第100話 探索者に復帰したぜー!
池袋西探索者ビル。
ドアを開け、ロビーに入るとマッチョの指導員さんが飛び出してきた。
「これはこれは綾華お嬢様! この度はご迷惑をおかけしました」
「本当にあなた、何をやっているの?」
「申し訳ございません」
平謝りに徹するマッチョの指導員さん。
「天心君の探索者資格だけれど、剥奪は取り消したのよね?」
綾華は、斜に構えて反り返り、胸のあたりでむんずと腕を組むと睨みを利かす。
「もちろんでございます。綾華お嬢様をソロで活動させるような状態にしてしまい、本当に申し訳ありません」
「それもそうだけれど、そもそも助けるために向かった人間を罰するなんて信じられないわ!」
「申し訳ございません」
「実際に必要がなかったかどうかなんて問題じゃないじゃない。その時は、そういう状況だと思われていたんだから、その後状況がはっきりした時がどうだったかなんて言ってたら、救助に向かえないでしょ!」
綾華はびしりと指さして言い放つ。
「そのせいで手遅れになったらどうするのよ!」
実際、俺が行かなかったらあいつら死んでた可能性はけっこうあったと思うよ。
自衛隊が来たのは、だいぶ経ってからだし、奥まで入ったわけじゃないしね。
「申し訳ありません。私の考えが間違っておりました」
この人、頭も筋肉みたいだから、判断がどうとか言ったら可哀想かも――なーんて俺、優しすぎ?
「あのー、それで俺の探索者資格のほうはー?」
「赤嶺君の探索者資格剥奪は、取り消されたから、もう君は探索者に戻っているよ。第一階層に入るだけなら、問題ない」
「よかった。これで生活費が稼げる」
「すまなかったね。赤嶺君。今後は気をつけたまえよ」
「はい」
「気をつけたまえじゃないでしょう! あなた、反省が足りないわよ」
「はい!! 申し訳ありません」
「分かってるのかなー?」
綾華は、額に手をやり俯いた。
「じゃあ俺、ダンジョンに潜ってこようと思います。九条さん、今日はどうもありがとうございました」
「綾華って呼んでください。あと、同級生なんですから敬語じゃなく普通に話して欲しいです」
「はい。次からそうしま――するよ」
「それじゃあ頑張ってね。9月1日を楽しみにしているわ」
綾華は、手を振って帰っていく。
俺は、久しぶりにダンジョンに潜ることにした。
新しいロッカールームのカギをキープし、第一階層に入っていくと、久しぶりに青いスライムとご対面。
久しぶり!
俺はそのまま青いスライムの横をすり抜け、オレンジ色のスライムゾーンに急いだ。
いたいた!
オレンジ色のスライムが岩に張り付いて食事中。
奥の大きな岩の周りにも、ぷよぷよした水まんじゅうのようなスライムが飛び跳ねているのが見える。
俺は静かに近づき、5メートルの位置からスチールを発動する。
「スチール!」
MP10をスチールしました。
ファイアバレット2をスチールしました。
防御外皮2をスチールしました。
速さ2をスチールしました。
久しぶりに聞く脳内メッセージ。
「スチール!」
知力10をスチールしました。
消化液 5をスチールしました。
スライムゼリー1をスチールしました。
オレンジ色のスライムは、俺の攻撃に気づいていない。
静かに攻撃を続ける。
「スチール!」
スライムの胃袋16をスチールしました。
「スチール!」
スライムの胃袋4をスチールしました。
HP10をスチールしました。
オレンジ色のスライムが、魔石と水に変わった。
全てを奪い尽くしたので魔石になるのは当然なのだが、探索者に復帰して最初の討伐成功は、なんだか感慨深い。
綾華が助けてくれなかったら、こんな風景を見ることはなかったんだよね。
綾華が女神のように思えてきたぜ。
ありがとう、ありがとう。
魔石を拾って、奥の大きな岩の周りのスライムに近づく。
「スチール!」
―――結局俺は、休まず夜八時まで働き続け、100匹のスライムを倒していた。
夜八時のパーラーは、探索者たちでごった返している。
その喧噪も、染み込むように懐かしい。
ああ、……戻って来れてよかったなあ。
目の前には、お気に入りの和風ハンバーグ定食。
こいつも食えなくなるところだったんだな。
一口頬張ると幸せの味がした。
100匹倒して、6万円。
デイトレードより、よっぽど稼げる。
損するリスクもほとんどないしね。
明日の朝も、道造さんのところには、いくつもり。
道造さん、淋しがるもん。
サッカーのセレクションはどうしようかな。
綾華には、経験のために受けに行くって言っちゃったけど、正直、受かりそうにない気がするし、本当のところ、受ける意味ってあるのだろうか?
