第204話 後半戦と松本さん
後半戦が始まった。
『多少無理にドリブル突破を試みても、大目に見てやるから、技を出し尽くして、お前のキープ力を示してみせろ』という監督の言葉が頭に突き刺さっていた。
多少無理をしてもって……全力出しちゃったら、変な目で見られちゃうよな。
今までより少しだけ速く動いてみようかな。
俺は、敵のパスを数歩素早く走ってインターセプトした。
そして要望通りドリブル突破を試みる。
1人、また1人と細かいタッチで敵を躱していく。
右に躱し、さらに右に躱し、3人、4人、ついには右サイドまでやって来た。
ゴール方向に切り返す。
俺の進行方向に2人が構えて立ちはだかったので、俺はその間を割った。
6人抜いてゴールが見える。
左前からDFが走り寄り、後ろから抜いたはずの別のDFが俺のユニホームを掴んでくる。
ユニホームが伸びるが俺はかまわず前に進んだ。
この程度で俺は倒れないよ。
ユニホームを掴んだ手を、俺は手で払いのける。
前方からのDFが足を延ばす。
その足を交わすように、ボールを足裏でロールしてダブルタッチで抜けていくと、目の前に敵のゴールキーパーが立ちはだかる。
敵ゴールキーパーは俺のシュートに集中している。
真剣な表情。
ファーサイドに松村が詰めているのが視界に入る。
俺が蹴ってもシュートは決まるだろうが、松村にアシストしたほうが敵キーパーが対応できずに、確実にシュートが決まるはずだ。
俺は瞬時に松村へのアシストを選択した。
これは確率の問題だ。
より高確率で、ゴールを奪える方を選択する――それが大事な判断だ。
ボールはキーパーの横を抜け、松村がダイレクトでそのボールをゴールに蹴り込んだ。
強烈なシュートがネットに大きく食い込んだ。
松村が俺に飛びついてくる。
俺は松村の体を受け止めた。
嬉しいのは分かるけど、重いから飛びついてくるのは遠慮したい。
口にも、表情にも出さないけどね。
さらに上田と石村も飛びついてくる。
俺は3人の男に飛びつかれ、一人で支える形になった。
マジかよ――本当に重いんですけど。
後半10分で4対0。
最低でもあと1点は取らなくてはリベンジしたとは言えないよね。
帝都高校ボールで試合再開。
パスでつなぎ、こっちの守備陣形を崩そうとする帝都高校の攻撃を、俺はまたしてもインターセプトした。
ボールに詰めて、パスコースに足を延ばして弾いただけだ。
セカンドボールに詰めるのは、圧倒的に俺が早かった。
俺はボールを上田にパスし、そのまま敵陣になだれ込む。
ボールは石村、上田、松村と渡り、俺のところに戻ってきた。
『キープ力を示してみせろ』って言われたからね。
俺はまたしてもドリブル突破を試みる。
細かいタッチで敵の足が触れる前に、ボールにタッチしコースを変えて、次々に敵のディフェンスを躱していく。
1人、2人、3人、4人。
4人を引き連れ囲みを突破。
結局6人の激しい攻撃を切り抜け松村にパスを出す。
松村は逆サイドでフリーになっていた石村にアシストを出し、石村は、ワントラップで強烈なシュートを蹴り込んだ。
敵キーパーがスーパーセーブを見せ、ボールを弾いた。
ボールが前方に転がるが、いち早く反応し、セカンドボールを拾ったのは俺だ。
俺は、ボールをキープしたままゴールに突進。
キーパーの股を抜いてシュートを決めた。
強く蹴る必要はないんだよね。
キーパーが反応できないようなタイミングで蹴るだけ。
タイミングを外せば簡単に抜くことはできるんだ。
またしても俺に石村、上田、松村の3人が飛びついてきて、俺は3人を支えることになる。
やめてくれよ!
