第86-5話 閑話 私は九条 綾華
私は九条 綾華。
日本探索者協会会長・九条剛三の孫娘よ。
小学生の時、初めて発見されたダンジョン。
世界中で次々に見つかった。
まるで異世界のような、魔石を持つ不思議な生き物が棲む謎の地下洞窟。
自衛隊を中心に調査が開始され、危険な生物が棲んでいることが判明すると入り口は封じ込め目的の頑丈な門扉でふさがれた。
その門扉を取り込むように、封印するかのようにビルが建てられる。
日本探索者協会が組織され、自衛隊幕僚幹部だったお爺ちゃんが会長になった。
ダンジョンの調査が一段落し、調査の主体は、自衛隊から探索者協会の探索者に任されるようになった。
探索者――ダンジョンの魔物を狩って魔石を回収することを主たる目的にする仕事。
未踏のダンジョン深部に分け入って、その不思議を解明するのは一部のエリート探索者だけで、大方の探索者はすでに知られている踏破地域の魔物を減らすだけ。
誰でもなれるし、一獲千金の可能性はあるけど、命の保証がない危険な職業。
時々起こる、魔物の大量発生には自衛隊が対応するが、それを起こさせないように魔物を減らすのが本当の目的なんだとか。
でも、エリート探索者は少し違う。
封印ビルで地上から隔絶され、地上とは別の生き物たちが棲む不思議な世界。
そのダンジョンを開拓するエリート探索者――己の実力だけを頼りに世界を広げる強く美しい英雄たち。
憧れちゃうわ。
私も探索者になったら…………未踏のダンジョンを探索、新事実や宝やアイテムの発見、襲い来る魔物たち、戦い、活躍、ピンチ、助けてくれる強く美しい異性との出会い。
うふふふふ…………。
この前の6月、15歳になった私は、晴れて5年前からなりたかった探索者になれたの。それも特殊探索者に認定されちゃった。
探索者は、15歳にならないと第1階層より先に潜る許可が下りない。
だから、15歳になったら探索者にしてねって、おじいちゃんにお願いしておいたわけ。
おじいちゃんって、自分がルールだっていつも言ってる。
だから簡単だったみたい。
もっとも、もともと何歳からでも探索者にはなれるんだって。
中学生の春、おじいちゃんの現地視察に我がままを言って付いて行かせてもらった時、初めてダンジョンに入ったわ。
その時入った池袋西ダンジョンの第一階層には、水色のプルプルした大きなグミのような不思議で綺麗な生き物がいた。
動物図鑑に載ってない生き物――スライム。
可愛いのに魔物なんですって。
驚いた。
ダンジョンに入ったら、目の前に光でできたステータスボードを見ることができたわ。ステータスオープンって唱えてね。
そしたら、私、すごかったの。
スキルが――
『気まぐれな天使の加護』という、ウルトラレアなスキルなんだ。
時々ラッキーが起きるんだって。
命拾いしたりとか?
いつもというわけじゃないから、少し当てにならないけど、でもすごくいいスキルらしいの。
それでね、私、特殊探索者に選ばれちゃったんだって。
きっとこれで、ダンジョンを開拓するエリート探索者の一員になれるわ。
それでね、特殊探索者の訓練で、何度かダンジョンで訓練した。
凄い装備をおじいちゃんが買ってくれたから、私とっても強くなれちゃうの。
銃で殴ると、弱い魔物なんて一発でノックアウトだよ。
新体操をやってたから、バトンの要領で銃をくるくる回しちゃうの。
それで、ドカーンって殴っちゃう。
銃を撃つのはチョットだけ苦手だけどね――今にきっと上手になるよ。
宙返りだって、装備のおかげですーごく高く飛べるし、何なら空中を駆け上がることだってできちゃうんだ。
――ブーツの力なんだって……謎スキルだね。
今度9月1日に一緒に特殊探索者の訓練を受けることになった人がいて、それはその人が9月1日が誕生日だからで、この前探索者になったばかりなんだって…………おじいちゃんに、その人のことを根掘り葉掘り聞いちゃった。
赤嶺天心君ていうの。
一人でスライムキングやメタルスライムっていう強ーい魔物を倒しちゃったんだって。
9月1日が待ちきれなくて、我慢できないからおじいちゃんに頼んで、天心君に会いに行っちゃった。
6月生まれだから少しだけ私がお姉ちゃんだけど、天心君て私より背が高くて、すらっとしてて、でもヒョロじゃなくて、お顔もなんかりりしかった。
スライムバレットっていうすごい魔法が使えるんだって。
魔法だよ……魔法。
凄くない!
魔法なんて使える人めったにいないよ。
あとスチールっていうスキルも持ってるの。
2つもスキルを持ってるなんて、絶対将来はエリート探索者じゃない?
それもトップクラスの探索者になると思う。
まだ14歳だし。
それで、スライムバレットを見せてもらったの。
かざした手から、なんか液体がババッって飛んでスケルトンが粉々になってた。
もうこれは、パーティを組むしかないでしょ。
物静かだし、優しそうだし、強くてカッコいいし、背は高いし、王子様だよ、王子様。
そしたらさ、スケルトンがいっぱい襲ってきちゃったの。
…………10匹くらいかな?
だから、私もいいところを見せようと思ったの。
銃で殴っったり、蹴り飛ばしたり――あ! 1匹だけ銃で撃ったよ。ばっちり当たった。
10匹ぜーんぶ倒しちゃった。
へへ! どう? 私も凄いでしょ。
強いところを天心君に見せられて、私も大満足。
でね、探索が終わった後、おうちまで送っていってあげたんだ。
門松に運転させた車に乗せてあげた。
後ろの座席に二人で座ったんだ。
緊張しちゃった。
天心君も凄く緊張してたみたい。
顔がちょっと赤くなってた……かわいい。
きっと私のこと好きなタイプだったんだよね。
気まぐれな天使様、ありがとう。
9月1日が楽しみだなーーはやく天心君にまた会いたい。
「お嬢様、探索者協会から予定の変更連絡が参っております」
門松ったら、今いい感じで天心君のことを考えていたのに、邪魔しないで欲しいわよね――まったくもう。
「なあに? 探索者協会がなんて言ってきたの?」
「はい。9月1日の件ですが、中止になったとのことです」
「え! 何それ。どういうこと?」
「なんでも、赤嶺天心様が探索者資格を剥奪されたそうでして、このまま個人レッスンになるそうです」
「どうして天心君がそんなことになるのよ?」
「知り合いの探索者を助けるために、第二階層に入ったらしく、それが協会のルールに抵触したとのことです」
「詳しく教えて」
「第二階層で、スケルトンの大量発生が起きまして、知り合いの3名、梶谷猛、金城守、田畑康太が残っていることを知った天心様がルールを無視して助けに向かったそうです。実際は命にかかわるような状況にはならず、4人は自力でスケルトンから逃げてこられたとのこと」
「じゃあ、天心君は人命救助のためにルールを破ったってことじゃない。それで資格剥奪ってひどくない?」
「ですが、実際は命にかかわるような状況にはならなかったようですし」
「おかしい、おかしい、絶対おかしい。天心君は悪くない」
「ですが、そういうルールですし」
「変だわ、変だわ。絶対変よ」
「ですがルール……」
「ルールが変よ! 天心君は悪くない。ルールが‼ ――おじいちゃーん!」
私はおじいちゃんを呼びに走った。




