第34話 スライムキング
第33話終了時
赤嶺天心 ヒューマン 14歳 レベル3
職業 怪盗紳士
HP 10(+2505)
MP 0 (+2287)
力 10
防御外皮 10(+862)
知力 9 (+2282)
速さ 10(+855)
器用さ 14
スキル スチール(ユニーク)レベル4
スライムの胃袋(2110) レベル3
消化液(1365) レベル3
魔法 スライムバレット(355) レベル2
装備 なし
スライムゼリー244個
スライムの魔石244個
やばい。
もう5メートルまで詰められている。
ぷるりと巨体が脈打つたび、口の端がわずかに震える。
あれは――来るぞ。
もうすぐ攻撃を仕掛けてくるに違いない。
逃げるか?
だが、視界いっぱいに広がる巨大なスライム。
こんな――スライムキング級と遭遇できるなんて、滅多にないはずだ。
……やるだけ、やってみるか。
なら、先制攻撃――
そう判断した、その瞬間スライムキングの体表が、ぶくり、と一斉に膨れ上がる。
「――っ!」
次の瞬間、撃ち出された消化液の弾丸の束。
壁のような弾幕が、視界を塗り潰して迫ってくる。
ク!
一瞬判断が遅れて先制された。
俺は反射的に横へ大きく跳んで回避するが、避けきれず10発ほどは被弾した。
運動着がじゅっと音を立てて溶ける。
さすがにこの距離では、弾幕が広すぎて避けきれない。
もう少し距離を取って回避しよう。
俺は地面を蹴り、バックステップで一気に間合いを広げる。
ここなら――弾が飛んでくるまでの時間が稼げる。
5メートルは離れているので弾が飛んでくる間にかなり動ける。
弾幕の外まで移動できるだろう。
次々に弾幕が放たれる。
帯状に連なる消化液の雨。
俺はその隙間を縫うように走り、転がり、跳ぶ。
視界の端で弾が弾け、床をえぐる。
俺はキングスライムにスチールを仕掛ける。
「スチール」
スライムバレット4をスチールしました。
「……よし!」
スチールを成功させたが、その代償は安くなかった。
スチールに意識を割いた一瞬、回避が甘くなり、さらに10発近くを食らっていた。
これ以上離れれば、スチールが届かなくなるが、もう少し離れないと広い弾幕を避けきれない。
スライムバレットを避けながら、俺は歯を食いしばり大きく右に回り込む。
その動きに合わせて、スライムキングの弾幕も、ぴたりと右へ追従した。
そして俺の進む先を狙った弾幕が飛ぶ。
「……っ!」
読まれている。
俺は急停止、全力で方向転換。
ぎりぎり、弾幕の端をすり抜ける。
さらにその先へ、追い打ちの消化液の弾幕が飛ぶ。
クソ! まにあわねー!
躱そうとしたが、間に合わない。
20発以上被弾した。
ビシ! ビシ! と連続する衝撃。
体が弾かれ、足元がよろける。
……っ、まずい。
衝撃の感触で分かる。
防御外皮がかなり削られた。
このままじゃ、削り切られるほうが早い。
何とかこの削り合いに勝たねばならない。
だが、スライムキングから放たれるスライムバレットは、途切れない。
間断なく、休むことなく、容赦なく。
避ける。
走る。
転がる。
安全圏にいれば攻撃は届かない。
避け続けても、わずかな判断ミスで被弾する。
踏み込めば、その瞬間に弾幕に飲み込まれる。
……分が悪いな。
駆け続け、回避し続け隙を伺うが……スライムって隙が見つけ辛いよね。
表情が変わる訳じゃないし。
それからスチールを3回食らわせる間に6回被弾し、おそらく100位防御外皮が削られただろう。
スライムキングのスライムバレットは、もう16奪ったから、残りは26のはず。
だが、一向に弾幕は小さくならない。
……おかしいな。
想定したスライムキングのステータスが間違っているのかもしれない。
合体して進化したことによる、ボーナス的なステイタス上昇が有ったのか?
それともスライムバレットの能力すべてがなくなるまで、一度に放たれる弾数は減らないのか?
