第46話 確認、やっべ
「それでね」
指導員さんは、話を切り替えるように指を一本立てた。
「二つ目の確認なんだけど」
「はい」
「メタルスライムのドロップ品、プラチナの塊を納品した件について。どうやってあれを手に入れたんだい? メタルスライムと戦って倒したのかい?」
クッ!
メタルスライムは、初心者の俺が倒せるような相手ではない。
メタルスライムのスキル『メタル化』は、体を金属に変える。
物理攻撃が無効化され、クリティカル以外の攻撃では、ダメージが0になるのだ。
しかも、逃げ足はめちゃくちゃ早い。
普通は、メタルスライムを見つけても、数回攻撃を入れられれば儲けもので、その時、運よく攻撃がクリティカルに決まらなければ、ダメージが通らない。
俺程度の攻撃力では、5回はクリティカルが決まらないと倒せない。
つまり、俺がメタルスライムを倒すのは、ほとんど不可能ということだ。
倒していないのは明らかで、倒して手に入れたはずはないのだ。
どうやって手に入れたのか……って聞かれても、倒したなんて言えるはずはないし、倒した事実を伝えたら、俺の『スチール』がユニークスキルだということまで言わねばならないだろう。
何と答えたらいいのか分からず、俺は考え込んだ。
???
……スチールで盗んだ?
……あ。
そうだ。
倒してドロップしたんじゃない。
スチールで盗んだんだ。
倒したのはその後。
――そこを黙っていればいいだけの話じゃね?
普通のスチールでも、何度もやれれば盗むことはできるはずだ。
俺は一回で盗んで、スチールで倒したけど、そんなところまで細かく聞かれていない。
倒していないことにして、何度かスチールして手に入れたと言い張れば、この場は乗り切れるんじゃないだろうか。
……いや、逃げ足の速さを考慮すれば、運よく一回で盗めたことにした方がいい。
腹を括って、俺はそう答えた。
「自分でも、信じられないくらいラッキーだったと思うんですけど、スチール一発で盗めちゃったんです。すぐに逃げられちゃって、倒すことはできなかったんですけど……」
どうだ?
信じてくれたか?
指導員さんはメッチャ笑顔だ。
……なんか、怖い。
「本当だね。メタルスライムに出会うだけでもラッキーなのに、一回でスチールが決まっちゃったなんて、運を使いつくしたまでありそうだよ」
「あはは、ひどいですよ。でも、それくらいラッキーでしたよね」
俺は乾いた笑いで同意する。
なんとか笑ってごまかせたようだ。
フー、俺のスチールの秘密を隠し通せて、すごくほっとしたぜ。
「さて、最後の確認事項だ」
マッチョの指導員さんが、また真剣な表情に戻る。
最後の確認事項って、きっとあれだ。
想像はできる。
スライムキングの魔石を納品した件だろう。
「スライムキングの魔石を納品した件についてだが……」
やっぱりね。
思った通りだ。
さて……今度は、なんと答えたものか。
「あの魔石はどうやって手に入れたのかな?」
魔物の魔石は、普通のスチールで盗めるのだろうか?
たぶん盗めないよね。
俺のスチールでも盗めていないし。
スライムの魔石もメタルスライムの魔石もスライムキングの魔石も、全部倒して手に入れたんだ。
……あれ?
「それから、倒していないメタルスライムの魔石をどうやって手に入れたのかな?」
指導員さんは、相変わらずメッチャ笑顔だ。
だけど、その笑顔が、さっきとはまるで違って見える。
あ!
……これ、ばれてるわ。
……メタルスライムを倒したことまでばれてるわ。
「赤嶺君。君は納品した時、倒したと申告したらしいね?」
……そうだったか、忘れてたわ。
指導員さんはメッチャ笑顔だ。
ぞくぞくするわ。
「嘘は良くないよ。嘘は泥棒の始まりだからね」
『泥棒の始まり』という言葉が、ぐっと胸に突き刺さる。
やっちまったな。
俺の信用、丸つぶれだわ。
「さて、どうやって倒したか話してもらおうか? それとも、誰かから盗んだのかな?」
……あ。
そっちを疑われてたのか。
確かに、俺みたいな新人では、スライムキングを倒せるはずがないと思うよね。
ここは、盗んでいないことをどう説明するかだな。
「すみません。スライムキングもメタルスライムも本当は俺が倒しました。だけど、倒したなんて言っても、信じてもらえないと思ったので」
「まさかの倒した発言か? じゃあ、どうやって倒したか説明してくれ」
メタルスライムはスチールで、スライムキングはスライムバレットの連射で倒した。
だから……そう言うだけなら簡単だけど。
……それじゃ信じられないよね。
「スキルについては秘密を守っていただけますか?」
「もちろん個人情報は秘密厳守だよ」
「俺には、スライムキングを倒せる攻撃力があります。ダンジョン内で、お見せしたほうが、口で説明するよりわかりやすいと思います」
指導員さんは少しだけ考える素振りを見せてから、ゆっくりとうなずく。
「なるほど。本当に倒したというんだね。確かに、盗まれたとの被害報告は出ていないんだよね。じゃあ……見せてもらおうか? その攻撃力とやらを」
俺は立ち上がり、ダンジョン内に向かった。
第1階層の誰もいない場所まで移動する。
マッチョの指導員さんも、当然ついて来ている。
もともと通過目的の探索者がいるくらいなので、少し奥に行けば誰もいない。
たいして移動に時間はかからない。
十分に奥まった場所まで来たところで、俺は立ち止まり、改めて周囲を見回した。
物陰、曲がり角、天井――どこにも人の気配はない。
大きく息を吐く。
――よし、ここなら誰にも見られない。
「じゃあここで、スライムキングを倒した力を、お見せします」
そう宣言して、右手を壁に向ける。
中途半端な威力より全力を見せた方が疑いが晴れるだろう。
「スライムバレット!」
俺の掌から消化液の弾丸が壁に向かって一気に吐き出された。
その数――672発。
ズガガガガガガ!!
連続する破壊音。
岩肌が削れ、砕け、蒸気と粉塵が視界を覆う。
そしてもう一度。
「スライムバレット!」
ズガガガガガガ!!
今度は、はっきりとした崩落音が重なる。
ボロボロ……ドスン!!
岩壁の一部が耐えきれず、崩れ落ちた。




