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祝15万PV達成 『親ガチャ失敗・俺の親、泥棒ですが何か!』 怪盗紳士は『スチール』極めて成り上がる。  作者: 米糠


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第29話 思わぬ提案

 

 松本先生は、ベッドに腰かけたまま俺の答案を再び採点し始める。

 ペン先が紙の上を軽やかに走り、赤丸が一つ、また一つと増えていく。

 保健室には、時計の秒針の音と、遠くの教室からかすかに聞こえる授業の声だけが流れていた。


「ふーん。見事だわ。二年生の成績が嘘みたい」


 うん?

 俺の過去の成績を、調べてきたのかな?

 そりゃ、二年までの俺は、赤嶺ならぬ赤点君だったけどね。


「赤嶺君、全問正解よ。完璧だわ」


「ありがとうございます」

 俺は教科書ガイドを読みながら答えた。


 松本先生は何やら真剣な顔で眉根を寄せている。

 答案を見つめる端正な横顔が、保健室の白いカーテン越しの光に照らされていた。


「読み終えたら、これをやってね」

 去年の一学期のテスト用紙を机に置く。


 俺は、教科書ガイドを読み終えるとテスト用紙を手に取った。


 ふん……簡単、簡単。


 すらすらと答えを書き続ける。

 鉛筆が止まることはほとんどなく、頭に浮かんだ答えがそのまま形になる。

 最後まで問題を解き終わってから、採点をお願いした。


 松本先生が、答案用紙に赤丸をつけ続ける。


「全問正解。君、本当にすごいわね」


 賛辞の言葉に、照れながら頭を掻く。

 昨日から、褒められっぱなしでなんだか別人になった気分だ。


 ……今まで、勉強で褒められたことなど一度もない。

 勉強したことなかったもんな。


 読んだものがこんなにすらすら理解できて、頭に残るなんてことは、今まで一度もなかった。

 これはスライムから知力をスチールし続けたおかげだろう。

 ……スチールしたのは知力だけじゃないけど。


「午前中は、ここまでね。お昼を取ってくるから休んでいていいわよ」


「では、少しベッドで休ませてもらいます」


 開かれたパーテーションカーテンの向こうにあるベッドへ向かい、白いシーツに身を沈める。

 ほのかに消毒液の匂いがするが、もう慣れてしまっていた。

 天井を見上げると、蛍光灯の光がぼんやりと滲む。


 ……残りは、国語か。


 松本先生が保健室を出ていき、俺はベッドで横になっていた。


 ――――少し眠っていたのだろうか。

 松本先生に起こされた。


「給食持ってきたから食べてね」


 体を起こすと、ベッドの上に配膳台が差し入れられ、その上にトレーに乗った給食が置かれる。


 先生の分は机の上に置かれている。

 一緒に保健室で食べるつもりらしい。


 トレー二つを持ってきたのか。

 ……引き戸は足で開けたのかな。


 松本先生は、さっき俺がテストをしていた机で給食を食べ始めた。

 小さな口が、もそもそ動いている。


 俺は、パンを取って大口でかぶりついた。

 お椀に入ったクリームシチューをスプーンですくい、パンの入った口に突っ込む。

 口の中で、パンがクリームシチューの味になる。


 牛乳をグイっと一口。

 牛乳で流されて、口の中が空になる。


「赤嶺君、午後国語をやったら、勉強終わっちゃうね。明日から、先に進んじゃおうか?」


「はあ。いいですよ」


「君、高校いかないって言ってたわよね?」


「はい。俺の家、貧乏なんで」


 とーちゃんは刑務所の中、かーちゃんは無職。

 もしかしたら、お水系の仕事を見つけたかもしれないが、長続きするとは限らない。


 要するに、中学を卒業したら俺は就職するのだ。

 いや、もう探索者として働きだしている。


「高校に行かなくっても、高校を卒業したことにできる方法があるって知ってる?」


「え! そんなこと、できるんですか?」


 ……高校って通わなくても卒業できるのか?

 そんな、都合のいい話があるんだろうか?

