第91話 怒涛のトレード
ほんの数分で8000円の利益が出た。
やったね!
デイトレード、半端ねー。
でも今の株価は――
6500円を割り込んでさらに下がり続けている。
ぎりぎりセーフだっただけ?
道造さんの合図が無かったら、俺、あそこで売れただろうか?
絶対無理だった。
全然売ろうと思ってなかったし…………反射的に、指が声に反応しただけだった。
これは、道造さんの取引だ。
俺自身の判断でトレードし、利益を出せるようにならなくては1人前のデイトレーダーとは言えない。
でも、最初から損失を出すより、道造さんの指示に従っていた方が、安全に経験を積める。
今は、道造さんの判断についていけないが、経験を積めば道造さんと同じレベルの判断をできるようになるかもしれない。
今は、手取り足取り教えてもらっている状態――いわば赤ん坊レベル。
始めたばかりなのだから当たり前だ。
道造さんが、手厚く面倒を見てくれていることに感謝しよう。
「天心! 気を抜くな。下げきったら買い参入じゃぞ! わしがみず〇、おまえは三井住〇な!」
「はい!」
道造さんが多機能チャートでボリンジャーバンドとMACDをチェックしている。
1分足のチャートだ。
俺も急いで三井〇友銀行の多機能チャートを開き設定を合わせる。
だが視線は道造さんの見ているパソコン画面、みず〇銀行の多機能チャートだ。
2本目、3本目のローソク足が、ボリンジャーバンドで、3σの線上。
だが、4本目のローソク足――つまり4分目で、MACD線が頂点をつけ、急角度で下を向いていた。
ボリンジャーバンドで株価は、2σにタッチしている。
そして今、5本目では1σにタッチしそうな勢いで株価は下がり続ける。
6分が経つ。
株価は、1σを突き抜けてもうすぐ移動平均線にタッチしそう。
「MACD線がシグナル線を下抜けるぞい!」
ボリンジャーバンドで株価が移動平均線を割り込むのとMACD線がシグナル線を下抜けるのはほぼ同時だった。
株価はさらに下がり続ける。
昨日の終値は6140円――7本目のローソク足つまり7分目で、株価はそれを割り込んだ。
「天心、-1σで反発するぞ! 6000円の壁にタッチしたら上がり始める。わしは、みず〇で6005円で指値注文じゃ! お前は…………」
自分のタブレットに視線を戻すと株価の流れは全く同じ動きを刻んでいる。
「三井〇友で5865円で指します!」
「よし、タイミングを外すなよ」
「ワンタップで発注できます!」
「ここじゃ!」
道造さんが叫ぶ。
三井住〇銀行の株価が-1σ・5860円に板一枚。
5861円の買い板が一瞬消える。
俺の人差し指は、注文確定ボタンをタップした。
株価がググンと上に跳ねる。
買えているはず、買えているよね。
株価は一瞬で8円跳ね上がっている。
当日約定一覧を、急いで開く。
三井〇友銀行…………5865円、100株買い。
あった……約定成立。
「師匠! 買えてました」
「わしもじゃ!」
次は売りだ。
「この上げは長くは続かん。1σで売り抜けるぞ!」
「はい」
俺は、1σ・5915円より5円安い5910円で、100株の指値売り注文をセットする。
急激に上がり続けた株価が、10本目のローソク足、わずか2分後に1σ目前に。
俺はすかさず注文確定ボタンをタップ。
タップと同時に、いやわずかに早く株価が上にはね――そして急落を始める。
11本目のローソク足を頂点に一気に下降。
やばい。
今の動き、売れたか? それとも、置いていかれたか?
なんで指値にした……!
成り行きなら、確実に売り抜けられていたのに。
確認するまでのわずかな時間に自分のミスを自覚する。
……売れていてくれ。
MACD線は、シグナル線に接して突き抜けることなくはね返されている。
当日約定一覧。
あった。
良かった。
売り抜けていた。
5913円100株。
指した値段より3円高く約定。
「ふー」
無意識に息を吐いた。
結果オーライか――俺は胸を撫で下ろした。
「次は、わしが三井〇友、天心は東京三〇銀行じゃな」
思考を切り替える。
「はい」
残ったメガバンクは当然それだ。
「次の買いは忙しいぞ! 狙いは移動平均線じゃろう」
「やばいっす!、もう移動平均線す!」
「急ぐんじゃ!」
13本目のローソク足が長く伸び、移動平均線にタッチする。
MACD線はシグナル線に並走し、まだ下向きだ。
だが、株価が移動平均線にタッチした瞬間大きく跳ね上がる。
速い。
俺は急いで成り行き100株買い、間髪入れず注文確定ボタンを押す。
成り行き注文なので絶対買えているはずだが、いくらで買えたかは定かではない。
一瞬跳ね上がった株価がまた移動平均線にタッチして、また上がり始めた。
俺はいくらで買えたかを確認する。2880円100株。
移動平均線に接した時の株価は、2872円。
8円も高かった。
ち! 一瞬遅れたか。
「さて、売り時はどこになるかのう……」
もうすでに、14本目のローソク足は、上を向いて上がって1σを抜けていた。
一気に2892円――これはもう売り時だろう。
俺は、急いで成り売り注文に取り掛かる。
準備ができ次第注文を確定する。
15本目のローソク足、2895円まで伸びたローソク足が一気に2893円まで落ち込み、またじりじりと買いが入り上がり続ける気配。
しくじったか?
まだ上がるのか?
俺の成り売りは、2895円で約定していた。
俺の注文で下げたのか?
100株だぞ…………そんなことないよな。
19本目のろうそく足が2897円の高値を付け、そこからじりじり下げ始める。
「どうやら、朝の勝負は終わったのう」
道造さんが息を吐きながら、椅子の背もたれによりかかる。
俺はたった15分の間に3銘柄で、6回の取引を約定した――忙しかったぜ。
まだ株価は動いていたが、さっきまでのような乱高下ではなく、値動きは激しくない。
「今日は、まずこんなもんじゃろう。ちょっと一息入れようや」
「そうですね」
俺は、今日の取引を再確認する。
当日約定一覧を開く。
みず〇銀行、6600円100株買い。6680円100株売り。
三井〇友銀行、5865円100株買い。5913円100株売り。
東京三〇銀行、2880円100株買い。2895円100株売り。
合計で、14300円の儲けだった。
何より3回とも利益が出ているし、焦げ付いた資金もない。
初めてにしては上出来だろう。
「どうじゃった。初めてデイトレードをした感想は?」
「忙しかったですね。でも、師匠の指導が良かったので利益が14300円も出ましたよ。ありがとうございます」
「わしも、張り切ってしまったのう。いつもは一銘柄取引するくらいなんじゃが……」
「なんだ、そうなんですか。でも、なんとなく経験が積めてよかったです。……それにめちゃくちゃ面白かった」
俺はにっこりと笑った。
道造さんはニヒルに口の端を上げる。
「儲けた時は面白いもんじゃ……」
そりゃ、損した時は面白くないわな。
とりあえず、メガバンクでは、儲けさせて貰ったわ。
さすがは道造さんの推薦銘柄。
メガバンクは取引し終わったので、次は銘柄選びから始めなければならない。
銘柄選びのノウハウを道造さんからガッツリ教わろうと思いながら、とりあえず一休みするのだった。




