第85話 町中華で
第80話終了時
赤嶺天心 ヒューマン 14歳 レベル5
職業 怪盗紳士
HP 12(+18257)
MP 0 (+17831)
力 12(+300)
防御外皮 12(+4078)
知力 10(+17881)
速さ 12(+4034)
器用さ 16(+15)
スキル スチール(ユニーク)レベル6(16個)
気配察知(30)
スライムの胃袋(29704) レベル4
消化液(9235) レベル3
メタル化1(体を金属に変える。消費MP2)
水魔法 スライムバレット(1088) レベル3
火魔法 ファイアバレット(2410) レベル3
装備 なし
アイテム リュックサック 腕時計
金 五十八万7千円
口座 二百五十万円
証券口座 五百万円
道造さんの後ろについて歩いて行くと、目の前には少し色あせた看板、赤いのれんのかかった町中華が目に入った。
入り口を入ろうとしたとき、手書きの「冷やし中華はじめました」の紙に注意が向く。
冷やし中華、食べようかな…………夏しか食べられないだろうし。
ガラガラっと引き戸を開けて中に入る。
店主が、右掌でテーブル席を示した。
カウンター席と二つのテーブル席は埋まっていて、空いているのはそこだけだ。
いつもここは混んでるな。
味もいいし、値段も安めだから当然か。
床は古いタイルで、テーブルの縁はすり減ってるけど、ここの客はそんなことを気にしない人たちだ。
大多数の庶民。
高級な雰囲気や接待、メニューを望むような人は来ない。
席に着くと、おばちゃんが冷たい水と少し角の折れたメニューを置いていった。
「何にする?」
道造さんが聞いてくる。
……高菜チャーハンか、冷やし中華か――どっちにしよう。
やっぱりここは――
「この前は、高菜チャーハンと餃子でしたよね。美味しかったけど……今日は冷やし中華にしてみようかと思います」
「そうか。じゃあ、わしも冷やし中華にしてみようかのう」
道造さんも冷やし中華にするのか。
夏だし、冷やし中華――いいよね。
「冷やし中華二つ」
「あいよー」
おばちゃんの声が厨房へ飛ぶ。
「冷やし中華二つ」
「餃子はいらないかい?」
「そうじゃのう。食べようかのう。天心も食べるじゃろう?」
さっぱりした冷やし中華とあつあつの餃子は、思いのほか相性が良く、夏の定番メニューらしい。
「はい。俺も食べたいです」
「あいよー。餃子2枚追加ー!」
おばちゃんの声がまた厨房へ飛んだ。
おばちゃんが、メニューを持って定位置に戻っていく。
「天心、なにか悩みでもあるのかのう? 相談があるなら聞くぞい」
俺、顔に出ていたのかな?
道造さんは、なんでもお見通しなんだなあ。
「実は、――俺、探索者資格を取り上げられちゃったんです」
道造さんが驚いて、飲んでいた水をブッと噴き出した。
「いや、すまん」
「大丈夫ですよ」
俺は急いでテーブルを拭いた。
「じゃが、天心。探索者資格を取り上げられるとは、何をしたんじゃ?」
道造さんが眉根を寄せる。
「昨日、知り合いの探索者が、第二階層でピンチだと聞いて…………」
俺は、探索者資格を取り上げられた経緯を淡々と説明した。
…………
「全く、頭の固い職員じゃのう。人助けのために入ったのにそんな扱いを受けるとは!」
「でも、俺が行ったことで助かったわけじゃないので……」
本当は……俺が行ったから助かったんだと思うけど、そういう判定じゃないんだよね。
「それにしてもじゃ!」
道造さんは、本気で怒っている。
「情状酌量という言葉を知らんのかのう」
「まあまあ、落ち着いてくださいよ。ここで怒っても状況は変わらないんだし。俺としては、これからデイトレードで生きて行かなくちゃと思うわけです」
「天心よ! デイトレードは簡単ではないぞ。生活費を稼ぎだすなんて夢のまた夢じゃ」
「でも、道造さんはできてますよね」
「まあ、そうじゃがな。じゃが、常勝無敗というわけにはいかん。前にも言ったが、10勝1敗でも損が出ていることだってあるのじゃぞ」
前にそんなことを言っていたような気がする。
負けたところを見ていないので、言っていることがピンとこない。
数万ずつ稼いでいても、一気に100万くらい負けるっていうことか?
パチンコでは、なんとなくフィーバーしていても負けていることがあるのは分るような気がしているが、デイトレードもそうなのだろうか?
道造さんが、嘘を言うはずはないので、10勝1敗でも損が出るケースはあるのだろう。
「とにかく、デイトレードだけで生活しようなんて言うのは無謀じゃぞ」
……道造さん、やってるじゃない?
「何かしら、職は探した方がいいな」
「そうですね。分かるんですけど、職探しって何をすればいいんだか?」
職を探した方がいいのは言われなくても分かっているんだ。
でも、当てがないんだよね。
高卒ならまだしも、中卒――いや、今はまだ現役中学生。
この年齢じゃあ、バイトだってままならない。
高卒認定試験は早めに合格しておいた方がいいのかな?
そうすれば、高卒者の就職募集を受けられるかも。
とにかく中学卒業までは、今の有り金で過ごすしかない。
手元に五十八万、口座に二百五十万円。
これだけあれば、卒業までは十分に暮らしていけるはず。
焦らずに行こう。
高校生なら、アルバイトも探せばあるだろうし、高卒認定を取って何か仕事を探せばいい。
高卒認定試験は確か8月頭だったかな。
1ヶ月くらいで結果通知が送られるはず。
1回で全教科合格すれば、9月から飛び級みたいに高卒者として職探しだ。
「そうじゃのう。高校卒業するまで、収入は望めんか……」
道造さんが頭を抱えて一度うつむき、今度は天井を見上げる。
「それは仕方がないとあきらめて、今は元本を減らさぬように、慎重にトレードするしかあるまい」
「そうですね。俺、けっこう金持ってるし、たぶんなんとかなりますよ」
探索者を辞めさせられたのは、つくづく痛い。
収入がなく、預金を切り崩す生活は胃がキリキリしてきそうだ。
「大丈夫。大丈夫。トレード用の500万とは別に300万くらいありますから」
俺は道造さんに顔を近づけ小さな声で伝えた。
「まあ、それだけあれば、1年くらいはなんとかなるじゃろう」
おばちゃんが冷やし中華と餃子を運んでくる気配。
俺と道造さんは聞かれないように話を一旦止めた。
大金の話なんて、人に聞かれない方がいいからね。
「冷やし中華2つと餃子2枚ね。注文はそろったかい?」
「ああ、大丈夫じゃ」
おばちゃんは軽く頷き、愛そうなくくるりと背を向け定位置に戻っていく。
俺たちは、再び話始める。
「天心には、わしのすべてを教えてやる。1人前のデイトレーダーにしてやるぞい」
道造さんは、一段と真剣にデイトレーダーとしての術を俺に教えなくてはと、再認識したのだろう。
「よろしくお願いします。これから道造さんのことを『師匠』と呼んでいいですか?」
「『師匠』か…………なんだかむず痒いのう。じゃが道造さんと呼ばれるより、距離がちじんだ気がする――よかろう。『師匠』と呼んでくれ」
「ありがとうございます。師匠」
道造さんは、まんざらでもなさそうに、いや、嬉しさを隠すように、僅かにニヤリと口の端を上げ、目じりを下げた。