でもまた、探索者資格の剥奪なんてことになったら、その時には、受けた経験があった方が有利に働くよなあ。
探索者資格って、そんなにすぐに剥奪されちゃうのかね?
俺って、マッチョの指導員さんに恨まれてたりしたのかな?
……恨まれるようなことをした覚えはないんだけど。
ルールを破ったのは間違いないけど、今後破らない保証はないよね。
知らないで破ってしまうルールとか、まったくないとは言えないし。
ダンジョンのなかで、悪事を働いても発見はされにくい。
悪事を働きそうな輩を早めに排除してしまおうという考えは、分からないでもないけどね。
資格の剥奪が頻繁にあることだとすると、セレクションはまじめに受けた方がいいんだな。
あと、高卒検定も受かっておきたい。
ハンバーグをまた一口。
探索者に戻れた後の和風ハンバーグ、最高だぜ。
サッカーって、覚えることがたくさんあるし、知らないことがありすぎる。
ユーチューブでの勉強も、日々続けた方がいい、というより必須だな。
セレクションまではできるだけ見る時間を作ろう。
俺は、早速スマホを取り出しユーチューブでサッカーの動画を見始めた。
その動画で勉強するのは、『分割思考』で分離した俺。
新しいスキルは有効に使わなくっちゃね。
元の俺は、引き続き今後のことを考える。
『分割思考』って、何気に便利。
さて、サッカーの練習も必要だし、かといってダンジョンで探索する時間はたくさん取りたい。
探索時間と稼ぎの額はある程度連動するのは明白。
多くの金を稼ぎたければ探索時間を増やすべきだ。
だとすると、午後を探索時間にあてるのが1番の方法。
朝8時半からは道造さんの所で、デイトレードだし、サッカーの練習はいつやればいいのかな?
早朝か?
夏なので、朝4時くらいには日が昇り始めている。
やっぱり、場所は石神公園しかないし、早朝なら人も少ない。
朝4時から8時少し前まで。
4時から3時間半あれば、だいぶ個人技は磨けるだろう。
これから帰って、寝るまではユーチューブで学習。
知識を詰め込む時間も有限だ。
『分割思考』を使えばタブレットとスマホを同時に見ることだってできるはず。
テレビでサッカーをやっていれば、それだって同時に見れる。
完璧だ!
8月8日までは、できるだけのことはやりつくそう。
――やることは山ほどある。
でも、不思議と全部やれる気がしていた。
俺は、和風ハンバーグ定食を食べ終わると立ち上がった。
第100話終了時
赤嶺天心 ヒューマン 14歳 レベル5
職業 怪盗紳士
HP 12(+19257)
MP 0 (+18831)
力 12(+300)
防御外皮 12(+4278)
知力 10(+18881)
速さ 12(+4234)
器用さ 16(+15)
スキル スチール(ユニーク)レベル6(16個)
気配察知(30)
スライムの胃袋(31704) レベル4
消化液(9735) レベル3
水魔法 スライムバレット(1088) レベル3
火魔法 ファイアバレット(2610) レベル3
装備 なし
アイテム リュックサック 腕時計
金 六十四万三千五百円
口座 二百五十万円
証券口座 五百十五万円八千円




