第79話 バカな奴ら?
「さて、今日もパチンコ屋に行こうかのう」
「道造さんって、4時前からパチンコ屋に行ってるんですか?」
「まあ、することがない時は、そんなもんじゃのう」
うへー! 不良老人じゃん。
本当に賭け事が好きなんだな、この人。
でも、強いからいいのかな?
勝てば官軍っていうもんなあ。
さて…………俺は、これからお仕事(スライム狩り)して稼がなくっちゃな。
今日は株を実際買うまではできなかったが、デイトレードをこの目で見れたのは大きい。
デイトレードの実態を肌で感じることができたんだぜ。
思っていたより緊張感のある状態になるんだな…………。
「天心、明日はどうするんじゃ。おそらく下げ相場になると思うぞ。ニュースが出ると状況は変わるがな。『落ちるナイフ』で勝つのは難しい。明日も買わずに見てるだけやもしれん」
「道造さんは、どうするんですか?」
「とりあえず、相場は見るぞい。見ないということはない。見たうえで、入れそうなときには入るし――じゃが、下げ相場じゃと、数円抜くのでも時間との勝負じゃからな……勇気がいるのう」
上がってもすぐ下げに転じやすいってことね。
注文を入れる時、認証に手間取っていると、約定できずにマイナスゾーンにもどってしまう。
ぐずぐずしていると、沼に嵌ったように、マイナスはどんどん膨らんでしまうだろう。
そういう時は、いったいどうするんだ?
「俺も、見てるだけで勉強になりますから、見たいです。本当、すごく勉強になります」
「天心は、上げ相場になってから――ナイフが床に刺さってから買った方が良いぞ。つまり、数日は買うなということじゃ。まあ、状況によるがな」
「そうですね。道造さんの予想が当たれば……ですけどね」
「ム! 今わしが言おうとしてたんじゃ。天心に言われると腹が立つのう」
「すみません。すみません。出しゃばったことを言いました」
「いやいや、冗談じゃ。怒っておらんぞ」
……本当はちょっとだけ怒ったな。
道造さんは、本心を隠すように笑っている。
「じゃあ、明日も8時半に来るのじゃな」
「はい。8時半に行きます」
――これから夏休みの間、平日はこのパターンになりそうだ。
「天心は、これからどうする。わしと一緒にに行くか? それとも探索に行くのか?」
「あ、はい。スライムを狩って金を稼ごうと思います」
「そうじゃな。地道に稼ぐことは大切じゃからな」
道造さんに言われると、なんだか変な感じだ。
道造さんは……地道に働いているって言えるのか?
「そうですね。それに俺、この仕事好きみたいなので」
「それは良いことじゃのう。じゃが、十分気をつけるのじゃぞ。危険と隣り合わせだということを、忘れるでない」
「はい。分かってます」
油断して、ビビったこともあったしな。
「一緒に家を出るとするか」
「はい」
道造さんの後をついて外に出る。
「それでは道造さん。今日はありがとうございました。明日もよろしくお願いいたします」
「うむ。じゃあな。気を付けて行くんじゃぞ」
「はい。それじゃあ!」
俺は手を振って道造さんと別れ、池袋西探索者ビルを目指して歩き出した。
石神公園前からバスに乗り、池袋西探索者ビルに着くと、ゲートをくぐって第一階層へ。
そこには、いつものようにスライムたちが、岩に張り付いてもぞもぞしている。
消化液で溶かして食べてるのかねー?
いつものようにオレンジ色のスライムの居るゾーンに走って向かった。
オレンジ色のスライムからは、火魔法・ファイアバレットがスチールできる。
なんとなく火魔法って強そうだし、カッコいいよね。
オッと! オレンジ色のスライム発見。
さーて、一狩り行きますか!
