第217話 新戦法
気配察知にレッドオーガ・レベル4の気配を確認していたが、進むにつれてその先にレッドオーガ・レベル5がいることが分かる。
レベル4を倒した後に、レベル5と戦うという流れだろう。
もうレベル4のテリトリーとレベル5のテリトリーの境界付近までやって来たってことだよね。
さっきの戦いで、味方の弾丸に当たるのを心配した。
撃つ方も、かなり気を使ったことだろう。
当てないで撃てること自体が名人芸なんじゃないの?
マシンガンって、数撃ちゃ当たるっていう感じだもんね。
マシンガンの射程距離は1000メートルから2000メートル、飛距離だけなら3000メートルも飛ぶ。
レッドオーガとの射線上の間や後ろに、俺たち前衛がいないタイミングでないと撃てなかったはずだ。
俺も射線を意識して動いてはいたけれど、かなり邪魔だったに違いない。
今度の相手は1匹だから、3方向から囲んだら、マシンガンで撃てる射線はほぼ通らないだろう。
接近距離で戦う『白銀の双翼』・『ブラックキャット』と1000メートル以上離れて戦う『ドラゴンの牙』・『お宝見つけ隊』とでは、そもそも初めにやったように、入れ替わって戦う組み合わせであって、同時に戦う組み合わせではないんだよね。
ただ、レッドオーガが金棒を振り回して、マシンガンによる攻撃を無効化してしまうから、遠距離攻撃が無意味になっているわけだ。
『ドラゴンの牙』と『お宝見つけ隊』がレッドオーガ・レベル4に攻撃を開始した。
やっぱり、レッドオーガ・レベル4は金棒を回転させて盾を作っちゃってるなあ。
弾丸が、みんな弾き飛ばされてるよー。
弾丸を弾き飛ばしながらレッドオーガ・レベル4が走って近付いてくる。
マシンガンが意味なくなってるじゃん。
遠くからでも金棒の回転を止められればいいんだけれど――あ!
俺はサンダーストームの雷撃でレッドオーガ・レベル4を狙った。
上空に暗雲が立ち込め稲妻が走る。
ピシッ!
稲妻がレッドオーガ・レベル4に直撃し、防御外皮が弾け飛ぶ。
レッドオーガ・レベル4が痺れて動きを止めた。
金棒の回転が止まり、マシンガンの弾丸が直撃しだす。
ズガガガガガガ!
レッドオーガ・レベル4の体から煙が上がった。
やがて崩れて、魔石に変わる。
やったぜ――このパターン、有効じゃね!
「レッドオーガを倒せたねー。稲妻ビリビリ―!」
「赤嶺殿! その魔法、有効でござるな!」
「これで、無駄弾にならなくなるのねん」
「おー! やったぜ。こっからは、このパターンだな」
「「…………」」
「天心君! すごーい!」
綾華が俺に抱き着いた。
『ブラックキャット』の3人が生暖かい目でこっちを見ている。
綾華――嬉しいけど……恥ずかしいから早めに離れてね。
魔石のあたりまで歩いて行くと、ちゃんと魔石を見つけることができた。
そしてレッドオーガ・レベル5がこっちに移動を始めている。
高橋圭吾と視線がぶつかる。
気配察知でレッドオーガ・レベル5の動きに気付いたんだね。
俺は無言で頷いた。
「あっちから、レッドオーガ・レベル5が近付いてくるでござる!」
「赤嶺ちゃん。雷ヨロ―!」
「稲妻が発砲開始の合図なのねん!」
「了解です!」
「「!!」」
遠くにレッドオーガ・レベル5を直視できた。
「サンダーストーム!」
俺はサンダーストームを脳内で唱える。
雷雲が立ち込め、稲妻が走った。
ピシッ!
稲妻を合図に『ドラゴンの牙』と『お宝見つけ隊』がレッドオーガ・レベル5に向かってマシンガンを撃ち始める。
ズガガガガガガ!
レッドオーガ・レベル5は動くことができず、弾丸を受け続けた。
やがて、レッドオーガ・レベル5は黒い煙を上げて魔石に変わった。
今度は、だいぶ離れたところで倒すことができたぞ。
『ドラゴンの牙』が真っ先に拳を突き上げる。
「やったぜ!」
余裕で倒せたことが、だいぶ嬉しかったみたいだね。
それと無駄弾が少なかったこと。
「どんどんイコー!」
「了解です!」
『お宝見つけ隊』の石川祐希に『ドラゴンの牙』の3人が敬礼した。
軍隊みたい。
「こっちでござるぞ!」
「「は!」」
サンダーストームを使うことを思いついたのは、ホームランだったな。
ここからの戦いが楽になりそうだぜ。
近接戦闘がなくなりそうだもん。
「出番がなくなっちゃったわね」
「いいことじゃない。......今のうちに休んでおきなさい」
「MP量には限りがある……出番はまた来る」
『ブラックキャット』の3人が苦笑いをした。
綾華は傍らで、俺の顔を下から見上げて微笑んだ。
「天心君。そんな魔法も使えたんだね……」
「サンダーストームサイクロプスがやってるのを見て覚えたんだ。使うのは初めてだけど、上手くできて良かったよ」
本当はサンダーストームサイクロプスからスチールで盗んだんだけど、ちょっとだけ隠す。
「本当は、サンダーストームサイクロプスからスチールしたんでしょう?」
綾華が耳元でみんなに聞こえないように言った。
綾華には、ステータスだけでなくスキルも奪えるという、俺のスチールの特殊性が、ばれてしまったのかもしれない。
白を切っても仕方がないか。
これからも、パーティとして一緒にやっていくんだし。
「綾華には、隠せなかったか――実はそうなんだ」
「やっぱりね。天心君、どんどん強くなっちゃうね」
少し沈んだ声で綾華が小さくつぶやいた。
いいことだと思うんだけど、どうしたんだろう。
俺が強くなるのが嫌なのかな?
差が開いちゃうみたいな感じが嫌なのか?
それとも――盗みをしているのが嫌なのか?
盗みをしている!
でも……。
............。
「俺が、魔物の能力を盗んでいる、盗人だから嫌なのか?」
「え! そんな......天心君を盗人だなんて思ったことはないよ。スチールは盗みなんかじゃない。魔物との戦いで、敵の攻撃能力を奪うことは、防御として有効な手段だもの」
綾華の表情が、驚きで固まった。
「天心君との差がどんどん開いていっちゃって、なんだか自分が惨めな気がしたの。
変なこと言っちゃってごめんなさい」
「そんなことないよ。
謝るのは俺の方さ。
ごめん――変なこと聞いちゃって。
それに、俺はずっと綾華のパーティメンバーだから。
綾華を守るって決めてるし――力にどんな差ができたって、それで綾華を見捨てるようなことは絶対ないよ」
「ありがとう。
でも、そう言うんじゃないの。
私が、天心君にふさわしくないんじゃないかと思えてきちゃって......」
「大丈夫だよ。
そんなこと言ったら、俺なんか綾華みたいなお嬢様と、話ができるような身分じゃないんだ。ふさわしくないのは俺の方だ」
俺は、綾華の目をじっと見つめた。




