第205話 周りの反応
クラブハウスで着替えはじめると、石村太晴、松村琢人、上田和仁、山下颯真、児玉 航 に囲まれた。
「スカウトされたのか?」
松村が遠慮なく聞いてきた。
他のみんなも聞き耳を立てている。
「練習生になって、実力を認められればスカウトされるみたい……」
「なるほどな。頑張れよ」
「来週からはそっちに参加するんだな」
「たった3試合の付き合いだったけど、楽しかったぜ!」
「試合じゃあ頼りにしてたぜ」
石村太晴、上田和仁、山下颯真、児玉 航 が次々に声をかけてきた。
「俺も、短い間でしたが一緒に試合ができて嬉しかったです。また、どこかで会ったら、よろしくお願いします」
「プロになったら、サインくれよ」
「俺も、プロになれるように頑張るぜ」
「ああ、そうだよな」
「俺達だって、プロを目指してんだ」
「プロのピッチでまた会おうぜ」
「そうですね。また会いましょう」
俺はクラブハウスを後にして、駐車場に向かった。
クラブハウスの外で綾華と沙織さんが待っていてくれたのだ。
「天心君、今日も凄かったね!」
「終わってから、赤嶺君だけ残されていたみたいだったけど、何かあったのかい?」
沙織さん、鋭いね。
「じつは、SC東京のスカウト松本久さんという人に声をかけられたんだ」
「スカウトされたの!」
綾華が大きな声を出す。
「SC東京の練習生にならないかって誘われたんだ」
「赤嶺君。それって、プロの選手と一緒に練習するってことだよね?」
「まあ、そうみたいですね」
「すごーい! 天心君、もうプロみたいなものじゃない!」
喜びすぎだよ。
まだ、プロにはなれていないんだ。
「あと1歩かな……」
「そうよね。綾華ちゃんの言う通り、もうプロみたいなものだわね。あとは試合で使ってもらえるかどうかってことでしょう?」
なるほど。
練習生って立ち位置は、試合で使ってみたいと思わせることができれば、プロとして登録されるってことなんだ。
沙織さん、本当に鋭いな。
「じゃあ、明日の指名依頼はキャンセルかな?」
「練習は、今度の日曜日10時にSC東京小平運動場でという約束なので、明日からの指名依頼には、影響はありませんよ」
「それはよかった。指名依頼をキャンセルしなくていいんだね」
沙織さんは安心したのか、ほっと息を吐いた。
「今からでも指名依頼をキャンセルすることは可能なんですね?」
「キャンセルするの?」
綾華が心配そうに俺を見た。
「明日に関しては、しないけど。――ていうか、もし突然行けなくなった時には、キャンセルはありなんだと思っただけだよ」
俺は綾華に両手を振って誤解を解く。
俺の答えに綾華の表情が明るくなった。
「日曜日が楽しみだね! 車で送ってあげるよ」
「大丈夫だよ。電車で行けるから大丈夫」
「えー! 送ってあげるってばー」
綾華が不満そうに口を尖らせた。
「練習なのに、応援されても恥ずかしいじゃん。それに探索をする日じゃないのに送ってもらうわけにはいかないよ」
「プロの練習って、見に行く人はけっこういると思うよ。だから、気にしなくてもいいのに」
「でもいいよ。せっかくの日曜日なんだから、綾華の大切な時間を無駄にさせるのは、気が重いんだ」
「送って行かなくったって、私は天心君の練習を見に行っちゃうんだからね!」
そうなのか。
そこまで言ってくれるのに、断ったら悪いかな。
「分かったよ。じゃあ、送ってもらうことにするよ」
「やったー!」
綾華が喜んで小躍りする。
俺達のやり取りを沙織さんが生暖かい目で見ていた。
何だか恥ずかしい。
そうこうしているうちに家の前に着き、俺は車から降りる。
「綾華、いつも車で送ってくれてありがとう」
「ううん。
私が天心君と一緒にいたいから送って行ってるの。
だから、気にしないでいいんだよ」
……これって、好きって言われているようなものだよね。
俺は、自分の顔が赤くなっていると感じた。
「じゃあ、また明日」
「ここに9時頃来るからね」
「ありがとう」
そう言って俺が車のドアを閉めると、門松さんが車を出した。
俺は車を見送ってから家に入った。
家の中に、とーちゃんの気配がない。
布団が敷きっぱなしになっているが、中には誰も寝ていない。
5時過ぎだぜ。
確かに寝ていたら驚くけど……。
まだ、晩御飯を食べに行くには少し早いよな?
……とーちゃんは、いったいどこに行ったのだろう。
当然飲みに行くには、まだ早いはず。
心当たりがなさ過ぎて、捜しにいくにも当てがない。
とりあえず、風呂に入って汗を流す。
湯船に浸かってほっと一息。
今日一日を振り返る。
今日は色々あったけど、やっぱり一番の重大事件は、SC東京のスカウト松本さんに声をかけられ、『平日に時間を作って、コーチ陣や監督に俺の実力を見せてもらいたい』と言われたことだ。
これだけは、早くとーちゃんに伝えたいんだけどな。
本当にとーちゃんはどこに行っちゃったんだろう。
金曜の朝から会っていないから、かーちゃんが家出した時のことを思い出して、不安になっちゃうんだよね。
とーちゃんなんて、いつ盗みをやって警察に捕まってしまっても不思議はないからな。
金は十分渡していたとはいえ、とーちゃんが盗みをしないという保証はどこにもないんだよね。
あー、すごくイライラする。
勢いよく湯船を飛び出し、体を拭いて、団扇で扇ぐ。
明日からは、公休を取って指名依頼で新宿C級ダンジョンに行くことになっている。
今晩とーちゃんが帰って来なかったら、金曜日までとーちゃんと話をすることはないってことだ。
でも、俺にはそんなこと、我慢できない。
何とかして、とーちゃんを探し出したい。
俺は見識眼でとーちゃんを探してみた。
見識眼は、見ようとしたものを見ることができるスキルだ。
今現在はすべてを見通せるわけではないが、行きつくところまでレベルアップすれば、世界中のすべてを見通すことができるに違いない。
俺は、見識眼を駆使して、とーちゃんを探した。
そして俺は、簡単にとーちゃんを見つけることができた。
笑ったぜ。
こんな近くにいたなんて。
見識眼って、まじすげー。
とーちゃんは、開店前の『お食事処・酔いどれ』のカウンター席に座っていた。
もちろん、カウンターの中にはこの前の幸薄そうな女性もいる。
開店前なのに店の中に入っているとは、どういうことだ?
とーちゃんが、カウンター内の女性のことを気に入っているのは、この前気付いていたけれど、――もしかして、この3日でお近づきになったってこと?
俺は、覗きみたいで気が引けたけれど、見識眼でとーちゃんのことを見続けた。
う――ん。
とーちゃんが、一生懸命カウンター内の女性に話しかけているのが分かる。
カウンター内の女性も、とーちゃんとの会話を喜んでいるように見えなくもない。
「こりゃあ、あのままここには帰って来ないな」
俺は、大きく鼻から息を吐いた。




