第99話 お許しが出た?
木曜日、いつものように道造さんの家に向かう。
途中、コンビニでおにぎりとペットボトルの日本茶を買うのはもうルーティーンになってきた。
昨晩はユーチューブのサッカー動画を見ていたのでサッカーの知識も徐々に増えてきていて、新たな個人技をいくつか覚えたよ。
まだ、脳内実演しかしてないから、実地訓練は今日の午後やるつもり。
脳内でイメージできることは、大体できる身体能力はあるつもりなので、もう覚えたといってもいい感じ。
あとは、熟練度を上げるのと、とっさにその技が出せるかどうかってところかな。
道造さんの家に着くとおにぎりを食べ、トレード開始。
寄り付きから、買いに入って午前中で1万2100円の儲け。
昼飯はいつものように道造さんとコンビニ弁当を食べ、サッカー練習のために石神公園に向かう。
本番まであと少ししか日数がない。
個人技に関する実技練習は、たぶん十分だと思うんだけど、サッカーの知識はまだまだ足りない気がしている。
あと必要なのは、チーム内での動きを伴う練習なのだが、これは今のところ脳内実演を繰り返すしかない。
石神公園でドリブルをしながら、周りに敵味方の選手をイメージして駆け上がったり後退したり、インターセプトしたり、プレッシャーを掛けに行ったり。
脳内で4-4-2だの3-4-3だの、システムを考えながら仲間や敵の動きをユーチューブで見た場面を脳内に再構築してその個々人の判断まで分割して思考しながら役割分担して再現する。
知力17891だからできる技かもしれないが、そのうち多重人格になりそうだ。
しばらく苦労していると――
スキル、『分割思考』を取得しました。
脳内に響き渡るメッセージ。
と同時に脳内に20人の俺が現れた。
俺本人と仲間役9人と適役10人だ。
とはいえ全部俺。
性格が違うとかということはない。
ただ単に一度に20人の役をやるために20に分裂しただけだ。
必要ならば一つに戻れるしね。
いわゆるマルチ脳の強化版というところだ。
聖徳太子だって17人の話を聞き分けていたというしね。
とはいえ、体は一つのわけで、何か意味があるスキルなのかよく分からない。
練習をしていると近づいて来る気配を感じた。
この気配は、九条綾華と門松さんみたいな感じがする。
「天心くん、やっと見つけましたわよ」
やっぱり綾華だったわ。
「これは、九条さん。この前は送っていただいてありがとうございました」
俺は、礼儀正しく頭を下げた。
この人は、お嬢様だし、俺はもう探索者じゃないから、同じ探索者仲間でもパーティメンバーでもない。
「天心くん、今日は私、大切なことをお伝えに来ましたのよ!」
なんだろうね。
……探索者じゃない俺には、もう関係ないことなんだろうな。
「9月1日は、ご一緒できなくなってしまって、申し訳ないと思っています」
「それは、もう大丈夫ですのよ」
「許していただけて、ありがとうございます」
「そうなのよ。あなたが探索者に戻る許しが出たの。もう連絡があったの?」
なんだって?
…………いま変なこと言ってたような?
探索者に戻る許しが出た?
もう連絡があったのか?
え!
