第38話 出してますね!
第37話時
赤嶺天心 ヒューマン 14歳 レベル4
職業 怪盗紳士
HP 11(+3611)
MP 0 (+3380)
力 11
防御外皮 11(+1125)
知力 10 (+3375)
速さ 11(+1118)
器用さ 15
スキル スチール(ユニーク)レベル4
スライムの胃袋(3203) レベル3
消化液(1950) レベル3
魔法 スライムバレット(591) レベル2
装備 なし
アイテム リュックサック
金 三万六千円
口座 千四十七万三千三百円
パチンコ屋に足を踏み入れた瞬間、耳を殴るような音が押し寄せてきた。
電子音、玉の弾ける甲高い音、歓声とも溜息ともつかない声。
空気は少し煙たく、独特の甘ったるい匂いが鼻をつく。
……相変わらず環境悪いな。
視線を巡らせると、探すまでもなく道造さんは、すぐに見つかった。
道蔵さんの台が、派手にフィーバーしていたからだ。
液晶画面は虹色に輝き、けたたましい音楽が鳴り響いている。
足元には、パチンコ玉がぎっしり詰まった大箱が積み上げられていて、床に置かれたその存在感だけで「今日は勝ってます」と主張していた。
うわ……めっちゃ出してる。
後ろからそっと近づくと、俺が声をかける前に、道造さんはふいに振り返った。
にやりと口元を緩め、何も言わずに隣の席を指さす。
隣に座れということだ。
驚かそうと思ったのに、勘がいいなあ。
言われるまま腰を下ろすと、道造さんは液晶画面から目を離さず大声を出す。
その声は、周囲の騒音にかき消されそうで聞き取りにくい。
「久しぶりじゃのう」
久しぶりと言っても、何日かぶりだよね。
頭の中でそう突っ込みつつも、俺は曖昧に頷いた。
「また、追い出されたのか?」
「いえ。そうじゃなくて……」
言いかけたところで、道造さんがふっと鼻で笑った。
「いや、冗談じゃ」
俺は、少し視線を逸らしながら話題を変えた。
「景気よく出してますね」
「まあのう」
道造さんはそう言って、どこか満足そうに玉の流れを眺めている。
その横顔を見ながら、この人、本当に楽しそうだな……と俺は思った。
「今日は、これで三回目のフィーバーじゃ」
自慢かよ!
液晶ではまた派手な演出が始まり、甲高い電子音が周囲の台と共鳴している。
「すごいですね。それじゃあ、相当儲かってますね」
俺がそう言うと、道造さんは眉をひそめる。
「そうじゃのう。うーん。突っ込んどるからそうでもないかのう」
どっちだよ!
道造さんは、箱に溜まった玉をちらりと見やり、肩をすくめた。
「結局、差し引きマイナスじゃのう。その分遊ばせてもろうたと思えば……」
自慢じゃないらしい。
三回もフィーバーしてるのに、結局マイナスって、どんだけ突っ込んだんだ?
一回フィーバーすると、いつも四万五千円くらいになってたから、十三万も突っ込んだのか?
一日やってると、そんなに玉代かかるのね?
画面が静かになり、フィーバーが終わったらしい。
道造さんは、椅子の背にもたれたまま、ふうっと短く息を吐いた。
「ま、今日はここまでじゃな」
そう言って、腰を浮かせる。
その動きに合わせるように、いつの間にか店員が現れ、大箱を抱えて運ぶ準備をしていた。
音もなく近づいて、仕事だけ済ませて、また消える。
……この人いつも忍者みたいだよな。
道造さんは振り返り、俺と目が合うと、口元を少しだけ緩めてにやりと笑う。
「腹、減っとらんか?」
「……減ってます」
かなり減ってる。
晩飯を食わずに来たのには、理由がある。
いつものコンビニで弁当を買って、道造さんの家で、並んで座って食べながら、少しだけ話を聞いてもらいたかったから。
「おごってやろう。中華でいいか?」
街中華かな?
店だと周りを気にして思うように話せない。
「コンビニ弁当買って道造さんの家で、食いません?」
「別にかまわんぞ」
俺は道造さんの後について、パチンコ屋を出て、両替所を経由し、いつものコンビニに入った。
店内に入ると、冷房の風が肌に心地いい。
弁当コーナーの前で、二人並んで立つ。
「コーラに、鮭握りとシーチキンマヨにします」
「カルビ弁当にしておくかのう」
道造さんは、弁当と緑茶を購入。
レジで俺の分も金を払ってくれた。
またおごってもらって心苦しい。
あとで、何かお返しを買おう。
そう心に決めながら、俺は袋を受け取った。
道造さんの後ろを歩きながら、家へ向かう。
途中、俺が夜になるとよく寝ていた家近くの公園の横を通り過ぎる。
アパートに着くと、道造さんが鍵を開け、カチリと音がして室内に柔らかな明かりが灯った。
俺はその背中について中へ入る。
相変わらず、部屋はきれいに整っていた。
床に余計な物はなく、生活感はあるのに、散らかっている感じがしない。
道造さんって、見た目よりずっとちゃんとしてるよね。
「その辺に座ってくれ」
コンビニ弁当を道造さんに渡し、畳に腰を下ろして胡坐をかく。
道造さんはテレビをつけ、俺の正面に胡坐をかいた。
道造さんは、箸を取って食べ始めた。
俺は、おにぎりのビニールをむき始める。
「で、……どうかしたのか?」
俺に何かあったと感じていたらしい。
鋭いな、道造さん。
「えーと、――この前からかーちゃんが帰って来なくて」
俺は、少しだけ視線を落として答えた。
こういう話を、どう切り出せばいいのか分からない。
だから結局、起きていることを、そのまま言うしかなかった。
「いつからじゃ?」
「この前、泊まらせてもらった朝から会ってなくて……」
道造さんはすぐには何も言ず、腕を組み、少し顎を上げて、天井を睨んだ。
「もう何日も帰っておらんのじゃなあ……」
「……はい」
短く答えて、頭を垂れる。
道造さんは、しばらく黙ったまま考え込んでいたが、やがて視線を俺に戻す。
「誰かから、連絡とかは、来とらんのか? 病院とか警察とか」
「……一度もないです」
それを聞いて、道造さんは小さく舌打ちをした。
苛立ちというより、心配の色が濃い。
……あ! 不動産屋が来たんだった。
「そういえば、今日家賃の件で、不動産屋が来て……三か月分、溜まってるって。……俺、払いました」
道造さんの眉が、ぴくりと動いた。
「払った?」
「はい。たまたまあった現金で……」
ぎりぎりあったんだよね。
あってよかったわ。
道造さんは、深く息を吸ってから、ゆっくり吐き出す。
「……そうか。大変じゃったな」
だいぶ心配させてしまったみたいだ。
きっと金がないと思ってるよね。
「でも、金は大丈夫ですよ。俺、探索者してるおかげで、金は結構稼いでるんで」
1千万円も持ってるんだぜ。
って……本当に持ってる……はずだよね。
なんだか現実味がなくて、夢だったんじゃないかと不安になってきたわ。
俺の不安を感じ取ったのか、道造さんは、心配そうに俺を見つめていた。




