第92話 銘柄選び
5分ほど休んだ後、俺と道造さんはまた、デイトレードを再開する。
「メガバンク、終わっちゃいましたけど、次はどれを取引しましょうか?」
俺の問いに道造さんは答える。
「天心が銘柄を選んでみい」
そう言うと思ったぜ。
次は、銘柄選びの訓練だ。
戦う場所を自分で見つけられるのは、一番大切だからね。
「銘柄は何でもよいが、それぞれに特徴があるもんじゃ。属性と言ってもよい」
道造さんの講義が始まったな……大事なことを聞き逃さないようにしなくちゃ。
「一つには、今人気の業種に属するもの、そうでないもの。これは、国内市況の業種指数をみると、その日の騰落率が載っておる」
「騰落率?」
……初めて聞く言葉だな。
「簡単に言えば、その業種が今日どのくらい上がっているか、下がっているかを表しておると思えばよい」
説明口調の道造さんが教師に見えるぜ。
噛み砕いた説明で、難しい専門用語でも、なんとなくイメージがわくわ。
「上に載っている業種ほど、騰落率のパーセントが高く、値上がりしておる。逆に下は、パーセントが低く(マイナス)値下がりしておる。真ん中は値動きや出来高が少ない傾向があるかのう」
「上に載っている業種ほどいいってことですよね」
「そうじゃな。じゃが手口によっては、そうとも言えん。売って儲ける者や、日をまたいで売買する者には下に載っているものが、魅力的に感じる者もおるじゃろう」
「売って儲ける者……ですか?」
道造さんは俺の反応を見て、口元にうっすら笑みを浮かべた。
「空売り……信用取引じゃな」
「危ないから、やっちゃダメと言われた奴?」
「そうじゃ。わしはやっとるが、まだ天心はやるな。いや、ずっとやるな」
ずっとかよ!
自分はやってるくせに、俺には禁止とは……矛盾してるじゃん。
――なんとも道造さんらしいぜ。
無茶をしてほしくないという気持ちは分るけどね。
「真ん中のに、魅力的に感じる者はいないんですか?」
道造さんは顎に手を当ててうなずいた。
「少なくともデイトレードには向かんな。なぜだかわかるか?」
これは、……たぶんあれだ。
デイトレードに大切な条件。
「出来高が少ないと売り買いが成立しづらいし、値動きが少ないってことは、間を抜きづらいってことですよね」
道造さんがゆっくりと口を開く。
「その通り。バーコードの銘柄があったじゃろう。値幅が1円しか動かなかったら、利幅は最大でも1株1円しかない。5円の幅で動いている銘柄のほうが利幅が大きくて魅力的じゃろう」
「たしかに」
ということは……俺は上のあたりに載っている業種から銘柄選びをすればいいのか。
「あくまで業種だからのう。1位の非鉄金属を開いてみい。その業種の銘柄が、前日比で値上がりパーセント順に並んでおるじゃろう」
「ほんとだ。この一番上の銘柄がいいってことですか?」
だが道造さんはすぐに首を横に振った。
「ボリュームは考えたか? 出来高や売買代金も載っておるじゃろう。値上がりパーセントが高くてもこの2つが少ない銘柄はダメじゃな」
「あ、そうですよね。思った時に売買が成立しない」
今さっき、出来高や売買代金が大切だと教わったばかりなのに、身についてなかったわ。
「9位のJ〇金属くらいのボリュームがあれば、出来高ランキングと売買代金ランキングに載っとるじゃろう……」
「あと、19位のフジ〇ラですかね」
「じゃな。この2つは他と一桁違う。このくらいボリュームがあればデイトレードに向いていると言えるじゃろう」
道造さんが満足そうにうなずいた。
「じゃあ、その二つの銘柄のチャートを調べてみようかのう」
「まずJ〇金属からでいいですかね」
「うむ」
俺はJ〇金属のページを開き、多機能チャートにボリンジャーバンドとMACDを設定した。
「まず日足でここ3カ月を見てみい」
俺は、多機能チャートの設定を日足3ケ月に設定する。
画面が切り替わり、日足3ケ月のローソク足とボリンジャーバンドとMACDが表示された。
移動平均線は波打ちながら、全体としては右肩上がり――つまりこの銘柄は上昇相場にある。
「いい感じじゃないですか。落ちるナイフじゃないですよね」
「うむ。――次、5分足でここ2日を見てみい」
「はい!」
いい銘柄を見つけたかもしれない。
俺は、ノリノリで設定を変える。
画面が変わり、5分足のローソク足とボリンジャーバンドとMACDが表示された。
昨日一日と、今日これまでの分。
その画面の横では、現在の板が点滅しながら売買の現状を表示している。
「似た感じですけど、上げの値幅がメガバンクより多そうですね」
「そうじゃな。今日、一番上がっている業種じゃからのう」
「それなら、もっと上げていてもいいと思うんですけどね…………」
「寄り付きでかなり上げとるから、ここからは下げる番じゃろう」
「そうなんですか?」
「上げ続ける株はなく、下げ続ける株もないと言うがな」
「へー。そうなんですね」
「いや。13日連続ストップ高とか見たことがあるぞ」
「なんだ。その諺、間違ってますね」
「ま、多少の波はあるもんじゃ。じゃから一概に間違っておるとは言えん。それに、最終的に、その株はそこから半値以下に落ちたから、最終的には当たっとるのかもしれんぞ」
「でもー、結局なんのあてにもならないじゃないですか」
「じゃが、損を抱えて持ち越した時は、この諺を思い出すものなんじゃ。心の支えになるというか…………のう」
「なんかそれ、よくないんじゃないですか?」
「おまえは、そういう思いをした事が無いから、この諺のありがたみが分からんのじゃ」
…………うーん。絶対、よくない結果が待っていそう。
「オッと見てみい。J〇金属が、ガンガン下がりだしたぞ。今回は諺通りになったのお」
「うわー。ほんとだ、すごい下げてますね」
「この勢い、どこまで続くのかのう」
J〇金属の株価は4853円を付けた後、ものの数分で4796円まで下がり、次いで4815円まで戻したと思ったら再び4794円まで下げている。
「MACD線がピークをつけ、シグナル線を下抜けましたよ」
「売りシグナルじゃな! まだ下がるぞ」
「デッドクロスってやつですね。下がり切ったところで買い出動したいところでしょうか?」
「下がり切ったところが分かればじゃがな」
それはそうだ。
よし、どこで反転するのか分析しよう。
俺は、今度はこの銘柄で勝負してみようかと思っていた。




