第225話 綾華と門松さんが待っていた
クラブハウスで着替えて駐車場に向かうと、玄関のところで綾華と門松さんが待っていた。
「赤嶺君、どうだった?
最後、監督さんと話してたでしょ。
見てたけど、あれってスカウトされてたんじゃないの?」
「うん。......まあね」
「やったー! すごいよ、天心君!」
綾華が自分のことのように喜んで、飛び上がる。
「今度の土日も、ここに練習に来いだって」
「うわー! 本当にプロのサッカー選手になっちゃったんだね」
「うん。まだ先だけど卒業したら、午前中はサッカーの練習って感じかな?」
シーズン中、プロの練習は午前中2時間くらいみたいだ。
午後はフリー。
「そうなんだね」
「で、――午後に探索をする......みたいな?」
「無理しないでもいいんだよ? 私は、たまーに探索できればいいんだから。
でも、中学を卒業するまでサッカーは、土日だけ?」
「学校がある時は、練習は無理だからね」
「じゃあ、特殊探索者の指名依頼で公休が取れる時が、探索のメインになる感じかな?」
綾華が人差し指で唇を触りながら小首を傾げた。
可愛い。
「そうだね。あとは、学校が終わってからの数時間。
新宿C級ダンジョンなら、6時から8時くらいまで、2時間くらい潜れるんじゃない?」
急げば5時半くらいには間に合うかも。
早引きすれば、俺はいくらでもできるけどね。
「じゃあ、その時は待ち合わせだね」
「そうだね」
車に着いて、後部座席に乗り込む。
「明日は学校かー。1週間行かなかったから、授業についていけないかなー?」
綾華が心配そうに呟いた。
俺は全部終わっちゃってるし、今までも授業は聞いていなかったので関係ないけど、綾華はそうじゃないんだもんな。
「綾華って、勉強できそうだよね?」
新体操で全国大会に行くくらいだし、お嬢様だから勉強ができないってことはないような気がする。
家庭教師とか付いていそう。
「そんなことないよ。普通だよ」
でも、勉強ができなかったら......授業についていけないかもなんて心配しないんじゃないの?
俺は、そんな心配全然しなかったわ。
しても始まんねーし。
「分からないところがあったら教えてあげるよ」
俺、高校生の範囲まで勉強してるし、知力は滅茶苦茶高いからね。
「天心君。勉強もできるの?」
「まあ、そこそこね」
学年1位。
「じゃ、じゃあ、後で分からないところを聞こうかな?」
「いくらでも、聞いてくれ」
「ありがとう」
綾華は驚いたような顔で俺を見つめた。
半信半疑っていう感じ?
まあ、高校に行かない俺が勉強できたらおかしいもんな。
そういえば、綾華ってどこの中学校に行っているのかな?
きっと名門中学に通っているに違いない。
「綾華って、どこ中?」
「豊島山女子学園中学よ」
豊島山女子学園中学校といえば、偏差値70越えの首都圏を代表する女子進学校の1つじゃん。
近いから知ってたぜ。
「東池袋の豊島山女子学園中学校?」
「そう」
「サンシャインの近くの?」
「そうよ。天心君の家からだって割と近いでしょう?」
池袋駅を挟んで反対側だけど、俺の家からだってそこそこ近い。
車なら5分か10分だ。
近いけどすごくレベルの高い中学なんだよね――公立に通っている俺が、勉強を教えてやるなんて、頓珍漢なことを言っちまったかもしれないぜ。
「う、うん」
......やっぱりお嬢様は違うんだな。
驚いたわ。
「綾華。もしかして、すごく勉強できる?」
「できないよ。いつもだいたい20番くらいだもん」
それって十分できる方なのでは?
分からないところがあったら教えてあげる――なんて言っちゃったけど、俺、教えられるかな?
分からなかったら、素直に謝るしかねーか。
言っちゃったものは仕方がない。
「綾華。そういえば俺も1週間学校休んだんだよね。だから分からないかもしれないよ」
「一緒に休んだんだもん、そうだよね。分からないところは、一緒に勉強しようよ?」
綾華が嬉しそうに笑った。
「そうだね」
俺も頷く。
車が左に曲がり、ファミリーレストランの駐車場に入って行った。
着いたみたいだ。
車が止まったので外に出る。
門松さんが先導してファミレスの扉を開けてくれた。
そして予約の確認をすると、車に戻って行く。
ファミレスで食事をするのは、俺と綾華の二人みたい。
門松さんは、別のところで食べるのだろう。
俺と綾華はウェイトレスに案内されて、窓際の席に座った。
窓から見える道路には、絶えず車が走っている。
「天心君。明日は新宿C級ダンジョンに行くの? 行くなら一緒に行こうよ」
俺たちの武器や防具は新宿探索者ビルに預けてある。
池袋西探索者ビルにはもうないんだよね。
池袋西探索者ビルなら走ってもいけるけど、新宿まで出るのは電車に乗らなくてはいけないな。
その分始める時間が遅くなる。
綾華と一緒に潜るなら、どこかで待ち合わせをしなくてはならない。
学校を早引きして行くのなら、待ち合わせの時間までは一人で探索して、待ち合わせの時間にエントランスホールに戻ればいいか。
「月曜日、探索に行きたいの?」
「レイドじゃなくて、『白銀の双翼』だけで探索してみたいの。
まだ、『白銀の双翼』だけで探索したことないんだもの」
「分かった。月曜日、二人で探索してみようか?」
「やったー! じゃあ、学校が終わったら新宿探索者ビルのエントランスホールで待ち合わせましょう」
レイドの時に皆と合流したところね。
「この前の辺りにいるようにするよ」
「分かったわ。私も先に着いたらその辺にいるね」
「了解」
「何食べるー?」
「なににしようかな?」
テーブルの上のメニューを見ると、いろいろな料理が並んでいた。
綺麗な写真が食欲を誘う。
「ドリンクバーは付けるでしょう?」
ドリンクバーって何だ?
「う、うん」
こういうところに入ったのが初めてだったので、ドリンクバーが分からなかったわ――たぶん付けるものなんだよね。
「私、パスタがいいなー」
俺はご飯もの――いや、パスタにしよう。
こういう時は、同じものを頼めば無難なのさ。
「たらこのスパゲティーと、シーザーサラダのセットにしよう」
「じゃあ、俺もそれで」
「あとー」
まだ頼むのかい?
「ストロベリーパフェも頼んでいい?」
「いいよ。じゃあ――」
俺もと言いかけて、ぎりぎり止める。
男がパフェは、ちょっとあれだよね。
「天心君もパフェ食べたい? 私、食べきれないから半分あげるね。いっしょに食べよ?」
い、い、いっしょに食べる!
それって......か、か、間接キスみてーじゃねーか。
いいのかよ!
「今日は、天心君がプロになったお祝いだから、ケーキを食べなくっちゃだね!」
いや、そんなに食えんだろう。
パフェが食べきれないって言ってたじゃん。
「そんなにいっぱい食べきれなくない?」
「大丈夫だよ。根性で食べるから」
綾華がニッコリと笑う。
根性で食べるんかーい!
可愛いからケーキも注文することにした。




