第208話 4パーティ
新宿探索者ビルのエントランスホールに行くとSランクパーティ『ブラックキャット』の3人と思われる女性3人組を見つけた。
新宿C級ダンジョンに入る探索者は、ルール上Dランク以上の実力を持たねばならない。
しかも、Dランク探索者が入れるのは第1階層に限定される。
弱い魔物が現れないため、池袋西F級ダンジョンのようにビギナーが入れるようなダンジョンではないのだ。
このダンジョンから探索者を始める人間は皆無であり、ここをホームとしている探索者は池袋西F級ダンジョンのようなF級ダンジョンから移ってきた者か、一見さんだけである。
つまり、Fランク、EランクとDランク下位の探索者がいないため、当然探索者の数はF級ダンジョンよりかなり少ない。
そんな中、女性だけのパーティは珍しいはず。
見つけた女性だけの3人組が探索者なら、Sランクパーティ『ブラックキャット』だと判断して間違いないだろう。
普通に考えて、新宿探索者ビルのエントランスホールにいるのは探索者のはずだから、俺は声をかけてみることにした。
「あのー、間違っていたらすみません。もしかしたらSランクパーティ『ブラックキャット』の方たちではないですか?」
中央の落ち着いた感じの女性が笑顔で答える。
「そうです。私たちは『ブラックキャット』です。あなたたちは、もしかしたら
『白銀の双翼』さんですか?」
「はい。そうです」
「沙織から、あなたたちのことは引き継いでいます。特殊探索者の初期研修の続きだと思って私たちを頼ってくださいね。初期研修は終わってますので、あなた達を評価して報告するようなことはありませんから、緊張しないでくださいね」
右隣の活発そうなお姉さんが笑顔で話しかけてきた。
「あなたが赤嶺天心君ね! 沙織がすごく強いって言ってたわ。それにSC東京ユースでサッカーをやっているプロの卵だって」
活発そうなお姉さんが、俺の腕や胸を触ってチェックしてきた。
俺は、思わずびくっと反応してお姉さんを見つめちゃったぜ。
たぶんこの人が島村真季さんだろうな。
「ふーん。すごいムキムキなのかと思ってたけど、普通の男の子だね」
「こら、真季。失礼だよ!」
落ち着いた感じの女性が注意をした。
たぶんこの人は、小島二千華さんだろう。
とすると――もう一人が山口満菜美さんってことか。
俺の横で、綾華が頬を引きつらせている。
初対面だし緊張してるのかな。
「はい。俺が赤嶺天心、中3です」
「初めまして。九条綾華、同じく中3です。5日間、よろしくお願いします」
綾華が、俺の前に出た。
まるで俺を守っているようだ。
サッカーでボールを奪われないように体を入れる時のことを思い出した。
うーん。――そっくりだ。
「私、島村真季。21よ! よろしくね」
明るい人だわ。
「私は、小島二千華。一応『ブラックキャット』のリーダーやってます」
小島二千華が、丁寧に会釈をした。
「…………山口――満菜美」
小島の影に隠れるように後ずさりながら、山口満菜美はぼそぼそと呟いた。
何とか聞き取れたから分かったけどね。
「二人は、新宿C級ダンジョンに入ったことはないのよね?」
二千華さんが確認してきた。
「はい。初めて新宿探索者ビルにやって来ました。探索に必要なものとか、ここで売ってるんですよね? 薬とか……」
俺が二千華さんに尋ねると、真季さんが教えてくれた。
「3階で売ってるわ!」
「第2階層のコカトリスの石化毒対策に、中和薬は多めに用意しておいた方がいいわよ。事前に飲んでおく必要があるから、コカトリスに遭遇しなくても第2階層にいる間は2時間おきに飲んでおくのが基本なの。中和薬は自前で用意してね」
二千華さんが細かく説明をし始める。
そうそう。
それを確認しておきたかったんだよね。
「多めと言われても、いくつ位必要なのか全然わからなくて……」
「そこは、第2階層の滞在時間によるから、第2階層を探索するか、第3階層を探索するかで違ってくるの。全員集まってからどちらを探索するか相談して決めるからね」
「それから中和薬を買いに行くんですね?」
「第2階層を探索するか、第3階層を探索するかを決めたら、必要なものを買いそろえて、受付に報告するの。何階層を探索するかで渡される準備資金が変わるのよ。このレイドは未開の場所の地図を作るのが目的だから、ドローンを借りて撮影しながら進んでいくの。そのドローンも専用のものが渡されるわ」
「オッス! 『ブラックキャット』さん、お久ー!」
「『ドラゴンの牙』さん。今日はよろしくお願いします」
『ドラゴンの牙』の3人が合流したらしい。
リュックサックとマシンガンを背負った筋肉質の大男3人組だ。
すげー強そうだし、強面でなんだか怖いわ。
「初めまして。Sランクパーティの『白銀の双翼』と言います。俺は赤嶺天心、こっちが九条綾香、2人とも中3です」
俺は、毅然と挨拶をした。
綾華も俺の横で会釈をする。
「『ドラゴンの牙』の西田だ。こいつが宮浦、こっちが西山、Aランクパーティだ。よろしくな」
「中3でSランク! すごいね。いつからやってるの?」
「バーカ! 15歳以下はFゾーンしか入れねーんだぜ。新人さんで、特殊探索者になったエリート様に決まっているだろう。でなかったら中3でSランクはありえねーんだよ」
西山太志が、宮浦有志をたしなめた。
「じゃあ、すげースキルを持ってるってことか。羨ましいねえ」
宮浦有志が、右腕で口を拭った。
よだれでも出たのかな?
「遅れてすんまそーん!」
なんか軽い調子の人が来たぞ?
「『お宝見つけ隊』さん。今日もよろしくお願いします」
二千華さんたちが頭を下げる。
何度も一緒に行動したことがあるみたいだ。
『ドラゴンの牙』の3人が背筋を正し腰を折った。
「お、『お宝見つけ隊』様。よ、よろしくお願い……いたします!」
う? なんだか、『ドラゴンの牙』の3人が緊張しているみたいだな。
「あー、ドラ牙ちゃん。今日もよろー」
『お宝見つけ隊』の一人が軽い感じで右手を上げる。
確かAランクパーティ『お宝見つけ隊』は、探索者歴5年のベテランだったな。
何やら、『ドラゴンの牙』の3人は、『お宝見つけ隊』に心酔しているみたいだぞ。
あの強面の『ドラゴンの牙』の3人が、この軽そうな『お宝見つけ隊』に心酔しているのが不思議だわ。
昔、命を救ってもらったとか、そんなことでもあったのだろうか?
怖かった『ドラゴンの牙』が、いくぶん怖くなくなったような気がした。
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