第47話 見せちゃった
「分かった。分かった。もういい。やめてくれ」
慌てた声に振り向くと、マッチョの指導員さんの顔色が、見事なまでに青ざめていた。
「確かに、これなら倒せるだろう。疑って悪かった」
「分かっていただけて、よかったです。このことは絶対秘密ですよ。俺が人外扱いされちゃいますから」
俺はほっとしつつも、しっかり釘を刺す。
「分かった。分かった。誰にも言わんよ」
指導員さんは、まだ少し引きつった表情のままだ。
「こういう能力って、ダンジョンに入った人なら、少なからず身につくものなんですか?」
俺は、抱えていた不安を確かめるために聞いてみた。
だって、皆がこんなだったら、俺だけが人外扱いされることはないじゃん。
もっとも魔法使いがこの世にあふれてたらと想像すると、それはそれで、怖いんだけどね。
指導員さんは腕を組み、考え込む。
「稀に、そういう探索者もいると聞いたことがある。だが、この目で見たのは初めてだな」
お!
いい感じのバランスじゃね。
いないわけじゃないけど、確実にいるわけだ。
「珍しいけど、他にいないわけじゃないんですね?」
「そうだ。分かっているスキルや魔法は登録するようにはしているが、隠している者もいるし、あとから身につくのがほとんどでな。探索者協会でも、すべてを掌握しているわけではないし、やろうとしても無理なんだ。だから把握しているよりは多いかもしれないな」
やや落ち着きを取り戻した指導員さんが続ける。
「赤嶺君。それは、ダンジョンに入ったときに身についたスキルかい? それとも後から?」
「これは、あとから身についたスキルです。ダンジョンに入ったときはスチールを覚えましたから」
「なるほどな」
指導員さんは納得したように頷いた。
「探索者カードには、スキルや魔法までは書いていない。そこまでの技術はないんだよ。ステータスボードを呼び出せば、スキルや魔法まで載っているはずだけど、探索者カードに写し取れる情報は一部だけなんだ」
探索者カードは、初めてダンジョンに入ったとき、この人から渡されたんだったな。
俺は、探索者カードを取り出して確認する。
そこに書かれているのは、最低限の情報だけだ。
赤嶺天心 ヒューマン 14歳 レベル4
HP 11
MP 0
力 11
防御外皮 11
知力 10
速さ 11
器用さ 15
盗んだステータスも、スキルも、魔法も載っていない。
なんだ……これだけしか書かれていないんだ。
現代の技術もたいしたことないな。
いや。
これだけでも、情報が転記できてるだけすごいのか?
どうやってるのか、謎だもんな。
「本当ですね。スチールも、スライムバレットも載ってないや」
「あれは、スライムが使うと言われるスライムバレットだったのかい」
やべ、技の名前がバレた。
……てか、さっき思いっきり技名叫んでたけどな。
気付かなかったのか?
「一発、消化液弾を飛ばす能力って聞いてたが、いったい一度に何発撃ったんだい」
あ――、そりゃそう思うわなあ。
ピストルとマシンガンくらい? いやそれ以上に違うもんな。
一発ずつでも打てるけど、ちょっとそれじゃあ説得力なかったからなあ。
「あはは、今は六百発以上撃てますかね。初めは一発ずつだったんですよ。ははは――」
てこれ、シャレにならないレベル?
「ろ、ろ、六百発一度にだと? それをあと何回続けられるんだ?」
指導員さんの目が、はっきりと警戒の色を帯びる。
「何回でも。試したことはないですけど、試してみましょうか?」
「いや。それは、ここではやらんでくれ。大事になる」
即答だった。
……分かるぜ。
ちょっと危険かもしれないしな。
「了解です。自分でも何回できるか、知っておきたい気持ちはあるんですけど、魔力が切れるまでじゃないですかね?」
「君のMPは0じゃないか。魔力が切れるまでっていうことはないんじゃないかな。元々ないんだからね」
……あ、そうか。
探索者カードに、盗んだMPは記されていないから、俺は魔力を持ってないように見えてるのか。
本当のステータスが知られたら、――スチールの性質まで芋づる式に暴かれる可能性があるじゃん。
それはまずいな。
とてもまずい。
「そうですね。魔力がもともと0じゃ、魔力とは関係ないってことですかね」
肩をすくめ、俺はとっさに話を合わせた。
本当は、MPを多量に持っている。
スライムバレットは、水魔法と書かれているから、MPがなくなれば撃てなくなるに違いない。
だが、自分の情報は秘匿するべきだろう。
わざわざ隠れている情報まで明らかにすることはない。
「たぶんそういうスキルなんだろうな。スライムバレットは水魔法と言われているから、それとは別のスキルなんだろう。その呼び名は、君が勝手につけたんだろう?」
「そ、そ、そうです。スライムの魔法のスライムバレットだと思ってました」
ヤベーな。
深堀してきやがった。
「魔法じゃないから、まったく別物だね。別に君がどう呼んでもかまわないけど、ステータスボードにはなんて書いてある?」
「あ、じゃあ、今、見てみますね」
俺は、ステータスボードにスライムバレットと書かれていることを知っている。
「ステータスオープン!」
目の前に半透明の板、ステータスボードが現れるが、これは自分以外には見えないはず。
何と言ったらいいのかな?
正直にスライムバレットというべきか、別の名前、例えばスライムマシンガンとでもいうべきか?
「えーと……」
俺は、ステータスボードを読んでいるふりをして考える。
高い知力が高速思考を実現していた。
ほんのわずかな時間に、数えきれないほどのシミュレーションがおこなわれ、結論が出される。
「スライムバレットって、書いてありますね」
最終的に、嘘はばれる。
嘘は言わない方が良い。
だが、すべてを告げる必要はない。
「おかしいな。スライムバレットなら、発動にMPが必要なはずなんだが?」
マッチョの指導員さんが、顎に手を当てて首を傾げる。
ステータスボードには、『魔法 スライムバレット(672) レベル2』と書いてあるだけだ。必要なMPまでは記されていない。
詳しく知りたいと思いながら表記部分をタップする。
よくあるパターンを試したのだ。
詳細画面に切り替わったりするかもしれない。
思惑通り詳細画面に切り替わった。
水魔法 スライムバレット(672) レベル2 (消化液を同時に1~672発、弾丸として飛ばす。消費MP1~7)
なるほど……だいたい100発撃つのにMPを1消費する計算だ。
「わずかな魔力しか使ってないから0でも撃てるとかじゃないですかね? MPが0.01とかなら0と表示されてるのかもしれないですし」
……我ながら、苦しい言い訳だな。
「――、うーん。納得はいかないけどな」
指導員さんは腕を組んだ。
「俺のスキルが、水魔法のスライムバレットなのは間違いないようですね」
「ステータスボードに、スライムバレットと書かれているんじゃあ、そうなのだろうなあ」
納得はいかないと言いつつ、ひとまずそれでよしとしたようだ。
「じゃあ、これで確認は済みましたね。盗んだ疑いも晴れたってことで、いいですよね?」
「そうだな。今日はここまででいいだろう。ただ後で、君には特別な要請を出すことになりそうだがな」
「え!」
声が裏返った。
まだ何かあるのかよ!
「協会本部に情報を上げてからの話だから、そうなるとは限らんが、君は特殊な探索者に認定されるかもしれない」
特殊?
「そうなると、どうなるんですか?」
「すまんが、知らんので説明できんな。本部からの指示に従うだけだ」
俺の胸に、言い知れぬ不安が広がった。




