第74話 デイトレード見学
窓から差し込む夏の朝日。
まだ7時過ぎだというのに、もう暑さを感じている。
エアコンかかってないからね。
窓は半分空いてるし。
不用心だって?
俺んちに入っても、大したものは盗めないよ。
あ、携帯とタブレットがあったわ。
金はスライムの胃袋に入ってるので安心。
これからは携帯とタブレットもスライムの胃袋に入れておこう。
今日は、待ちに待った月曜日。
道造さんにデイトレードを教えてもらう日だ。
俺は、大きく伸びをして布団から出る。
布団をたたみ、押し入れにしまうと洗面台で歯を磨く。
へへへ――今日から、俺のデイトレイダー人生が始まるぜ。
目指すは伝説のデイトレーダー!
なーんてね。
俺は家を出るとコンビニでおにぎりとお茶を買い、イートインスペースで食べてから道造さんの家に向かう。
ゴミはちゃんとコンビニに捨ててるよ。
道造さんの家に持ち込むのも気が引けるしね。
携帯で時間を見ると八時三分。
もう、道造さんの家に行っても早すぎないかな?
八時半までには行かないといけないのだけれど、少し早い。
寝起きを襲ってもいけないし、この辺の時間帯って、とっても微妙な気がするよね。
俺は、道造さんの玄関の前でちょっとだけ躊躇した。
家の中の気配に耳を澄ます。
探索者としての生活で、気配を感知する能力が上がっているのか、中で人が動いているのが分かった。
起きてんじゃん。
なら、入っても大丈夫かな?
「おはようございます。天心です。入って良いですかー?」
「おう。天心か。はよ入りな」
ドアの向こうから返事が聞こえた。
俺はドアを開け、中に一歩踏み込んだ。
目の前に、ゴミの袋が現れる。
「天心、悪いが月曜は燃えるゴミの日なんじゃ。ちょっと集積所に出してきてくれんか」
「はい。分かりました」
俺は、大きな声ではっきりと答えた。
そしてゴミ袋を右手で掴む。
軽かった。
中はコンビニ弁当の空き容器が中心に違いない。
確かゴミ集積所は近くの電柱のところだと思う。
そこに表示札が掲げられていたのを覚えている。
「悪いのう」
「いえいえ。軽いもんですよ」
ほんとに軽い。
「すぐ行ってきます」
俺は袋を持って駆け出した。
戻ってくると、道造さんは、マウスを片手に机の上のパソコン画面をのぞき込んでいる。
「天心、こっちへ来い」
「はい」
近付いて、道造さんの肩口からパソコン画面を覗き込んだ。
そこにはネット証券のログイン後の最初の画面が開かれていた。
「ログインするとこうなるじゃろう」
振り返った道造さんが俺を見ながら左の眉尻を上げる。
「ちょっと待ってください。俺もタブレットを立ち上げます」
俺は急いでタブレットを立ち上げ、最初の画面を開く。
道造さんのパソコンと同じ画面が現れた。
「同じ証券会社じゃから、分かりやすいじゃろう。別の証券会社だとデザインや配置が結構違うからのう」
「同じでよかったです」
「まずこの画面、これがわしの口座管理画面じゃ。持っている金、株の銘柄と量、その時価と購入時の価格なんかが書かれちょる」
「はー、なるほど。俺は、まだ株を持っていないから、ここのところに何もないんですね」
俺の口座管理画面には五百万円の表示はあるが、道造さんの口座管理画面のような会社の名前や株数、金額などは、書かれていなかった。
「この、保有資産評価というところを見てみよ。現金残高等と、株式とあるじゃろう。そしてその横に現在持っとる金額が記されておる。」
「はい。俺の場合は、現金残高等が5,000,000、株式が0ですね」
「株式の欄は、その時々の時価評価額に連動して金額が細かく変わる。その上の欄は、NISA投資可能枠。その上は、買付余力じゃな」
「NISA? 買付余力?」
「NISAという税制優遇の措置が使える金額の枠じゃな。それから買付余力というのは、あといくら買えるかということじゃ」
「分かりました」
うん――難しい。
「右側のポートフォリオというところは、今持っている株の銘柄や、投信、債券など、それぞれについて、その保有数、取得単価――買った時の値段じゃな。現在値、評価損益――これは儲かっていたり、損していたりする金額じゃ」
「投信? 債券?」
「投資信託と、国債や社債などのことじゃが、それはまだ気にせんでよい」
「はい」
「初めは株式から教えてやろう。投信は、自分でトレードをできないものがやるもんじゃ! なにせ、トレードを証券ディーラーに任せるもんじゃからのう。投信なんて持っとってもデイトレイドは上手くならん」
「はい」
「当たり前のことじゃが、デイトレイドは安く買って高く売ることで利益を出す。とりあえず売り買いの仕方から覚えんとな」
「そうですね。難しいんですか?」
「簡単なんじゃが、面倒になったな」
……面倒になった?
「最近は、セキュリティーを高めるために二段階の認証操作が必要になったんじゃ。その分時間がかかるために思った値段で買い辛くなったのう」
どうして、そうなるのかよく分からない。
「まあ、とにかく一度、やって見せるからのう」
百聞は一見にしかずだ。
「まず、買う株の銘柄選びじゃが、それは人それぞれに独自のやり方を持っとるかもしれん。そしてこれが一番大切なことでもある」
確かにそうかもしれないな。
「株は人気投票じゃと言われるが、売る人がいなければ、買うことはできん」
当たり前だが言葉にするくらいだから大事なことなのだろう。
「じゃから、まずはランキングを見て銘柄を探す」
ランキングか!
「ランキングにもいろいろあるんじゃが、わしはまず、売買代金のランキング、次いで出来高のランキングを参考にしておる。
売買代金と出来高?
「売買代金は金額、出来高は売り買いされた株数じゃな」
そういうことね。
「株は100円台のものもあれば、1万円台のものもある。単純に売り買いされた数が多いのは出来高じゃが、売り買いされた金額が多いのは売買代金のほうになるのう」
なるほど。
「どちらもたくさん売り買いされているということは間違いないが、多くの株数が売り買いされていても、多くの金が動いたことを示してはいない。安い株ほど一定金額での売り買いできる数は多いからのう」
そうなるね。
「まず、この二つのランキングのトップテンに入るようなら有力候補じゃな。売り買いが盛んな銘柄ということじゃ」
「その中から選べばいいのですね?」
「わしは、ほぼほぼそうしちょる。ランキングから外れるということは、人気が落ちたということじゃからのう。それにその方が安心な気がする。訳は後で教えてやるがの」
確かにな。
株は人気投票と言われてるんだもんな。
「で、7位のこれが、最近わしが良く売り買いする銘柄じゃ」
道造さんは、7位の『みず〇銀行』をクリックする。
ランキング画面から『みず〇銀行』の画面に変わった。




