次のローソク足では+1σにあっさりタッチ。
一旦跳ね返されるが、次のローソク足で大きく跳ね、+2σに迫る勢いだ。
俺は成り売りの準備を万全に整え、タップ一つで約定できる状態で構える。
MACD線はシグナル線と大きくかいりしているし、そろそろ利確の時かもしれない。
+2σにあと一円と迫って跳ね返される。
+1σから13円の上昇
俺の買値は6522円。
今の株価は6555円、33円も上昇している。
……利確すべきか?
じりじりと下げが始まる。
く、遅れたか――でもまだ十分な利益が出ている。
MACD線は、5円で、+ゾーン。
少し右肩上がりの傾きが緩くなったがまだ横を向いてはいない。
急角度で右肩下がりになることもあるので、何とも言えない感じではあるが、+ゾーンはしばらく維持されそうだ。
+1σは6542円でほぼほぼ水平千になっている。
ここから再度右肩下がりになるのか?
はたまた、右肩上がりになるのか?
株価が6542円±2円で推移すること3分、俺はじっと耐え続けていた。
迷って利確できずにいた…………ともいえる。
だって、+1σが下値の抵抗線として機能しているように見えたから。
はたしてその見立ては当たっていたらしく、4分後に大きく下にはねたと思ったらすぐに元に戻り、5分後には+2σにタッチ。
6分後に一旦跳ね返されたものの、8分後で再び+2σにタッチ。
この時点で+2σは右肩上がりに転じており、以後4本のローソク足は+2σに沿って上昇した。
運よく売らなかったことで、さらに上げ幅を25円広げたのだ。
ちょっと上がりすぎで怖いわ。
俺はそこで利確した。
5本目で小さな陰線が出たので次の6本目の陽線に売りをぶつけた。
ここまで利益が載れば十分だと思ったのよ。
結果、俺の売りをきっかけに相場は崩れ、株価は下がり始めた。
なんだか株価を支配したような気分。
こういうことがあると、勘違いしそう。
結局俺は、6522円500株買い、6580円500株売り。
58円の中抜きに成功し、29000円の儲けであった。
終わってみれば、はらはらした割には大した儲けではない。
探索者のほうが、よっぽど稼ぎが良かったわ。
それでも、今回はほとんど自分の考えで売り買いをした。
デイトレーダーとして、初めて自力で稼げたのである。
そりゃー、嬉しいよ。
「よく見切ったな、天心よ」
道造さんが、俺を褒める。
もっと褒めて。
たぶん実力以上の結果だからね。
実際は運が良かっただけ。
でも、運も実力のうちって言うし、まあ、いいでしょう。
「わしは、東京三〇銀行と三井〇友銀行で2度取引をしたがのう」
あ……俺が悩んでたところで利確して、下がったところで三井〇友銀行を買ったのね。
さすがは道造さん。
隙が無いわー!
「やっぱりあそこは、売りでしたか?」
「いや。どちらでもいいんじゃないか。利益はちゃんと出とるわけだし、資金も焦げついてはおらんしのう」
道造さんの評価を聞いて、俺はほっと胸を撫で下ろした。
「よかったー」
「デイトレは、儲けが出取れば、それでよいのよ」
なるほど。
…………そのくらいに考えていた方が、気が楽だわ。
「そろそろ前場も終わりますね」
……今日の取引は勝ち逃げで終わりだぜ。
「午後は、サッカーの練習じゃったな」
「はい。前場、自分の考えで取引ができたし、儲けも出せて満足です。午後は石神公園にサッカーの練習をしに行きます」
「昼飯は、一緒に食おう。何にする?」
「道造さんは、後場トレードをするんでしょう。だったらコンビニで弁当でも買ってきましょうか? 俺、コンビニの弁当大好きっすよ」
「そうか、ではコンビニに買い出しに行こうとするか」
俺は頷くと、タブレットの電源を落とし、立ち上がった。
そして道造さんの後に続いてアパートを出た。
近くのコンビニに着くと奥まで進み、壁際に並んだ弁当を選ぶ。
「どれがいいですかねえ? 道造さんは、何にします?」
「そうじゃのう。いろいろあるから、何にするか迷ってしまうのう」
道造さんは、毎日のように弁当を食べているから、だいたいの弁当の味を知り尽くしているだろう。
「俺、これにしようかな」
俺が手にしたのはカレーライスだ。
最近カレーは、食べていないなと思ったからだ。
「ほーう。天心は、カレーにするのか。それじゃあ、わしは牛丼弁当にしようかの」
道造さんが、牛丼弁当を備え付けの赤いカゴに入れると飲み物を選びに向かう。
「天心。緑茶でよいか? それともウーロン茶か?」
「道造さんと同じでいいです」
「じゃあ、緑茶じゃぞ」
「いいですよ」
道造さんが、冷蔵庫の扉を開けて、冷えた緑茶のペットボトルを2本とってかごに入れた。
会計に並ぶ。
俺は、道造さんの後ろにつくと買い物カゴからペットボトルを掴みとる。
「おごってやるからカゴに入れよ」
「いいですよ」
「よいから入れよ」
「ありがとうございます」
俺は、カレーライスとペットボトルを買い物かごの中に置いた。
レジに預けると素早くバーコードを読み取られ代金が告げられる。
「現金じゃ」
「機械でどうぞ」
みちぞうさんが、横の機械に現金を投入する。
俺は店員から弁当入りのレジ袋を受け取った。
「最近は、レジも難しくなって困るわい」
「そうですね」
機械に小銭を入れるのは、面倒くさいよね。
カードなら、「ピ!」っで済むけど。
コンビニを出て道造さんの家に戻る。
一番近くのコンビニだから、買い物をしても20分くらいで帰って来れた。
後場の取引に、弁当を食べても余裕で間に合う。
「天心も、一人でデイトレをできるようになったのう」
その言葉に、俺の心臓がドクンと跳ねた。
明日、道造さんの家に来ちゃいけないのか?
指導はこれで終わりなのか?
確かに俺を教えながらでは、道造さんはトレードに集中できないかもしれない。
俺は、………邪魔をしていたのか。
俺は、恐る恐る確認した。
「明日もここに、デイトレしに来ていいんですよね?」
「もちろんじゃとも。ずっとここでデイトレするんじゃぞ。まだまだ教えることはたくさんあるわい。経験を積みながら覚えていくことは、ぎょうさんあるんじゃ」
良かった。
すげー安心したわ。
俺ってまだまだ道造さんに依存してるんだな………デイトレードでは。
「ありがとうございます。師匠」
「一人でデイトレするより、二人でしたほうが楽しいからのう。わしも天心が来てくれると嬉しいんじゃぞ」
「よかったです。一瞬、迷惑だったのかなと思いました」
「ないない。一人だと淋しいでのう。絶対毎日来るのじゃぞ」
「ありがとうございます。師匠」
道造さんが嬉しそうに微笑んだ。
昼飯を食べて道造さんと別れた俺は、サッカー練習のために石神公園に向かった。
石神公園は運動ができる大きな広場があるので、サッカーの練習には持ってこいだ。
目指すぜ、プロサッカー選手。
申し訳ありませんが、 明日から1日 1話投稿になります。
19時 30分 です。




