第36話 稼いだなあ
その後も俺は、未知の通路を探索し続け、最奥の行き止まりまで確認すると引き返した。
その間、出会ったスライムを倒したが、36匹全てレベル5だった。
……やっぱり奥のほうが強い。
未知の通路を探索し終えた俺は、そのまま出会うスライムを倒しながら入り口へと引き返す。
ロッカールームに戻ると、リュックと予備のビニール袋を取り出し、魔石とスライムゼリーを詰めるとクロークに向かう。
もちろん、メタル化で全身を銀色にして、運動着の惨状が目立たないように偽装してだ。
リュックと予備のビニール袋をクロークで買取りしてもらう。
お姉さんの視線が一瞬俺に釘づけになった。
やっぱり恥ずかしい。
「スライムの魔石、331個スライムゼリー331個……」
再起動したクロークのお姉さんが、淡々と数えながら途中でふと手を止めた。
「……それと、これは……?」
視線が、メタルスライムの魔石とプラチナ塊、そしてスライムキングの魔石へと移る。
「メタルスライムの魔石に、プラチナ塊が一個。それに……スライムキングの魔石ですか?
まさか、メタルスライムとスライムキングを倒したんですか?」
思いっきり疑ってるよ、この人。
「はい。そうです」
俺がそう答えると、お姉さんは一度だけ俺の全身――銀色の姿をちらっと見てから、すぐに営業用の笑顔に戻った。
「確認してきますので、少しお待ちください」
クロークのお姉さんはそう言って、プラチナ塊とスライムキングの魔石を持ち、奥へ引っ込んでいった。
しばらくして。
「お待たせいたしました」
戻ってきたお姉さんは、はっきりとした声で査定結果を読み上げた。
「スライムの魔石、三万三千百円。スライムゼリー331個、十六万五千五百円。メタルスライムの魔石が千円。スライムキングの魔石ですが、五万円になります」
スライムキングの魔石が五万円って、けっこう安いな。
でもまあ、そんなもんかな。
「それから、プラチナ塊ですが……この重さですと、現在のプラチナ相場で、千二十二万三千七百円になります。よろしいでしょうか?」
「……せ、千二十二万!? す、すげー!」
おにぎりサイズの金属の塊が、千万円超えって――。
プラチナって確か、グラム何千円とかするんだよな。
そりゃこの大きさなら、そうなるのか。
「よろしいでしょうか?」
お姉さんは、にこやかな笑顔で念押ししてくる。
「は、はい……それでお願いします」
「かしこまりました」
慣れた様子で頷くと、続けて説明が入った。
「それでは合計で、千四十七万三千三百円になります。 この金額ですと現金でのお渡しはできませんので、探索者口座を作成し、そちらに預け入れいたします」
そう言いながら、通帳と黒いカードを差し出してくる。
「こちらのカードは、探索者ビル内はもちろん、銀行やコンビニのATMでもご利用いただけます。二階や三階の店舗でのお支払いにも使用可能です」
俺は通帳を受け取り、恐る恐る残高欄を確認した。
「確かにあります。ありがとうございました」
通帳に数字が並んでるけど、手元に現金がないと、なんだか現実感がない。
俺、ホントに一千万以上稼いだんだよね?