 先生が嘘を言うわけがないから、本当なんだろう。


 俺が驚くのを見て、松本先生は小さく肩を揺らし、フフっと微笑んだ。


「高等学校卒業程度認定試験というのがあってね、それに合格すると、高卒程度の学力があると認定されるの。毎年八月と十一月に行われる国家試験で、その年度に十六歳になる年齢以上なら受けられるわ」


 国家試験――その言葉の響きに、俺は思わず背筋を伸ばした。


「てことは……」


「高校一年生の年ならば受けられるってこと」


「へー。俺だと来年八月の試験から受けられるってことですか?」


「そういうこと」


 そんなこともできるのか。

 学歴か……中卒だとちょっと恥ずかしいかな。


「それに合格したら高校を卒業したことになるんですか? 高校一年生ででも?」


「そう。昔は、大学入学資格検定・大検って呼ばれてた制度なの。合格すれば、学歴は中卒のままだけれど、履歴書に記載することで学力をアピールできるし、大学受験や就職にも高卒同等の扱いになるのよ」


 松本先生は、淡々と説明しながらも、どこか楽しそうだ。


「大学を受験して卒業できれば学歴は大卒。でも、そうでなければ学歴は中卒なんですね?」


「そういうことね。でも高卒認定合格って履歴書に書けるから、その方がカッコよくない?」


「確かに、飛び級したみたいでカッコいいです」


「実際、十六歳で合格したら、飛び級したようなものだからね。十八歳までは大学は受けられないけど」


 なんだかほんとにカッコいいし、飛び級なんてあこがれるな。

 でも大学受験で追いつかれちゃうのか。


「カッコいいですね。でもその試験、難しいんじゃありませんか?」


「試験の難易度は、高校一年程度の基礎的な内容が中心で、合格点は公表されていないけど、100点中40点前後と言われてるの。試験科目は、国語、数学、英語、公共、歴史、地理、あと理科5科目中のなかで、科学と人間生活とその他1科目か、あるいは物理、化学、生物、地学のうち3科目のどちらかよ。科目数は最低8科目に合格しなくてはいけないから、量的には大変ね。でも――」


 松本先生は、そこで一度言葉を切り、俺の顔を見る。


「赤嶺君なら、簡単だと思うけど」


「でも、俺、高1の勉強してないし……」


「君なら、参考書を読めば簡単にクリアできるんじゃない」


「100点中40点ならいけますかね?」


「天心君なら、100点近く取れるわよ」


 ……あれ?

 今、赤嶺君じゃなくて、天心君って呼ばれたよ。


 なんだか距離が縮んだようで、変な感じだ。

 別に嫌じゃないけど、距離感近すぎは良くない気がする。

 他の人に聞かれたら、贔屓されてるって悪口をいわれそうだ。


「中学の勉強は、3年の後半だけだし、この調子なら数日で終わっちゃって、その後どうしようかと思ってたのよ」


 松本先生は、机に肘をつきながら、少し首を傾げて俺の顔を覗き込む。


「なんなら、認定試験合格用の勉強をしましょうか?」


「別にかまいませんが……」


 当惑する俺の顔を見て松本先生が声を細める。


「あまりやりたくない? でも中学の勉強を繰り返してるより、楽しいんじゃない?」


 確かに、同じことを繰り返すより、新しいことをやってたほうが面白いかもしれない。


「別にやりたくないわけじゃありませんが……俺、もう探索者になってるんで。高卒の資格とか、大学に行く必要とか、ないんですよね」


「探索者になってるって、まだ中学生なのに?」


「はい。あれ、年齢に関係なくなれるんですよ。十五歳までは第二階層に入れませんが、第一階層でもそこそこ稼げるんで」


「ふーん……そうなんだ」


 一瞬、松本先生は考え込むように視線を落とした。


「でもね、認定試験合格用の勉強だけはやっておきましょう。その方が絶対いいから。いつでも認定試験を合格できるようにしておけば、あとで別の仕事に就こうとしたときに役に立つから。状況は、どう変わるか分からないし、中学の勉強だけでは時間も余っちゃうしね」


 ……確かにな。


「分かりました。やっておきます」 


 そう答えると、松本先生は満足そうに小さく頷いた。








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