第45話 取り調べかな?
レクチャーを担当してくれた、あのガタイの良い職員さんが、俺の正面まで歩いてきた。
やっぱりこの人が、俺に用があるみたいだね。
「えーと。この前探索者になった、赤嶺天心君だね?」
「はい。そうです。この前は、ご指導ありがとうございました」
俺が頭を下げると照れ臭そうに頭を掻く指導員さん。
「個人情報にかかわることもあるから、ここだと話しづらくてね。場所を変えるから、先に食事を済ませてくれるかな」
「わかりました。じゃあ、失礼して食べさせていただきます」
個人情報にかかわる話って何だろう……と思いながら、急いで生姜焼き定食を食べ進める。
本当は、味わいながらゆっくり食べたかったが、待たせるわけにはいかないので仕方がない。
「君、誕生日は9月だよね?」
「はい。9月1日です」
即答はしたけど――これってモロに個人情報なんじゃない?
まあ、探索者登録のときに書いた内容だから、知られていることだろうけど。
個人情報にかかわる話……大勢いるところで、いきなりしてるじゃん。
別にこのくらいはいいけどね――。
「あと一か月ちょっとで十五歳か。第2階層に行くようになったら、どれだけ稼ぐんだろうねえ」
呆れ気味につぶやく指導員さん。
え! ……稼ぎすぎがいけなかったか?
「食べ終わりました!」
バシン! と箸を置いて立ち上がる。
「じゃあ、ついてきて」
「はい」
1階に降りて、受付窓口の横にある職員用の出入り口から、ミーティングルームらしき個室へ通された。
部屋の中央に八人がけのテーブルと椅子があるだけの簡素な部屋だ。
俺は奥側の席に座らされ、正面にあの大柄な指導員さんが腰を下ろした。
「規則を守って、第2階層には行ってないようだね」
「ルールは守るつもりです」
「いいね。いいね。守ってくれないと、注意する側も面倒だからね。あと少しだから、我慢してね」
「はい。そのつもりです」
「実は今日、君を呼んだのは、三つのことを確認するためなんだ」
そう言って、指導員さんは俺の目の前で、指を三本立てた。
「まず一つ目だけど――毎日のように多量のスライムゼリーを取ってきている件」
指導員さんは、テーブルに置いた分厚い指で、トン、と一度だけ叩いた。
静かな会議室に、その音だけが妙に響く。
やっぱり、稼ぎすぎはいけないのかな?
俺はなるべく平静を装って聞き返した。
「多いといけませんか? 稼ぎすぎってことですか?」
なんだか、すごく緊張する。
「稼ぎすぎってわけじゃないし、深層を探索しているパーティの稼ぎと比べたら、はした金に過ぎないさ」
指導員さんは肩をすくめ、苦笑気味にそう言った。
ほっとしたぜ。
「そうですか」
――じゃあなんで問題にされるの?
「毎回、魔石と同じ数のスライムゼリーを買い取りに出すのが、おかしいっていうか……その仕組みが知りたいってことさ。特殊なスキルでも持っているのかな……ってね」
あー、なるほどね。
「スチールというスキルを使って魔物からドロップ品を盗んでいます。スライムなら、あまり攻撃されないので、余裕で盗むことができるんです」
嘘は言っていない。
ただし、全部は言っていない。
「スチールね。予想通りってところだけど……それにしても100パーセント盗めているのは、珍しいよ」
指導員さんは顎に手を当て、少し考え込むような仕草を見せる。
「スチールの成功率はレベル1で30パーセントくらいって言われてるから、盗めるまで何度も繰り返してるってことかな?」
俺のスチール成功率は、100パーセントだ。
今では、一度に八つも盗んでいる。
しかも、能力値まで奪えるなんて、本来あり得ない。
ネットで調べたところによると、普通のスチールで盗めるのは、ドロップ品や装備などの持っている品物。
能力値までは盗めないらしい。
俺のスチールは特別なのだ。
ステータスにユニークって書いてあったしね。
でもこのことは、隠しておいた方が良いと感じた。
知られたら、大騒ぎになるのは確実だもの。
「そうです。盗めるまで何度も繰り返しています」
俺は視線を逸らさず、淡々と答えた。
心の中では、冷や汗が止まらない。
「そうか――」
指導員さんは小さく息を吐き、頷く。
「じゃあ、君は『スチール』持ちだと登録しておくよ。決してダンジョンの外でそのスキルは使わないでね」
そう言ってから、少し声を落とした。
「それから、このスキルを持っている人は、警察には疑いの目で見られやすい。だから、冤罪には気をつけること」
――う! ……やばいな、これ。
そうでなくても、とーちゃんが盗人なのに……。
近くで盗みが発生したら、真っ先に疑われるじゃん。
極力、人に近づかない方がいいのだろうか?
冤罪を避けるには、どうしたらいいんだろうか?
静かな会議室で、そんなことばかりが頭の中をぐるぐると回った。
「おい。大丈夫か?」
声をかけられて、はっと顔を上げる。
どうやら俺は、思っていた以上に固まっていたらしい。
指導員さんが、机越しに心配そうな顔でこちらを覗き込んでいた。
まずい。
変に勘ぐられる前に、なんとか誤魔化さないと――。
俺は慌てて口元を引きつらせ、ぎこちない笑顔を作る。
「だ、だ、大丈夫です。でも、持ってるだけで疑われるんですね。少しショックだったみたいで、ボーッとしてすみません」
「はは、ごめんごめん。余計なこと言っちゃったかな」
指導員さんは悪びれもせず、軽く肩をすくめた。
「いえ。教えてもらえて感謝します。知らなかったら、大変でしたから」
「知らなかったら、大変?」
……やっぱり、追及してくるよね。
『あとで知られるより初めに教えておいた方がいい』という3人組の言葉が思い出される。
隠すより、今、ドロップアウトするべきなのか?
「あの……俺のとーちゃんって、盗人なんで、学校でも冤罪で疑われたこともありまして……。あ、俺、何もしてないですよ。本当に」
自分で言ってて、胃のあたりがきゅっと縮む。
どうして俺が、こんな思いをしなくちゃならん。
「そうかい。それで、そういうスキルが生えたんだね」
指導員さんは、何か納得したような表情で続ける。
信じてくれたのか?
分からない。
……でも、どうでもいい。




