第68話 門松
「指導員さん。俺も拾います」
気づいた俺は、地面に転がっている魔石を拾おうと歩き出した。
綾華も周囲を見回し、魔石を探すように視線を巡らせる。
黒い煙の消えた後、地面には小さな魔石があちこちに転がっていた。
「10! うん。これで拾い終わりましたよ」
マッチョの指導員さんが数を数え終え、振り返って聞いてくる。
「お嬢様、次に行きますか?」
「そうねー。時間も遅いし、今日はこれくらいにしましょうか?」
え!
今入ったばかりなんだけど。
「そうですね。始まりが遅かったですからね」
マッチョの指導員さんは、ほっとした表情で綾華に同意する。
買い取り価格三倍は有効利用したいところだが、俺も帰るのが遅くなるのは嬉しくない。
やるなら徹夜でもいいが、中途半端に長いのは遠慮したい。
帰るなら今の方がいいし、第二階層で野営して一泊するくらいなら地上に戻った方がいい。
そもそも野営の準備をしてきてないし、するような深さじゃないのだ。
つまり――俺的には、夜通し狩りをして明日の朝、家に帰って寝てるか、今すぐに帰るかだ。
「そうですね。俺も帰って寝たいです」
「じゃあ、引き返しましょう」
綾華が軽く頷く。
「天心君のスライムバレットも見ることができたし、私もスケルトンをたくさん倒してすっきりしたしね」
そうか……目的達成ってことなんだね。
綾華が満足してくれたのなら、俺も言うことはない。
そもそもこれは綾華の希望で始めた探索だ。
俺になんの未練もない。
俺たちは踵を返してクロークに向かった。
スケルトンの魔石と毒薬は、マッチョな指導員さんがまとめて持っている。
クロークの前に着くと、指導員さんが受付のお姉さんに買い取りを頼んだ。
三倍の買い取り価格だ。
スケルトンの魔石十三個と毒薬三個。
魔石は一個百円、毒薬は七百円なので三千四百円。
その三倍で、一万二百円になった。
きっちり半々で、五千百円ずつに分ける。
「面倒ですから口座に入れておいてください」
綾華がお姉さんにさらりと告げる。
戦闘モードから平常モードに戻ったのか、さっきより言葉遣いが丁寧だ。
……戦う時は多少興奮するのかもしれない。
「じゃあ、俺も」
「承りました」
クロークの綺麗なお姉さんが、営業スマイルを返す。
……綾華って、お財布を持ち歩かないのかな?
ふと気づくと、綾華がこちらを見ていた。
目と目が合う。
「どうかしました?」
俺が聞くと、綾華は少しだけ慌てたように首を振る。
「今日は無理なお願いを聞いてもらってありがとうございました」
綾華は恥ずかしそうに深々と頭を下げた。
「お気になさらず……」
俺は少し恐縮して答える。
相手がお嬢様だと、なんとなくへりくだってしまうようだ。
二人の上下関係は、俺が下で出来上がったみたい?
でも、綾華も丁寧な言葉を使ってくれているので、一応は対等……なのかな?
たぶん数カ月限定の付き合いだし、ちょっと距離のある関係ってことで……いいんだよね。
――そもそも別階級で、住む世界が違う人だし。
「それじゃあ、これで失礼します」
俺も頭を下げて帰ろうとした。
「あの――天心君の家はどこなんですか?」
呼び止められて振り返る。
「俺の家ですか? 石神公園のほうですね」
「近いんですね。よろしかったら、私の車でお送りしますよ」
……私の車?
十五歳じゃ運転免許が取れないだろう――あ! 運転手付きの車か! お嬢様だし。
「いえ。大丈夫です」
かえって気を使うわ。
「遠慮しないでください。これからパーティを組むのですし」
うーん……ここまで言ってもらって断るのも失礼か?
「それじゃあ、お言葉に甘えてお願いします」
そう答えると、綾華が嬉しそうに、にっこり笑う。
「それではお嬢様。私はこれで」
マッチョの指導員さんが丁寧にお辞儀をして、クローク横の扉から奥へと消えていく。
「着替えたら、ここで待っていますね」
「分かりました。じゃあ、ここで待ち合わせですね」
着替えは……たぶん、俺の方が早いんじゃないかな?
綾華が女子用のロッカールームに入っていくのを見届け、俺も男子用のロッカールームに向かった。
運動着から学生服に着替えてクロークの前へ戻る。
やっぱり、俺の方が早かった。
しばらく待つと――ロッカールームの扉が開き、綾華が姿を現した。
白いブラウスに紺のスカート。
背中まで届く長い黒髪が、照明を受けてさらりと光る。
ライフルを持っていないとこんなにも清楚な感じになるんだな。
激しいどつき合い……いや、一方的に敵をどつく光景が、まるで嘘みたいだ。
「お待たせしてごめんなさい」
「いえ、今来たところです」
「では、参りましょうか」
軽く言葉を交わすと、綾華はわずかに微笑んだ。
俺は小さく頷いて、ゲートに向かう。
綾華は、俺の一歩後ろをついてくる。
玄関ホールに出る――そこに、精悍な顔立ちの男が一人、静かに立っていた。
黒い上下に身を包み、すらりとした立ち姿には隙がない。
背筋は真っ直ぐに伸び、いかにも富豪に仕える執事といった雰囲気だ。
髪はグロスで整えられ、涼やかな目の奥には、歴戦の戦士のような鋭さが見え隠れしている。
……たぶん、この人、ボディガードも兼ねているな。
「門松、待たせたかしら?」
「いえ」
やっぱり綾華の執事かよ……! ――予想通りだわ。
「こちらは、赤嶺天心君。車で送っていくことにしたわ」
「パーティを組まれる方ですね?」
「そうよ。彼、聞いてた通り、とっても有能だったわ」
「……それは、頼もしいことでございます」
門松と呼ばれた男は、一瞬だけ品定めするような鋭い視線で俺を一瞥すると、静かに言った。
「どうぞこちらへ――」
なんか怖えー!
促されるまま、外へ出る。
外はすっかり夜の空気に包まれていた。
駐車場の一角に、艶のある黒塗りの車が一台、静かに停まっていた。
……周りの車と、明らかに格が違う――メッチャ高そう。
門松が後部座席のドアを開ける。
「どうぞ」
「……どうも」
俺は軽く会釈して車に乗り込んだ。
座席は柔らかく、体が沈み込む。
……やっぱり高級車は違うなあ。
続いて綾華が隣に腰を下ろす。
ドアが静かに閉まり、外の音がすっと消える。
ほんのわずかなエンジン音だけが低く響き、車はゆっくりと走り出した。
第68話終了時
赤嶺天心 ヒューマン 14歳 レベル4
職業 怪盗紳士
HP 11(+11767)
MP 0 (+11531)
力 11(+30)
防御外皮 11(+2816)
知力 10(+11581)
速さ 11(+2808)
器用さ 15(+15)
スキル スチール(ユニーク)レベル6(16個)
気配察知(6)
スライムの胃袋(17104) レベル4
消化液(6085) レベル3
メタル化1(体を金属に変える。消費MP2)
水魔法 スライムバレット(1088) レベル3
火魔法 ファイアバレット(1150) レベル3
装備 なし
アイテム リュックサック
金 四十一万六千円
口座 千四十七万八千四百円