「今なんて言いました?」
「もう連絡があったのかって聞いたのよ」
「その前です?」
「あなたが探索者に戻る許しが出たっていったのよ。私がおじいちゃんにお願いしたからね!」
九条綾華が、腰に腕を当て胸をそらす。
エッヘン! という声が聞こえてきそうだ。
「ほ、ほ、本当ですか?」
確かにこの子なら、お願い一つでそのくらいのことはできそうだわ。
「本当よ。これから池袋西探索者ビルに連れて行ってあげようか? 嘘じゃないのが分かるから」
綾華の斜め後ろに控える門松が小さく頷く。
「お願いします。お願いします」
「じゃあ、車に乗りなさい。あ、そうそう。私に感謝してくれてもいいのよ」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
すげー感謝だぜ。
一生をかけて恩返しするレベルだ。
俺は綾華と一緒に門松に連れられ駐車場に移動した。
見たことのある黒い高級車の後部座席に、綾華とともに乗り込む。
「天心君って、サッカーが好きだったの?」
綾華が小首を傾げながら微笑みかけてくる。
「いや。そういうわけじゃないんだけど……」
綾華は、意外そうに表情を曇らせる。
好きでもないサッカーボールを蹴って遊んでいたら変だよね。
「SC東京が8月8日にセレクション行うんだ。探索者を首になっちゃったから、それを受けてみようかなと思って練習していたんだよ」
曇っていた綾華の顔に、パッと光がさす。
憧れるような表情。
「プロのサッカー選手を目指してるの? そんなにサッカー上手だったんだ?」
「いや、あまり経験はなかったんだけど、この3日で練習したんだ。ユーチューブとかを見たりもしたよ。ルールとか、システムとか、戦術とか、いろいろ知ってないとできないみたい」
「練習3日目……、セレクションが8月8日?」
わかるわかる――無理ゲーだって思うよね。
そもそも素人なのに、あと何日練習できるんだって話だ。
普通はあり得ない話だし、まじめに練習をしている人たちに失礼だと言われても頷けるよ。
俺だって人外のステータスでなかったら、こんなこと考えない。
「合格できそうなの?」
ズバリ聞くねえ。
「かなり厳しいと思うけど、探索者をできなくなっちゃったから、やるしかなかったんだ」
「やったこともなかったのに?」
当然不思議に思うよね。
でも、そう思ったのは松本先生の、あの一言があったからだ。
「学校の球技大会で、ゴールキーパーをやったんだ。そしたらある先生にプロを目指したらって言われた」
「そっか! 反射神経いいんだね」
「そこそこね」
「探索者に戻れたから、もうサッカーやる必要なくなっちゃったね」
綾華の笑顔が可愛い。
女の子に免疫のない俺には、ちょっと厳しいぜ。
俺は、俯きながら答える。
「いつまた探索者資格をはく奪されちゃうか分からないから、経験としてセレクションだけは受けておこうと思うんだ。申し込みもしちゃったし」
「探索者はやるんだよね?」
「当然だよ。セレクションに受かったからと言って、すぐプロになれるわけじゃないんだ。それに受かる可能性は全然ないし」
実際フィジカルだけで、プロに通用するほど甘くはなさそうだ。
「よかった。余計なおせっかいにならなくて」
そんなことを心配してたのか……全然そんなことないのに。
「余計なおせっかいなんてとんでもないよ。すごく助かったっていうか、もう命の恩人レベルだよ。本当に感謝してる」
「そ、そう。……よかった」
綾華は、頬を赤らめ、視線をそらし、照れたように微笑む。
もじもじと親指を動かすしぐさがなんだか可愛い。
車が大きく曲がって探索者ビルの駐車場に入っていった。
横からジーがかかり体が傾く。
視線と視線がぶつかった。
体はぶつかってないよ。
ぶつかりそうだっったけど。
綾華はあわてて横を向いた。
門松、……グッジョブよ。
「門松! 運転気をつけてね」
「申し訳ありません。お嬢様」
車が止まり、俺たちは探索者ビルに入っていった。
第99話終了時
赤嶺天心 ヒューマン 14歳 レベル5
職業 怪盗紳士
HP 12(+18257)
MP 0 (+17831)
力 12(+300)
防御外皮 12(+4078)
知力 10(+17881)
速さ 12(+4034)
器用さ 16(+15)
スキル スチール(ユニーク)レベル6(16個)
気配察知(30)
分割思考(20) レベル1
スライムの胃袋(29704) レベル4
消化液(9235) レベル3
水魔法 スライムバレット(1088) レベル3
火魔法 ファイアバレット(2410) レベル3
装備 なし
アイテム リュックサック 腕時計
金 五十八万四千円
口座 二百五十万円
証券口座 五百九万八千円
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