第61話 平田翔
第60話終了時
赤嶺天心 ヒューマン 14歳 レベル4
職業 怪盗紳士
HP 11(+6642)
MP 0 (+6411)
力 11
防御外皮 11(+1777)
知力 10(+6446)
速さ 11(+1770)
器用さ 15
スキル スチール(ユニーク)レベル5(8個)
スライムの胃袋(7824) レベル3
消化液(3525) レベル3
水魔法 スライムバレット(896) レベル2
火魔法 ファイアバレット(318)
装備 なし
アイテム リュックサック
金 十三万六千円
口座 千四十七万三千三百円
月曜日、まじめに学校に行く俺。
……通ってるのは保健室だけどね。
朝から蝉がうるさい。
校門をくぐると、グラウンドから朝練をしている運動部員の掛け声が聞こえてきた。
じりじりと焼けるような日差しが、アスファルトを白く照らしている。
もう少しで、夏休みに入るはず。
出席日数だけは稼いでおかないと……留年だけはしたくないからね。
保健室の前で立ち止まり、軽くノック。
「失礼します」
扉を開け保健室に入ると、いつものように松本先生が窓際の椅子に腰かけている。
白衣の袖を少しまくり、書類に目を落としていた。
私服姿の松本先生を思い出す。
女性って、服装一つで……だいぶ印象が違うんだな。
開け放たれた窓から、柔らかな風が入る。
カーテンがゆっくり揺れ、差し込む光が床に波のような模様を作っていた。
風が消毒液の匂いを薄め、代わりに夏草の匂いを運んでくる。
遠くで鳴く蝉の声が、やけに大きい。
教室には居場所がないけど、この部屋は俺の居場所でいいんだよね。
「おはよう、天心君。参考書は持ってきた?」
「あ、はい。ここに」
俺は、土曜に買った参考書の袋を持ってきていた。
途中までは、スライムの胃袋に入れていたんだけどね。
「じゃあ今日は、英語から始めようか」
「分かりました」
俺は、土曜に買った参考書の中から『高校生の覚えるべき英単語2500』を取り出した。
「やっぱり単語が分からないと始まらないものね。毎日少しずつ覚えていきましょう」
……毎日少しづつ?
俺の知力は常人の六百倍強。
一週間も繰り返せば、完璧に覚えられるだろう。
「今日一日は、英単語を覚えればいいですか?」
「午後は、社会にしましょうか? 同じものばかりでも疲れるでしょう?」
確かに、そうかもしれない。
「じゃあ午後は、公共、歴史、地理の三冊読破しちゃいますね」
「そんなに急がなくってもいいのよ。今日は一冊読み終えれば十分。時間はたくさんあるもの」
「たぶん三冊読んでも時間が余ると思うので……」
知力とスピードが上がっているので、読むのも早い。
1ページ読むのに2秒程度しかかからない。
しかも、読んだことは覚えている。
「そっか……じゃあ、天心君のペースでいいわ」
松本先生は一瞬、驚いたような表情を見せたが、すぐに納得した顔になる。
俺は、『高校生の覚えるべき英単語2500』に目を通し単語を覚え始めた。
『高校生の覚えるべき英単語2500』には単語だけでなくイディオムなども併記されていて、それも覚えなければならない。
実際に覚えるのは三千数百に上るだろう。
勉強は嫌いだったけど、最近は嫌ではなくなった。
学年一位で張り出されるのは、目立って嫌だという思いと、優越感がないまぜになっている。
……まあ、することないし、保健室では勉強するのもやぶさかではないかな。
松本先生は、そのうち職員室に行ってしまったが、俺は昼まで暗記作業を続けた。
昼食を知らせるチャイムが鳴って、俺は本を置く。
2回と少し目を通した。
たぶん、今なら全部覚えている……と思う。
予想以上に知力6456は凄いらしい。
時間が経ったら、忘れるのだろうか?
なんだか忘れないような気がするんだけど。
トイレに行ってお昼にしようと保健室を出る。
いつものように教職員用のトイレを使い、出てきたところでばったりと出会った。
俺の学年一位に言いがかりをつけてきた男。
学級委員長――平田翔。
この前もこの時間に職員室に入っていったな。
先生に、とやかく言ったのは、こいつに違いない。
また職員室に行くのかな。
平田は俺と鉢合わせすると、キッと睨みつけてくる。
「おい、天心。おまえ、先生にどういう言い訳したんだよ?」
鼻で笑うような言い方。
ほーら、――やっぱりクレームつけてるのこいつじゃん。
この前も絡んできたし――こんなやつ、相手にしてらんねーや。
すっとぼけることにするか……。
「言い訳って、なんのことかなー?」
「とぼけんなよ」
平田は一歩近づくと、俺の顔を覗き込んできた。
「おまえのテストのカンニングだよ。絶対お前が満点なんて取れるはずないのに!」
俺の胸ぐらを掴んでくる平田。
指に力がこもっていて、シャツがぐっと引き寄せられた。
……めんどくさい奴だな。
俺は平田の腕を払いのけた。
「どうやってもカンニングができない状況だったということを検証したら、再テストだといわれた。疑われたから再テストってのはひどいから、疑ったやつにも再テストを受けさせてくださいと言った。……ただそれだけだよ」
俺は平田を睨み返して続ける。
「俺は、突然テストをされたって、90点は取れる自信がある。松本先生も、俺の実力は保証してくれた。何なら一緒に再テストを受けるか?」
「ば、ばかな。今まで全然できなかったくせに! ハッタリもいいところだろ!」
平田は、吐き捨てるように言った。
「なら、一緒にテストを受けようぜ。俺、松本先生に会って、初めて勉強をしたんだ。そうしたら、テストなんて簡単だったぜ。準備をして受ければ満点を取るのはそう難しくないな」
「ふ、ふざけるな! なんで俺が、もう一回テストを受けなくちゃならないんだよ!」
平田の顔が赤くなる。
「ほら見ろ。おまえだって嫌なんじゃないか。俺だって時間をとられるのは嫌なんだぞ。だけど、どうせやるなら、どっちがいい点を取るか、勝負しようじゃないか。俺に負けたら、とやかく言うのはやめにしろよな」
俺は肩をすくめた。
「ふん! どうせ俺のをカンニングするつもりだろう!」
「おまえのをカンニングして、おまえよりいい点が取れるものなのかねえ? 取れたとしたら、それはお前ができなかった問題を俺ができたって時だけだよな。その時点で、俺はおまえより上か同等なんじゃないか」
「うぐ……」
「さあ、どうする。やるなら俺も、満点を取るつもりでやってやるよ。俺がインチキをして満点を取ったわけじゃないってことを証明しなきゃならないからな」
「つ、付き合ってらんねーよ!」
平田は舌打ちをすると、俺の肩をわざとぶつけて通り過ぎる。
そのまま、乱暴な足取りで廊下の向こうへ消えていった。




