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祝15万PV達成 『親ガチャ失敗・俺の親、泥棒ですが何か!』 怪盗紳士は『スチール』極めて成り上がる。  作者: 米糠


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第77話 デイトレイド実践見学2

 

 道造は静かに目をつぶり、そしてまた目を開ける。


 何かを計算しているのか、それとも感じているのか。

 画面に映る数字ではなく、その向こう側――見えない流れを読もうとしているように見えた。


 カーソルが、売りボタンの上でぴたりと止まる。


 指はかかっている。

 だが、押さない。


 ほんの一瞬、確かに『ためらい』があった。


 道造の目が細くなる。


「やはり……ここじゃな」


 迷いが消える。


 指が落ちる。


 クリック。


 指値5376円、1000株売り。


 売り注文がほとんど時間差を感じさせることなく通った。


 道造さんの売り注文をのせた76円の売り板が一瞬で消える。

 ――売り注文は約定したらしい。

 十分な買い圧力がそうさせたのだ。


 だがその直後、76円の売り板はすぐに復活した。

 まるで堰を切ったように、売りが流れ込んでくる。


 75円の買い板が食いつくされ、74円へ。


 そして――まるで誰かが、下から板ごと引き抜いているみたいに売りが加速する。


 数字が、落ちる。

 滑り落ちる。

 崩れ落ちる。

 止まらない。

 73。

 72。

 71。


 ――速すぎる。


 株価は一気に70円を割り込んでいく。


 そこでようやく――わずかに、跳ねた。

 反射的な買い。

 リバウンド。


 だが、それも一瞬。


 次の瞬間には、また売りが降ってくる。


 値段は、息をつく暇もなく上下を繰り返しながら、じりじりと下へ沈んでいく。


 まるで下値を模索しているようだった。


「うむ。底の下に、また底があるのう」


 道造さんがぽつりとつぶやく。


 この動きを見抜いて、道造さんは売り抜けたらしい。


 テクニカル分析を信じていたら、この下げに捕まっていたのは間違いない。

 ……なるほど、これがテクニカル分析を知った上で勘を信じるということか。


 だが、一瞬決断が遅れていたら――


 冷たいものが背中に流れる。


「ぎりぎりじゃったな。やれやれ、何とか4000円儲けたわい。結構儲かったのう」


 ……結構儲かった?


 マイナスを抱えなかったのは良かったけれど、けっこう儲かったというのはどうなんだ?


 ――さっきは12万円も儲けていたのに。


「儲かったんですか?」


「ああ、この相場で4円も抜けたんじゃから上出来じゃな。1円抜くのも難儀じゃぞ」


「さっきは12万円も儲けていたじゃないですか?」


 でも今は4000円。


「さっきは寄り付きでの売り買いじゃったじゃろう。9時が一番大事じゃと言ったのを覚えておるか?」


 確かにそう言っていた。

 だから8時半までに来ることになっていたのだ。


 俺は小さく頷く。


「寄り付きは一番値幅を取りやすい。場中でも取れることはあるが、小さくしか取れんことの方が多くなるな」


 なるほど……そういうものか。


 話しているうちにも株価はどんどん下げていた。


「今日は、ここから下げ相場じゃな。これはかなり下がるぞ」


「どうしてそう思うんですか? まあ、経験的にそう思うんでしょうけど」


「上げ相場がクライマックスを迎えたからじゃ。朝方の上げは大きくて、クライマックスを感じさせる。ここからは下げ相場、『山高ければ、谷深し』という(ことわざ)がある。じゃから、ここからはかなり下げるとふんだんじゃ」


『山高ければ、谷深し』か、――そういう諺があるんだね。


 道造さんの言う通り、その後も株価は下げ続けた。


 ボリンジャーバンドは-2σ。

 MACD(マックディー)も、いつの間にかマイナス圏で推移している。


「さーて。そろそろリバウンドかのう」


 道造さんが〇菱銀行のページを開く。


 〇菱銀行の株価も、他の二行と似たような波形を描いていた。


 振れ幅こそ違うが、上がるときも、下がるときも、まるで示し合わせたようにそのタイミングが揃っている。

 同じ業種、同じメガバンク――資金の流れが一斉に動けば、こうなるのか。


「前場はこの辺で終わりにしておこう。後場の寄り付きは予想の根拠が薄くなる。何かニュースが飛び込むかもしれぬしな」


 道造さんがそう言うならそうなのだろう。

 気がつけば、時計はもう十一時半に近い。

 午前の取引は十一時半まで。

 午後の取引――後場は十二時半からだ。


「そうですか――午前はこれで終わりなんですね」


「そうじゃ。後場が始まる前に、飯でも買いに行ってこよう」


「コンビニですか?」


「そうじゃな」


 道造さんの家にコンビニ弁当のゴミが多いのは、こういうことか。

 後場までの一時間でさっと食べるのなら、コンビニ弁当はうってつけだ。


「後場の始まりも、大きく動くものですか?」


「多少はそうじゃが、前場の寄り付きとはかなり違うのう。まず出来高が違う。だいたい寄り付きの半分じゃな」


「出来高が小さいと動きも小さいんですか?」


「そうとばかりは言えんが――前場の寄り付きの次に、後場の寄り付きが動くことが多いかのう。じゃがそのくらいの動きなら、他にいくらでもある……」


「じゃあ、チャートが途切れる分……テクニカル分析があてにならない分、不利だとか?」


「そう! それじゃ。なんとなく、わしは苦手なんじゃよなあ」


 道造さんが肩をすくめる。


 なるほど、そんな感覚か。

 道造さんが、苦手にするほどなんだから、きっと難易度が高いのだろう。


「何かニュースが飛び込むかもしれぬ」

 その言葉が、頭の中でじわりと重みを増す。


 テクニカル分析は、想定外のニュースが出たら意味を失う。

 そうか、やっぱり分析だけじゃ、勝てないんだ。

 突然のニュースなんて、予測のできるものじゃない。


 デイトレードって、やっぱり確実に勝てるものじゃないんだな。


 でも――それでも勝ち続けている人が、目の前にいる。


 道造さんって本当にすごいんだ。


 勘が大事だと彼は言う。


 勘――それは、積み重ねてきた経験と、そこから生まれた判断だ。


 道造さんの持つノウハウ、経験からくる行動原理。

 そのすべてを、俺は今、すぐ横で見ている。


 ……ありがたいな。


 そして俺は、改めて道造さんに尊敬のまなざしを向けた。


 画面を見つめる横顔は、さっきまでと何も変わらないのに、その背中が、さっきよりもずっと大きく見えた。


 その時、道造さんが振り向いて、俺に笑いかけた。


「それじゃあ、コンビニに行くとしよう」


 そう言うと、道造さんは立ち上がった。

 

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おじさんかっこいい
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