第220話 金曜日
その後、金曜までレベル5を倒して回り、無事地上に戻ってきた。
戦闘動画は消去して、地図データを買い取ってもらう。
もちろん魔石やドロップアイテムもだ。
「赤嶺君、綾華ちゃん。一緒に探索できて楽しかったわ」
「また一緒に探索しようねー!」
「............また......ね」
「またヨロ―!」
「赤嶺殿。またご一緒したいでござる」
「これでお別れは淋しいのねん。また一緒に探索するのねん」
「『白銀の双翼』とは、これからもご一緒したいものだな。あの雷撃、うちのパーティに欲しいと思ったぜ」
「「............またな」」
「皆さん。またよろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたします」
着替えを終えてクロークの前でみんなとの別れを済ませた。
『ドラゴンの牙』の3人って、強面だけど意外にいい人だったなあ。
エントランスホールで門松さんが待っていた。
立体駐車場に行き、車に乗り込む。
門松さんの運転する高級車は安全運転で俺を自宅まで送ってくれた。
家に着いた時には、もう夕方になっていた。
「それじゃあね。綾華」
「日曜9時に迎えにいくわ!」
明後日の日曜日、10時にSC東京小平運動場でプロサッカーチーム『SC東京』の練習に加わる予定だ。
「ありがとう」
「サッカーの後、一緒に食事を食べて、その後買い出しだからね!」
「うん。分かってる」
「楽しみにしてるわ!」
「俺も!」
なんだかいい感じじゃね。
でも、とーちゃんのことを打ち明けなくちゃ始まらないんだよね。
俺は手を振って綾華の車を見送った。
明後日、また迎えに来てくれるんだよね。
とーちゃんのことを打ち明けられない俺は、意気地なしかな。
綾華の車が見えなくなって、俺は家の中に入った。
家の中にはとーちゃんはいない。
気配察知で分かっていたけどね。
たぶん、見識眼で探せば見つけられるところにいると思う。
あの、『お食事処・酔いどれ』とかね。
探索の後だけに、風呂で体を洗いたい。
俺は風呂を汲みながら、体を洗った。
お湯がたまると、湯船につかる。
あー。体からお湯が染み込んでくるぜ。
しばらく湯船につかって体を休める。
5日間も風呂に入れないのはやっぱりつらいよね。
こうしていると幸せだわ。
じゅうぶん休んで風呂から上がる。
長く入り過ぎるとのぼせてしまうからね。
体を拭いて、裸のままバスタオルの上に横になる。
体から、湯気が上がる。
少しずつ、体の熱が逃げていく。
......気持ちいいぜ。
さーて、とーちゃんを探してみるか。
見識眼で探してみると、やっぱりだわ。
とーちゃんは開店前の『お食事処・酔いどれ』にいた。
カウンターの中に入って、開店準備を手伝ってるみたい。
だいぶ仲良くなったのかな?
『お食事処・酔いどれ』の女将さんととーちゃんが、てきぱきと仕事をこなし、時折言葉を交わしている。
じゅうぶん親しくなってると見た。
毎日通い詰めたに違いないわ。
女将さんも笑顔だし。
この様子なら、『お食事処・酔いどれ』に晩飯を食いに行っても問題ない......よね。
とーちゃんにも会いたいし、何気に『お食事処・酔いどれ』の料理って美味かったんだよね。
開店時間くらいまで部屋でゆっくりしてから、Tシャツとジーンズを着て家を出る。
外はすっかり暗くなっていた。
駅に向かって歩き、細く暗い裏路地に入る。
両側に並ぶ看板が辺りを照らしてわずかに明るい。
薄く光る『お食事処・酔いどれ』の看板。
此処だ――この中にとーちゃんはいるはず。
古風な引き戸をがらりと開けて、一歩中に踏み込んだ。
薄く照らされた室内。
カウンターの中に2つの人影。
女将さんととーちゃんだ。
偶然この店に来た風を装った方がいいのかな?
見識眼でとーちゃんがいるのを知っていたけど、それは普通はあり得ない設定だ。
「あれ! とーちゃん?」
とりあえず、驚いた顔を作る。
「お、おう。天心か?」
天心かじゃねーよ。
悪戯が見つかっちゃった子供みたいな顔をして。
「偶然だねえ」
いるのを知ってて来たんだけど。
「そ、そうだな」
「なんでここにいるの? しかもカウンターの中」
「ちょっと手伝いをな......」
「ふーん。人助けはいいことだね」
あまり追求しないようにしないとな。
「晩飯を食いに来たのか?」
「そう。前にとーちゃんときた時、美味かったから」
本当に美味かった。
「そうか。そうか」
嬉しそうなとーちゃん。
とーちゃんが作った料理を褒めたわけじゃないよ。
「鶏唐揚げ定食を、お願いします」
俺は女将さんに向き直り、カウンター席に座って注文した。
女将さんは静かに頷いた。
「天心。おまえ......この5日間、家に戻ってこなかったのは探索か?」
「そうそう。
探索者協会からの指名依頼で、新宿C級ダンジョンに潜ってたんだ。
4泊5日」
「4泊って、......その間、学校は休んだのか?」
「うん。学校には行けないね。
でも、公休になってるから出席扱いなんだ。
学校に行かなくても出席になるんだから、ラッキーだと思わない?」
「そうかもしれねーが、勉強に付いて行けなくなるんじゃないか?
おまえ、勉強できるんだろう?」
「大丈夫。もう中学のカリキュラムは全部終わらせてあるからね」
「そうかい。ならいいや」
とーちゃんが、俺の勉強のことを気にするなんて、そんなことあるんだな。
「俺の息子、これで学年1位なんだってよ。俺に似たのかね」
とーちゃんが、女将さんに自慢する。
なんだい、それが言いたくての振りだったのか。
「まあ、賢いんですね」
女将さんが、静かに応じた。
とーちゃんが誇らしげに胸を張って、ドヤ顔になる。
とーちゃんは、これっぽっちも凄くないんだけどね。
「どうぞ......」
女将さんが、カウンター越しに鶏唐揚げ定食を出す。
揚げたてで、唐揚げからまだ湯気が出ている。
1つ箸で摘まんで口に入れた。
「あつつ......ハフハフ」
一噛みで口の中を鶏肉と衣の味が占領する。
美味い。
続いてご飯をかき込む俺。
米の甘味で唐揚げの味が中和された。
「それで、天心。サッカーの方はどうなんだ?」
「明後日の日曜、10時にSC東京小平運動場でプロサッカーチーム『SC東京』の練習に参加することになった」
本当なら、この前の日曜日にとーちゃんに告げておきたかった内容だ。
朝、拾ってきたけど、寝ていたから伝えられなかったんだよね。
「ほー! なんかすげーことになってきたな。
それって、プロのサッカー選手に混じって練習するってことか?」
「そうなんじゃないの?」
行ってみなけりゃ分からないけど、たぶんそういうことだと思う。
「そういうやつは、いっぱいいるのか?」
「さあね。でも今回SC東京ユースから参加することになったのは俺だけ」
「やったな! 天心。そりゃもうプロになったも同然じゃないか」
「いや、プロ試験を受けにいくようなものだろう。
実力を認められて、採用されればプロだけど............採用されない場合だってあるだろ。
あんまり喜ばないでよ、とーちゃん」
「分かった分かった」
とーちゃんは、またドヤ顔を女将さんに向けた。