クロークを後にする俺の背中を、全身銀色の怪しい少年を、クロークのお姉さんは最後まで、変わらぬ笑顔で見送っていた。
三階の店は、まだ営業時間の前だったので、服を調達できなかった。
まあ、朝四時だから仕方ないよね。
探索者ビルの外に出ると、空はまだ暗かった。
街灯のオレンジ色が、アスファルトを照らしている。
バスも動いていないし、人影もない。
この時間なら、思いっきり走っても、目撃される率は少ないだろう。
店が開くまで中で待つか、この格好で走って帰るか、悩むところだ。
下手してほぼ裸なのがばれたら、警察の御厄介になりそうな事案だが、見られなければ問題ない。
走って帰ることにする。
かえって、速く走った方が服を着ているように見えるしな。
夏とはいえ、明け方の空気は冷たい。
ほぼ全裸に近い状態の体に、ひやりとした感覚がまとわりつく。
早く帰って、着替えたいぜ。
地面を蹴る。
銀色の風になって駆け抜ける。
かーちゃん帰ってたらいいな……なんて考えているうちに、見慣れた家が視界に入った。
鍵を開け、中に入る。
しかし、家に入っても、かーちゃんが戻った痕跡は一つもなかった。
俺は、僅かに気落ちしたが、想定通りだと思いなおした。
メタル化を解く。
ぼろぼろになった運動着を脱ぎ捨て、ゴミ箱に放り込む。
スウェットの上下を着て、ほっと一息。
布団を敷いて、体を沈める。
疲労が一気に押し寄せ、意識はあっという間に遠のいた。
……起きたら、学校指定の運動着を買いに行かなきゃな。
そのまま、深い眠りに落ちていた。
* * *
目が覚めると、12時だった。
――ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。
玄関で呼び鈴を鳴らして、声をかけている人がいる。
「赤嶺さーん! いらっしゃいませんかー?」
どうやらこの声で、俺は目を覚ましたらしい。
「はーい! 今行きまーす!」
俺は眠い目を擦りながら玄関の扉を開ける。
若い痩せ型、ワイシャツ、ネクタイにスラックスといった、いかにもお仕事ですという感じのお兄さんが立っていた。
「駅前の山西不動産のものです」
「あ、はい……」
山西不動産?
「親御さんは、いらっしゃいますか?」
「今、いないんですけど」
そう答えると、お兄さんは、言葉に詰まったように視線を泳がせた。
「……実はですね」
声が、ほんの少しだけ低くなる。
「家賃が三か月分、未納になっておりまして。口座からの引き落としも、確認できていません」
中学生相手に言う内容じゃない。
それは俺にも分かった。
「今日はその……ご相談に」
そりゃ、中学生には言いづらいよね。
「口座にお金を入れれば、いいんですか?」
「いえ。もう引き落としはできませんので……現金でお支払いいただけますでしょうか」
「今ですか?」
「はい」
「おいくらですか?」
「一月の家賃が六万五千円になりますから三か月分で十九万五千円になります」
今俺の所持金は、二十一万円くらいである。
払えるには払えるが、払ってしまうと……残りは一万五千円くらいか。
運動着を買わなきゃならないから、ぎりぎりだな。
……でも、払うなら一回で払ってしまった方が手間はないよな。
それに、かーちゃんが帰って来なかったら今後の家賃は口座振り込み。
口座の確認はしておいた方が良いな。
「ちょっと待ってください」
俺は不動産屋のお兄さんを待たせて奥に入る。
確か通帳は引き出しの中にあったはずだ。
テレビ台の引き出しを漁って通帳をみつけ、スライムの胃袋から二十万円を取り出した。
「あの、家賃はこの口座から引き落とされてるんでしょうか?」
俺は現金を渡しながら通帳を確認してもらう。
かーちゃんが、ずっと帰って来なかったら、来月から俺が家賃を払わなくてはならないのだ。
「はい。この口座から引き落とすことになってますね」
不動産屋のお兄さんが、口座番号を確認してからお釣りの五千円札と通帳を返してくれた。
「何か分からないことがあったら、駅前の山西不動産までお越しください。それでは失礼いたしました」
頭を下げてから帰っていくお兄さんを、俺は複雑な気持ちで見送った。
第36話時
赤嶺天心 ヒューマン 14歳 レベル4
職業 怪盗紳士
HP 10→11(+3081)
MP 0 (+2850)
力 10→11
防御外皮 10→11(+1010)
知力 9→10 (+2845)
速さ 10→11(+1003)
器用さ 14→15
スキル スチール(ユニーク)レベル4
メタル化 レベル1
スライムの胃袋(2673) レベル3
消化液(1685) レベル3
魔法 スライムバレット(485) レベル2
装備 なし
アイテム リュックサック
金 約21万
口座 千四十七万三千三百円




