第69話 今日から夏休み
土曜。
朝早くから目が覚める。
カーテンの隙間から差し込む朝日が、部屋の中を淡く照らしている。
今日から夏休みだ。
……昨日は、まさかの展開だったな。
まさか第二階層に入れるとは思わなかったぜ。
スケルトン、……大した強さじゃなさそうだな。
あれなら、一人で戦ってもなんとかなる。
それにしても――今度、一緒に特殊探索者チームを組むことになる九条綾華って子は、強烈な強さだったな。
十匹のスケルトンを、あっという間に倒しちゃったもんな。
しかも、銃が武器なのに、ほとんど殴り倒してた。
あれだけ大口径の銃だから、威力は半端ないはず。
スケルトンごときに使うのはもったいないってことなのかな?
「遠いと当たらないの」とか言ってたのは、たぶん冗談か謙遜なんだろう。
探索者協会の会長の孫娘って、どんだけのお嬢様なんだ?
執事が車で送り迎えって、まるで貴族様じゃねーか。
その執事もなんだか強そうに感じたし、あんまり関わりになりたくないなあ……
俺はTシャツとジーンズに着替えると、歯を磨いて外に出る。
「さーて。いっちょう走りますかー」
軽く体を伸ばし、さらに腕を回し、体側をゆっくりと伸ばす。
準備運動を終えると、俺はゆっくりと走り出した。
周囲に目立たないよう、意識してスピードを抑える。
ステータスが高すぎるせいで、気を抜けばすぐに常人離れした速さになってしまう。
軽く走っているつもりでも、一般人から見れば全力疾走にしか見えないだろう。
……石神公園にでも行ってみようかな。
住宅街を抜け、石神中学の横を通り過ぎる。
朝の校舎は静かで、人の気配もない。
そのまま石神公園に入り、軽く一周。
呼吸は乱れず、心拍もほとんど上がらない。
そのまま帰路についた。
家に着いても、汗一つかいていない。
……準備運動にすらなってないな。
体もほぐれたし、今日は何をしようかな。
部屋に戻り、軽く見回す。
最近は飯も炊いてないので、電子ジャーも暇そうだ。
朝飯は食べずに、部屋の掃除を始める。
掃除機でほこりを吸い、ゴミをまとめて集積所に出す。
……よし、すっきりした。
さて、……今日は一日スライム狩りでもやりますか。
月曜日になったら、道造さんにデイトレードを教えてもらう予定だが、土曜日曜は証券市場が開いていない。
タブレットと証券口座の準備は整っているので、トレードはいつでもできるはず。
もちろん証券口座にも現金を十分入れてある。
探索者口座から、五百万円移動したのだ。
……月曜が待ち遠しいな。
玄関の扉を開けた瞬間、俺は思わず足を止めた。
そこには、見知らぬ男が立っていた。
一見すると、どこにでもいそうなサラリーマン風の格好だが、どこか違う。
スーツはくたびれていて、靴もくすんでいるのに、妙にこちらを値踏みするような鋭い視線。
嫌な空気をまとっているな……胡散臭せー。
「こちら、赤嶺さんのお宅でよかったですか?」
にこやかな口調だが、目は笑っていない。
「はい。赤嶺ですが、なにか?」
俺は警戒しつつ答える。
「私、こういうものですが」
差し出された名刺を受け取る。
そこには、駅前で見かけたことのある消費者金融の名前が印刷されていた。
いやな予感しかしない。
たぶん、かーちゃんが、借金を残してとんずらこいたんじゃねーの。
「借金の返済が滞っておりまして……」
――やっぱりか――、予想通りだわ。
雰囲気そんな感じかと思ったわー。
かーちゃんは、やっぱりサラ金から金を借りていた。
「全部返済すると、いくらになるんですか?」
「今ですと、八十万円ほどになりますが。お母様はいらっしゃらないみたいですか?」
「はい。今はいません」
八十万って、軽く言ってくれる。
普通の中学生だったら絶対返せない金額だぜ。
「そうですかー。今日は一部だけでもご返済いただければと思っていたのですがー」
中学生からでも取り立てていくつもりかよ。信じらんねーやつ!
「どのくらいですか?」
「五万でも、十万でも、多ければ多いほど助かりますが……」
曖昧な言い方だが、引くつもりはないのだろう。
目の奥のすごみが増している。
「お店は駅前のあそこでいいんですか?」
「はい。そちらになります」
「後で伺う、という形では?」
「できましたら……今、少しでも頂けたらと思いますが」
……帰る気はない、って顔だな。
「俺、まだ中学生なので」
一応、言ってみる。
「ええ、それは存じております。ただ――私も、手ぶらで帰るわけにはいきませんので」
やっぱりか――だよねー。
「とりあえず、五万円でおかえり願えますか?」
財布から五万円を取り出し差し出すと、男はひったくるように受け取った。
「確かに」
金を確認し、丁寧に頭を下げる。
「本日はありがとうございました。また改めてご連絡させていただきます」
――まだ来る気かよ。
男は踵を返し、そのまま静かに立ち去っていった。
その背中を見送りながら、俺は小さく息を吐く。
「……めんどくせえな」
ぽつりと呟く。
後で駅前の店舗に行って清算しよう。
返済が延びれば延びるほど、利息が増えていくに決まっている。
十一という言葉を聞いたことがある。
十日で一割の利息が付くって意味らしい。
法律では最高利率が決められているそうだが、法律が守ってくれるとは限らない。
金はあるから、早めに返した方が良いよな――。
なんだか……他のサラ金業者にも借金があるような気がしてきたわ。
朝からすげー落ち込む。
しばらく玄関先で腰を下ろし、精神の回復を待った。
……かーちゃーん!
――そんなかーちゃんでも俺は愛しているよ。
ひょっこり帰ってこないかなー。
どうしようもない女だけど、それは分かっているからさー。
全然恨んでないからさー。
「はー」と大きなため息が出た。
――よーし。
スライム倒して金を稼ぐかー。
俺は、すくっと立ち上がった。
第69話終了時
赤嶺天心 ヒューマン 14歳 レベル4
職業 怪盗紳士
HP 11(+11767)
MP 0 (+11531)
力 11(+30)
防御外皮 11(+2816)
知力 10(+11581)
速さ 11(+2808)
器用さ 15(+15)
スキル スチール(ユニーク)レベル6(16個)
気配察知(6)
スライムの胃袋(17104) レベル4
消化液(6085) レベル3
メタル化1(体を金属に変える。消費MP2)
水魔法 スライムバレット(1088) レベル3
火魔法 ファイアバレット(1150) レベル3
装備 なし
アイテム リュックサック
金 三十六万六千円
口座 五百四十七万八千四百円
証券口座五百万円