俺は静かにオレンジ色のスライムに近づく。
距離は約5メートル。
ここなら気付かれずに攻撃が届くんだ。
「スチール」
心のなかで小さく呟く。
MP10をスチールしました。
ファイアバレット2をスチールしました。
防御外皮2をスチールしました。
速さ2をスチールしました。
脳内にメッセージが響き渡る。
今は、1回のスチールで16個スチールできる――へへへ。
「スチール!」
知力10をスチールしました。
消化液 5をスチールしました。
スライムゼリー1をスチールしました。
もう、動くこともできないだろう、スライムくん。
「スチール!」
スライムの胃袋16をスチールしました。
「スチール!」
スライムの胃袋4をスチールしました。
HP10をスチールしました。
全てを奪い尽くされたスライムは、魔石と水に変わった。
楽勝、楽勝。
魔石を拾って次に向かう。
今日は、4時から8時まで狩りができる。
目標は120匹というところか。
「スチール」「スチール」「スチール」
俺はボチボチ狩りを続け、8時になった。
「はー、疲れたぜ。そろそろパーラーに戻って晩飯にするか」
俺は踵を返して出口に向かう。
第二階層の入り口を抜けたところで、座り込んでいる冒険者のパーティの横を通りすぎた。
かなりボロボロで、荒い息を吐き、肩で呼吸している。
三人の若い冒険者のうち、一人は額から血を流していた。
……たぶん魔物に殴られたのだろう。
三人の話が耳に入る。
「あの3人組、大丈夫かな。馬鹿みたいに張り切ってたけどな」
「ありゃやばいぞ。あれだけスケルトンが異常発生してたら、三人じゃ倒しきれないだろ」
「あいつら、今年探索者になったばかりの新人だぜ。腕も並ってとこだと思う」
「じゃあ、今頃囲まれてるな。すぐ逃げりゃいいものを」
「防具もまだ十分って感じじゃなかったしな。ありゃ、無謀ってもんだぜ」
……第二階層で誰かピンチに陥っているみたいだな。
それにスケルトンが異常発生してるらしい。
この前行った時は10匹くらいまとまって襲ってきたけど、あれが普通だとしたら――異常発生って、いったいどのくらいの数なんだ?
「一緒に戦わなくてよかったのかな」
「そりゃ、あれを見ちゃ緊急避難一択だろ」
「そうそう。俺、あいつらに逃げろって教えたぜ。あいつらが『ヒャッハー』とか言って先に進んでいっちまったんだからしょうがねーよ」
……バカな三人組がいたらしい。
「確か、田畑とか言ったか? あいつほんとにお調子者だからな」
「他の二人も怖いもの知らずで引くことを知らねーから、しょーがねーよ」
田畑!!
田畑康太か?
俺の足がぴたりと止まる。
「あいつら死んだな。ああいうバカは早死にすると思ってたぜ」
「俺は、引くように言ったからな。あいつらが死んだって、俺達のせいじゃないよな」
「ああ、俺たちのせいじゃねーさ。あいつらがバカ…………」
俺は、第二階層に向かって走り出していた。
バカな三人組。
今年探索者になったばかり。
お調子者で、引くことを知らない。
人の話を聞かない。
あの三人組か?
梶谷猛、金城守、田畑康太の三人か?
第二階層の降り口が見える。
俺は、第二階層に入ることを禁じられている。
だが、迷いはなかった。
というより、そんな考えどこかに吹き飛んでいた。
助けなくては!
頭にはそれしかなかった。
あいつら、本当にバカだったし、状況判断なんてできっこない。
ピンチに陥っているのは間違いない。
知ってるやつが死ぬかもしれないのを、何もしないでいるなんてできやしない。
第二階層に入っても、全速力で突き進んだ。
レベル5のオレンジ色のスライムのステータス
HP 10
MP 10
力 0
防御外皮 2
知力 10
速さ 2
器用さ 0
スキル
スライムの胃袋 20
消化液 5
火魔法・ファイアバレット 2(火球を同時に2発、弾丸として飛ばす。消費MP2)
スライムゼリー 1個




