第48話 テストの結果
それから俺は、家に帰ってそのまま寝た。
マッチョの指導員さんが最後に言った、『特別な探索者に指定されるかも』という言葉が、頭の隅に引っかかっていた。
そして今、いつものように学校に来ている。
保健室に来ていると言い直してもいい。
松本先生がさっき俺に、読むようにと数学の教科書ガイドを渡したところだ。
松本先生は、基本教科書ガイドを読むことで授業の代わりにするつもりらしい。
というより、ガイドを読めば、俺にはだいたい説明不要で理解できるし、覚えてもいる。
知力のステータスが3700オーバーだからね。
数学の教科書ガイドを最後まで読み切る。
テスト前だけでも三回は読んでいるので中身は完全に理解した。
「今日は五教科最後まで終わっちゃいそうね」
松本先生が嬉しそうに笑った。
「そうですね」
というより、この前のテストの時、余った時間で教科書ガイドを全科目三回ずつ読み込んだ。
もう中学のカリキュラムは終わっていると言ってもいい状態だ。
俺は先生の言葉に相槌を打つ。
「昼休みになったら、この前のテストの結果と順位が張り出されるから見ておいてね」
「はい。分かりました」
別に見たくもないけど、逆らわずに返事をする。
確認されそうなので、一応見には行くけどね。
午前中に、国語と理科の教科書ガイドも読み終わった。
給食を食べ昼休みになったので、言われた通り結果を見に行く。
三年の教室は三階だ。
その廊下の壁に順位と合計点数が張り出されている。
全員で四十数人しかいないので、全員分の順位と各科の点数と合計点数が張り出されている。
生徒たちが張り出されたテスト結果に群がってわいわい騒いでいた。
なんだかいつもより騒いでいるなと思いながら近づくと、皆の視線が俺に集中した。
そして男子五人が俺を取り囲む。
その後ろには、女子がたくさんこっちを見ている。
「おい、天心。おまえどういうインチキしたんだよ?」
二組の学級委員長平田翔だ。
何を怒っているんだ、こいつ?
「なんのこと?」
「なに、すっとぼけてるんだよ! お前、カンニングしたのか?」
なんだこいつ。
カンニングって何だよ。
俺は何のことかわからず、首をひねる。
「おまえ、どうやったらこんな点数を取れるんだよ! この前まで全然できなかったくせに!」
……点数を取れる?
カンニング?
どうやらテストのことらしい。
「ちょっとどいてくれる?」
俺は平田を押しのけ、張り出されたテスト結果を確認した。
掲示物の一番上に俺の名前が書いてあった。
一位 赤嶺天心 英語100 数学100 国語100 理科100 社会100
見事な500点満点。
まあ、当然か。
確かに間違いはなかったはず。
「おい! 無視すんじゃねーぞ」
平田が俺の肩に手をかけ振り向かせる。
「ちょっと待って。何をそんなに怒ってるんだい?」
俺が500点満点で、学年一位になったのは理解した。
……でも、平田はどうして怒ってるんだ?
後ろの女子の中に副委員長の中条明日香の姿が見えた。
睨んでるように見えるのですが?
今まで学年一位は、中条明日香の定位置だった。
その座を奪った俺を睨んでいても仕方ないか。
だが平田は五位以内くらいだよな。
だいたいは二位のことが多いけど。
今回はどうだったのかな?
「おまえに、こんな点数取れるわけがないだろう。どんな不正を働いたんだ!」
「今まで勉強したことがなかったからな。今回は松本先生に勉強させられたから、取れたんだと思うよ。不正なんか、してないさ」
なにせ、今まで教科書をまじめに読んだことがなかったからね。
「そんな言い訳が通じると思うなよ。どう考えても不自然だろう」
確かに今まで赤点ぎりぎり、いや時々赤点の俺が、数日勉強させられたからって、五教科満点なんて取れるわけがないわな。
本当は、知力のステータスが上がったせいだ。
でも、……そんなこと言えないし。
「不自然なのは、分かるけど……取れちゃったんだから仕方ないじゃん」
「テンメ―! 正直に吐きやがれ!」
「正直も何も、俺ってやればできる子だったみたいなんだな」
どや顔で見下す。
ちょっと腹が立ってきたので挑発気味になっちゃった。
でも、それくらい言ってもいいよね。
やってもいないのに、いきなり不正したって言われてるんだし。
「平田君も、ちょっと勉強すれば、満点取れると思うよ」
「グウヌヌヌヌ……」
平田が悔しそうに歯を食いしばってうなる。
グウヌヌヌヌ……って、何なんだよ。
「絶対、不正をあばいてやるからな!」
「だから、してないって。そんなこと考える前に、勉強したほうがいいんじゃないの? ちょっとやれば、すぐ満点なんか、取れるからさー」
また、煽ってしまった。
とはいえ、俺にとっては本当に簡単なことだ。
中学レベルの問題なんて、知力3700オーバーの俺にかかれば、間違う要素なんてない。
俺は振り返って保健室に帰っていった。
背中から、平田の罵声が響いていた。
でも……なんで、あいつはあんなに怒る?
中条明日香も睨んでいたな。
俺みたいに、今まで勉強が出来なかった奴に、いきなり抜かれたら悔しいのかな?
今度は70点くらいに抑えておこうか。
赤点が回避できればいいんだしな。
保健室に着くと、松本先生が待っていた。
「天心君、500点満点、学年一位、おめでとう。私も指導した者として鼻が高いわ」
確かに嬉しそうだし、鼻も高くなってるわ。
教科書ガイドを読ませただけだし、先生のせいでは、ないけどね。
あ……去年の問題をやらされたか。
「先生のおかげです。ありがとうございます」
100パーセント、知力アップのせい。
「いいのよ。いいのよ。大したことしてないし」
ほんとにな。
「じゃあ、午後は、英語と社会をやっちゃいましょう」
社会の教科書ガイドを渡された。
初めは社会科からってことね。
俺はそれを受け取って読み始める。
次は英語をやって、中学のカリキュラムは全部終了。
明日からすることないじゃん。
いったい明日から何をするのだろうか。
俺は授業時間が終わると、いつものように学校を出て池袋西探索者ビルに向かった。
『特別な探索者に指定されるかも』と言われたことが思い出された。




