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祝15万PV達成 『親ガチャ失敗・俺の親、泥棒ですが何か!』 怪盗紳士は『スチール』極めて成り上がる。  作者: 米糠


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第83話 デイトレード。落ちるナイフは拾わない?

 

 道造さんが、鋭い目つきでパソコン画面を睨みつけている。

 さっきまでの穏やかな空気は、もうどこにもない。


 株価は前日終値より安く始まり、わずかな反発を挟んで、すぐに下に向かった。

 ――速い。

 チャートの線が、まるで坂道を転げ落ちるように滑り落ちていく。

 寄り付きって一番動きが激しいものだ。


 道造さんの言う通り、しばらくは下げ相場が続くのだろうか?


「うーむ。こりゃ、下げが急じゃのう」


 道造さんが低く唸る。

 俺にポイントを教えているのだ。


「一度リバウンドをはさむかもしれん。一瞬の勝負かもしれんが、参戦できるタイミングがあるやもしれんのう」


 …………!!


 道造さん。

 落ちるナイフは、拾わないんじゃなかったのか?


 だが、道造さんの表情に迷いはない。

 勝負するつもりなんだね。


 真剣な表情で多機能チャートのボリンジャーバンドとMACD(マックディー)を交互に見ながら、板の動きを注視する。


 そして道造さんは、素早く指値注文をセットし、パスワードを入力した。

 もうこれで、クリック一つで注文が通る状態になったはずだ。


 道造さんの人差し指が、マウスの左ボタンの上で静止する。

 中指が、わずかに震えている。


 緊張のせいじゃないと思うけど、自然に震えちゃうんだね。

 いつでも撃てる状態で――神経が研ぎ澄まされている感じ


 俺も、道造さんと同じように、息を詰めて板の動きを注視していた。


 ――速い。


 株価が上下に細かく揺れ、そのたびに板の数字が一瞬で書き換わる。


 このスピードは、出来高が桁違いに多いからだ。


 瞬間ごとに、売り買いがぶつかっている。

 まるで、見えない誰かたちが、画面の向こうで殴り合っているみたいだ。

 そう……これは、大金を賭けた、リアルな(たた)き合いだ。


 人気のない銘柄だと取引自体が数十分たっても成立しないものだってあるのにね。


 俺も昨日、いろんな銘柄の板の動きを見たので、この銘柄の動きの凄さくらいは分るんだぜ。


 出来高ランキングが高い銘柄を選ぶって、板の動きが激しい銘柄ってことでもあるんだな。

 それだけ、早く取引が約定するってわけ。


 たぶん、デイトレードには必要な条件なんだと思う。


 だって売りたいと思っても売れないんじゃあ、そこで資金が焦げ付いちゃうもんね。

 資金がその場に縛られたら、次の勝負ができなくなっちゃう。


 だから株取引には流動性が必要なんだよね。

 戦うための最低条件なんだ。


 株価は、道造さんの指値を下回ってからも、どんどん滑り落ちていく。

 これなら、クリックの瞬間に間違いなく約定する。

 ただ、時間が経ちすぎると認証が切れるため、また入力し直さなければならなくなる。


 道造さんは、セキュリティー対策が厳しくなって、やりづらくなったと言っていた。


「よし、ここじゃ!」


 道造さんの人差し指に力が入った。


 カチッ。


 乾いたクリック音


 俺も、まさに同じ瞬間をここだと思ったんだよね。


 道造さんと、同じ考え、同じタイミングだったのは嬉しい。

 俺の相場勘も、たまには当たるようになったのかもしれない。


 道造さんの注文が実行されたその刹那、株価が弾けるように上にはねた。


 道造さんは、もう次の操作に入っている。

 今、買った株を成行で売る準備。


 指が走る。

 クリック一つの遅れで、約定できずに資金が焦げ付く――それは避けたい。


 一瞬の猶予もないのか?


 準備完了。

 売りの準備ができたということは、売るための株はあった――つまり、確認はしていなかったが、買い注文は全株数成立していたということ。


 一瞬跳ね上がった株価が、乱高下を繰り返す。

 上下、上下――まるで暴れるように。

 だが、その振れの中で、じわりと底が固まり始める。

 そして底を打ったのか、波打ちながら上がり始めた。


「ここらまでは、来るじゃろう」


 道造さんが、ボリンジャーバンドの-1σにマウスで矢印を合わせる。


 なるほど、利確はその近辺という読みか。


 株価は、そのラインに向かって駆け上がる。


 早い……リバウンドの勢いが、想像以上だ。


 そして――グッ、と一段跳ねた。


 -1σを、わずかに突き抜ける。


「ここじゃ!」


 道造さんの声が響く。


 いつもはこんな声を出さないのだと思う。

 ……今日は俺に教えるためにやっているのだろう。


 成り行き注文なので、売りは成立しているのは確実だが、いくらで売れたかは分からない。


 当日約定一覧のページを開いて確認する。


「よし! まあまあの値で売れたのう。4万は抜けたぞい」


 株価は-1σで成立していた。

 さすが――出来高が多いため板が厚く、大きく下げずに売りぬけたらしい。


 注文した株数が多いと自分の売り自体で株価が動いてしまうこともある。

 例えば、1万株の売りを出した時に、買い板が3千、3千、4千と並んでいれば――その注文だけで、全部の買い注文を食って板が三段落ちる。


 一瞬誰かか先に1万株売りに出していたら、自分の注文は下がったところで値が付くわけだ。


 成り行き売りの場合、板が乱高下する時には、目論見より大きく下の値がついてしまうことだってあるということ。


 思ったより高く売れたということは、売りを入れた瞬間に、たまたま誰かの買い注文がぶつかったのだろう。

 成り行き注文は、狙ってクリックをしていても、思惑通りにいかないことも多いんだそうだ。


 今の取引は、成り行き注文だったから、運次第で儲けが2万円になっていてもおかしくなかったらしい。

 まあまあ、ラッキーだったわ。


「さーて。もう一回チャンスがあればいいんじゃがのう」 


 道造さんは、すでに次を見ていた。


 すごいよね――道造さん。


 デイトレードで利用するのは、短時間の小さな波だ。

 こういう下げ相場の時は、大きく上がる波にはなりにくい。

 だから、1日のうちに何度も利幅をぬけるチャンスがあるというわけではない。


 道造さんのやり方はそういうやり方だ。


 板の上下に壁を作るような、道造さんより、もっと細かい波を利用するデイトレーダーもいるそうだ。


 だがしかし、壁を作るには多額の資金が必要で、道造さんにそのやり方は無理だと言っていた。

 いや、正確には見合わないと言っていた。


 だから俺は、誰かがそれをやっているのを横目で睨みながら、そいつらと戦うだけである。


「前場はここまでじゃな」


「もうそんな時間ですか? 早いですね」


 株価の波を睨んでいたら、もう11時を過ぎていた。

 前場は11時半まで。


 最後にどんな動きを見せるのか、観察するのも経験だ。


 オッと、最後に上に少し跳ねたぞ。


 俺は、11時半まで株価の動きを観察し、やっと終わったかと軽く息を吐いた。







 



 





 

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