削り合いで、勝てると思っていた計算が、根底から崩れる。
そもそも、あのステータス推定に確たる根拠なんてない。
何か打開策を見つけなければならないと思いながら、やっていることは変わらなかった。
躱す。
躱す。
走る。
反撃のスチール。
被弾。
スライムキングの体が光る。
次の瞬間放たれた弾丸が、あらぬ方向に飛んで行き……大きく曲がって俺のほうに飛んできた。
放物線を描いて飛ぶ弾丸。
右と左と上から三方向から俺に向かってくる。
マジか!
前方に転がるようにして弾丸の嵐を避けようとしたが、かなりの被弾を許してしまう。
一気に100は削られた気がする。
体操着はボロボロだ。
立ち上がってスライムキングを見ると、つぎの弾が撃たれようとしている。
今度は正面からだ。
距離が、近い。
回避のための時間が、圧倒的に足りない。
右にダッシュして大きくサイドに回り込む。
20発程度は被弾したかもしれないが、放物線の弾道があることは脳内にインプットされた。
次はさっきのようには当たらないぞ。
さっきは、弾道の時差によって三回分の弾が一度に3方向から襲ってきたから厳しかったのだ。
今度はカーブの弾丸の進行方向から敵の攻撃を予想してやる。
大きく回り込みながら手を突き出しスチールを唱える。
「スチール!」
スライムバレット4をスチールしました。
直後、正面からカーブした弾幕が迫る。
足を踏ん張って方向転換し、スライムキングから離れる方向に回避した。
多少被弾したが、前方から来た弾幕の横をすり抜けた。
さっきまで俺がいた場所に、上から消化液の弾丸が降り注ぐ。
俺はそのまま回り込み、スライムキングの後方に出る。
前後があるのかは、知らんけど。
背面からも、スライムバレットが発射される気配。
やっぱり前も後ろもねーな、こいつにゃあ。
俺はそのまま走り続け距離をとった。
ダンジョンの際深部の壁が眼前に迫る。
ち……行き止まりかよ!
俺は振り返り、同時に飛んでくる弾幕を右回りに回避する。
――ズバババ!!
ダンジョンの壁一面に、無数の消化液が叩きつけられる。
石壁が溶け、水煙が上がる。
刹那、進行方向に弾幕。
急ブレーキをかけて反転。
目の前の壁が、再び弾幕に洗われ、水煙を上げた。
スライムキングが距離を詰めながら、俺を狙って3方向から着弾するように発砲する。
右、左、前方から迫る消化液弾の嵐。
逃げ場は上しかない。
「――上か!」
俺は後方の壁へ跳び、
そのまま壁に足をかけ、さらに上へと蹴り上がる。
次の瞬間、俺がいた空間を、弾幕が飲み込んだ。
「くそったれ!」
スチールしてても、らちがあかねー!
もう、このやり方では押し切られる。
奪い切る前に、削り切られる。
なら――叩き潰す。
俺は右手を突き出し、意識を一点に集中させる。
「――行けっ!!」
全力で放つ。
バババババババ!!
咆哮のような音とともに、
俺のスライムバレットが、空間を埋め尽くした。
――375発。
375発の消化液弾が弾幕となってスライムキングを襲った。
そして、間を置かず――2回目、3回目。
スライムキングに全弾命中。
そりゃ、的もでかいし、動きもほぼ無いからね。
轟音。
蒸気。
飛び散るゼリーの塊。
視界が、完全に白く染まる。
俺が地面に着地すると同時に、背後の壁がガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
「……は?」
穴が開いてんじゃん。
壁の先、ダンジョン続いてんじゃん。
もしかして、地図にないところを見つけちゃった?
まさかの隠しルート?
煙が晴れるとスライムキングの姿がない。
クソ! どこに隠れた?
警戒しながら視線を巡らせる。
だが目に入ったのは――
広がる巨大な水たまりと、
その中央に転がる、ひときわ大きな魔石。
あれ? これ、倒しちゃったのかな?
俺はスライムキングの魔石を手に取った。




