第59話 日曜日
家に帰ってスマホとタブレットを取り出し、Wi-Fiの設定をしてみる。
タブレットで、インターネットができるようになった。
証券口座を開いてみる。
まだ取引はできないが、見るだけなら問題はないようだ。
俺は、スマホとタブレットをスライムの胃袋に収納すると家を出た。
土曜だけど、休まず探索をするために、池袋西探索者ビルに向かう。
……俺って、何気に働き者だよな。
池袋西探索者ビルに着いた時には、午後3時を過ぎていた。
けっこうスマホを買うのに時間がかかっていたみたいだ。
ロッカールームに直行し、運動着に着替える。
いつものように、スライム狩りだ。
8時まで狩りをして60匹のスライムを倒し、三万六千円の稼ぎである。
二階のパーラーで夕食を取る。
今日は、いつものように和風ハンバーグ定食だ。
家に帰ると9時近かった。
今日は色々あったから、思ったよりも疲れているみたい。
風呂に入ってぐっすり眠れた。
日曜日。
朝早くから目が覚めた。
今日は何をしようかな?
昔は公園でぶらぶらしたり、昼寝をしたりしたものだったが、……最近金を稼ぐことが楽しくなっている。
俺って、探索者があってるかもしれない。
いや、ずっとボッチだったから、遊び方が分からないのだ。
友達――欲しいのかな。
いやいやいやいや。
俺、人と関わり合うのは、苦手だし。
苦手じゃないのは、道造さんくらいだ。
俺って、ちょっと前まで時間をつぶすのは得意だったじゃん。
石神公園で昼寝をして、電機量販店で昼寝をして、図書館で昼寝をして……、俺って昼寝ばっかりしてたんだな。
それじゃあ、今日は思いっきり昼寝をするか!
俺は、石神公園に歩いて行った。
朝7時だというのに、もう少し暑い。
いつもの日陰のベンチに腰を下ろす。
……ここも、久しぶりだな。
あたりを一度見渡して、ベンチに横になり、昼寝の体勢。
日差しがない分、涼しいんだよね。
俺の家にはエアコンがないし、部屋の中って昼間は地獄だ。
さっきまで寝ていたのに、すんなり眠れた。
目が覚めると、もう10時である。
俺は大きく伸びをして頭を振る。
やっぱ、……スライム狩りでもしてみるか。
俺は、立ち上がると屈伸運動をして人並みの速さで走り出した。
ちょっと体を動かしたくなったのだ。
いつもならバスに乗るのだが、走って行ってもそれほど時間はかからない。
池袋西探索者ビルには、すぐについた。
昼飯には早いが、朝飯を食っていないので腹は減っている。
朝昼兼用ということで、食っておこう。
二階のパーラーでカルビ焼き定食を頼む。
これがまた、美味いんだよね。
食べていると、マッチョの指導員さんがやってくるのに気が付く。
うわー、こっちに来るよ――。
え――また何か言われるのかな?
マッチョの指導員さんは、俺の前に立ち止まり、上から見おろしてくる。
「あのー、なにか?」
箸を止めて見上げる。
「赤嶺君。この前話した、特殊な探索者に認定されるかもしれないという件だが、協会本部から返事が来てね……」
周囲の喧騒が、遠のく。
……そうか、協会本部からの返事を待っていたのね。
てっきり、無罪放免になったのかと思ってたわ。
「やっぱり君は、特殊な探索者に認定されることになったよ」
「はあ。そうなんですか」
まあ、そうだわなあ……分かってたわ。
特殊な探索者に認定されるとどうなっちゃうんだろう。
拘束されて、研究材料にされちゃうとか――ないよね。
俺がマッチョの指導員さんを見つめると、俺の不安を察したのか、彼は俺にニヤリと微笑みかける。
……逆にすんげー不気味なんですけど。
「大丈夫だよ。何も怖がることはない」
それは、……怖いことをされるってことでしょうか?
「ただ、ほんの少し協会の指示に従ってもらうことになるだけだよ」
言う通りにしろってことじゃん。
俺は箸をそっと置いた。
「そうなんですか。えっと、具体的には?」
「君は、十五歳になるまで特別保護扱いになる。そして十五歳になったら特殊探索者として、特殊探索者チームに入ってもらうことになる。そこで一定期間、指導教官の指導の下、安全に探索を覚えてもらうことになるだろう」
特別保護?
言葉だけ聞けば優しそうだけど、響きはどこか檻の中みたいじゃね。
つまり――監視下に置かれるってことかな?
研究材料として切り刻まれたり、無茶な負荷をかけられたりしないんだよね。
思わず「ごくり」と喉が鳴る。
「あのー、俺に自由とか選択肢とかはないんですか?」
「これは、あくまで君を援助するための措置だ。君を死なせないための援助プログラム。有能な指導者が、君を守ると考えてもらっていい。ただ、君と同じような立場の人間と一緒に動いてもらうことになるらしいけどね」
俺以外にも、特殊探索者に認定される奴がいたのか。
そいつと一緒に、まとめてその有能な指導者ってやつが守ってくれると解釈して良いのかな。
「だから、その日の行動は、もう一人の特殊探索者と相談して決めていい。指導教官が無茶な探索なら止めに入るかもしれないがね」
完全な拘束、というわけではなさそうだな――。
「一定期間って、どのくらいですか?」
「それは、君が一人前になるまでかな。指導教官がそれを判断するが、三カ月から半年ってところだろう」
三カ月から半年ね。
案外短いじゃん。
一生監視されるのかと思ってたわ。
「その後は、自由なんですか?」
「特殊探索者として、指名依頼が入ることがたまにあるだろう。これは、受けても受けなくてもよいが、基本的には受けて欲しい。たぶん、君のためにもなるはずだ。あと緊急事態の時には強制依頼が出されることもある」
マジか!
指名依頼に強制依頼――なんだかヤバそうな響きだな。
「強制依頼って、何ですか?」
「今までに出されたことはないが、自衛隊だけでは対処が難しい事態が発生した時の援助要員として、依頼をすることがあるのではないかと想定されている。これは、特殊探索者以外でも、ある程度以上の実力があるものに出されることになっている」
「つまり、戦力として認められた探索者は、特殊探索者じゃなくても強制参加の依頼はあるってことですか?」
「そういうことだね。一般の探索者でも、本当に緊急事態が起きた時には、補助要員になることはある」
うーん。
あれー?
普通の探索者とあんまり変わらないのかな?
とりあえずは、研究材料にされて、拘束されたりすることはなさそうだし、問題ないのかな。
「分かりました」
「君の誕生日は9月1日だったよね。その日から君は第2階層に入る許可が下りる。近くなったらまた連絡するよ」
マッチョの指導員さんは、そう言うと踵を返して去って行った。




