第221話 俺のとーちゃんだしな
とーちゃんは、またドヤ顔を女将さんに向けた。
「でも息子さん、すごいんですね。頭もいいし、運動もできるなんて」
女将さんが俺を褒める。
褒められてるのは俺だぜ――とーちゃん。
ドヤ顔しても、とーちゃんが褒められてるわけじゃないぞ。
「まあ、俺の息子だからな!」
とーちゃん由来のものは何も褒められてない――いや、スチールはとーちゃん由来か?
「プロになれるといいですね」
「俺の息子だから、なれるだろう。なあ、天心」
「なれるように、祈っててくれ」
そうとしか言えんわな。
俺はまた1つ唐揚げを口に入れた。
「私も祈りますね。はい。これ、サービスです」
女将さんが出汁巻き卵を出してくれた。
この人、なかなかいい人じゃん。
出汁巻き卵か。
この前食べたな。
美味かったやつだ。
「ありがとうございます。ゴチになります」
箸で割って、口に運ぶ。
卵と出汁が絶妙にマッチして、滅茶苦茶美味い。
やっぱり日本人はこれだよね。
「どうだ。美味いだろう?」
「うん。とっても美味いよ」
とーちゃんが、俺にドヤ顔を向ける。
とーちゃんは褒められてないんだけどね。
女将さんが、料理上手なのは同意するよ。
とーちゃんは、俺と一緒に家に帰ろうなんて、これっぽっちも考えていなさそうだ。
この後、ぼったくられに行くのかな?
金――まだ残ってるのか?
なければくれと言うだろうから、俺から言い出すことじゃないか。
俺は食べ終わったので金を払う。
とーちゃんが、格好をつけて代わりに払おうとしないところを見ると、あんまり残っていなさそう。
店を出て、駅前通りの方に歩いていく。
とーちゃんが、金をせびりに追いかけてくるかもしれない。
ゆっくり歩いた。
駅前通りに出ると駅の方にあのパチンコ屋が見える。
道造さん――もういないんだ。
とーちゃんも、結局追いかけて来なかった。
俺は、家の方に歩いていく。
空を見上げると星の見えない暗い夜空に三日月だけが出ていた。
月はいつだって1つさ。
家に着く。
音が欲しくてテレビをつけた。
とーちゃんが女将さんと上手くいっちゃったら、この部屋には帰って来ないかもしれない。
そんな嫌な考えが、さっきからグルグル頭をめぐっている。
――とーちゃんは金がなくなったら貰いに来るさ。
布団に横になり、天井を見上げる。
見慣れた天井。
木目の模様が目のようだ。
とーちゃんと女将さんは上手くいって欲しい。
かーちゃんには悪いけど、きっとかーちゃんだってあの男と上手くやってるに違いない。
そうだ!
かーちゃんを探してみよう!
見識眼で探してみれば、もしかしたら見つかるかもしれないぞ!
俺は、ガバリ上半身を起こす。
額に指を当て、集中、集中。
かーちゃん、かーちゃん。
いない、いない。
次! 次!
捜索範囲はどんどん広がる。
いない。いない。
半径5キロの範囲を調べたが、かーちゃんはいない。
さらに捜索範囲を広げていく。
......6キロ、7キロ。
............限界だ。
でも、かーちゃんは発見できなかった。
フー!
肩が落ちる。
そう簡単に見つかるはずがない。
さすがに疲れたわ。
俺はバタリと横になった。
額に腕をのせる。
目が熱いような気がした。
疲れ目かな?
見識眼でも、目が疲れるのね。
しばらく目を休めるために、何も考えずじっとしていた。
それでも時々考えてしまう。
とーちゃん。
かーちゃん。
道造さん。
綾華。
?
......綾華?
どうして綾華の顔が浮かんだの?
......最近一緒にいるからだな。
考えない、考えない。
俺は目を休ませるために考えるのをやめた。
@ @ @
いつの間にか眠っていたようだ。
窓から朝日が差し込んでいる。
大きく伸びをして立ち上がった。
今日は土曜日、学校は休みだ。
何も予定は入っていない。
とーちゃん、やっぱり帰っていないな。
いつもの所に寝てるかどうか?
見識眼でとーちゃんを探す。
いつもの電柱――寝てない!
昨夜は、ぼったくられに行かなかったのか?
まさか!
『お食事処・酔いどれ』を見る。
まあ、店は閉まってるわな。
とーちゃん、とーちゃん、とーちゃん。
いたいた。
⁉
ここって............
女将さん............横で寝てるな。
そういう関係?
――まあ、良かったのか?
とーちゃんは、女将さんの部屋に転がり込んでいた。
深くは考えないことにしよう。
俺は、フーと大きなため息をついた。
......とーちゃんだからな。
洗面台で顔を洗い歯を磨く。
朝飯を買いにコンビニに行く。
お茶を1本手にして、お握りの棚をチェック。
おかかとシーチキンマヨを掴んで、レジで金を払った。
家に帰って食べようかとも思ったが、歩いているといつも寝ていた公園が目に入る。
思わず寄り道して土管の中に入り込んだ。
土管に背を持たれ、フーと息を吐く。お握りの包装を剥がし、口に運ぶ。
海苔の香りが口に広がる。
............もっとしょっぱくなかったっけ。
とーちゃんはとーちゃんだし、道造さんはもういない。
今日は、暇だから山手線にでも乗って、グルグル回っていようかな。
お茶を一口。
別に急ぐ必要はない。
お握りを食べ終わると、俺はしばらく土管の中に座ってボーッとしていた。
土管を出ると、太陽は真上に昇っていた。
とぼとぼと駅に向かう。
石神駅から電車に乗り、池袋駅で山手線に乗り換えた。
長椅子に座り、目をつぶる。
電車の振動が子守歌のように眠気を誘った。
ちょっとひと眠り。
気が付くと、ここはどうやら上野らしい。
駅のアナウンスが教えてくれた。
上野かー。
家からだとここまでは見えなかったよな。
上野は見識眼で見える範囲より遠かったのだ。
見識眼でかーちゃんがいないか調べてみる。
かーちゃん、かーちゃん、かーちゃん、かーちゃん。
電車が動き始めた。
......いないねー。
御徒町、秋葉原、神田............かーちゃんはいない。
別に期待はしてなかったけどね。
次は東京かー。
目も疲れたので探すのをやめる。
回復したら、また始めればいいだろう。
東京、有楽町、新橋、浜松町。
4つの駅周辺は探すのをやめて回復にあてた。
回復してきたので、またかーちゃんを探す。
田町、高輪ゲートウェイ、品川。
............いないわなあ。
その後も休みながらかーちゃんを探し、3周ですべての駅周辺を探し終わった。
かーちゃん、東京にはいないのかもしれないな。
日本は広いから、そう簡単に見つかる訳はないんだよね。
それに近くにいるなら、男が通って来れるもんな。
男が遠くに行くから、付いて行ったに違いない。
俺はその後も山手線に乗って時間を潰し、午後6時過ぎに石神駅に戻ってきた。