本当に重いんですけど。
3人だよ、3人。
逃げ遅れた俺も悪いのかもしれないが、3方向から囲まれたら逃げられねーわ。
後半20分、5対0。
とりあえずリベンジできたが、俺たちは攻撃の手を緩めないぜ。
まだ残り25分もあるからね。
試合が再開されると、俺はハイスピードでボールホルダーに詰め寄るとショルダーチャージで体を入れてボールを奪う。
一気にドリブルで中央を突破する。
エラシコ、マシューズ、ダブルタッチ。
個人技出しまくりで5人を躱し、さらに左に流れて切り返す。
2人のDFが切り返しでマークが遅れ、シュートコースが見えた瞬間右足を振り切る。
強烈なミドルシュートが、ゴール右隅に突き刺さった。
後半25分、6対0。
そこからも、一方的な展開が続く。
攻めて攻めて攻めまくるぜ。
攻めっぱなしのスタンハンセン(アメリカ合衆国の元プロレスラー。日本で最も成功したといわれる外国人レスラーの1人。第32代AWA世界ヘビー級王者。第2代PWF会長)だ。
俺は、その後1点1アシストを決め、試合は8対0の大差で終わった。
グラウンド中央に並んで礼を交わし、監督の前に並んだ。
「みんな、よくやった。
見事なリベンジだったぞ。
来週もここで3時から試合がある。
このまま勝ち続けて、トップに上り詰めるぞ」
「「「はい!」」」
「それでは、解散。
赤嶺は、話があるから少し残ってくれ」
「はい」
俺はそのまま立っている。
チームのみんなはクラブハウスの方に歩き出した。
監督が近寄ってくる。
SC東京のスカウトが見に来ていると言っていたが、もしかして……。
「赤嶺。SC東京のスカウト松本久さんが、話があるそうだ。いい話だぞ」
平岩剛監督がにこやかに告げた。
彼の後ろにSC東京のスカウト松本さんと思われるおじさんが控えている。
そのおじさんが前に出て俺に握手を求めてきた。
「初めまして。
SC東京のスカウトの松本と言います。
赤嶺天心君、今日の活躍、過去2試合のデータを見せてもらいました。
とても素晴らしい。
毎試合4点を取って、さらにたくさんのアシスト――このクラスとは、レベルが違うと感じました」
「初めまして。
赤嶺天心です。
お褒めいただきありがとうございます」
俺は握手に応え、次の言葉を待つ。
もしかしたら、SC東京にスカウトされるのかもしれない。
「私は、君の実力を高く評価しています。
SC東京の練習生としてプロのメンバーと一緒に練習をしてみませんか?」
「それって……」
「合同練習に参加してもらい、監督やコーチ陣に、プロとしての実力が認められれば、あなたはプロとして登録されるということです」
まだ、プロではないけれど、プロテストを受けるようなものかな?
「SC東京の練習生に誘われているんですね? そこで認められたらプロになれる……と?」
「そういうことです……が、おそらくなれるでしょう」
SC東京ユースからSC東京の練習生って、1歩前進ってことかな?
「明日から参加して欲しいと言いたいところですが、シーズン中は体調管理が中心です。
試合が毎週水曜と土曜か日曜の週2試合行われますので、激しい練習は行われません。
SC東京の練習時間は、平日の10時から12時。
午後はお休みです。
自主的な居残り練習は問題ないですよ。
始めの90分は、フィジカルトレーニング。残り30分は追い込み型のトレーニングです。
そういうわけで、プロのメンバーと一緒に練習をするといっても、軽いトレーニングにとどまります。
初めは、学校の時間と重なりますので、平日の時間を作ってもらえる時に、あなたの実力をコーチ陣や監督に見てもらうことになるでしょう」
明日からは、指名依頼を受けているからダメだよな。
土日しか空いてない。
「来週の土曜か、日曜なら参加できると思いますけど」
「そうですよね。学校がありますものね」
……学校は公休にして指名依頼を受けるんだがな。
余計なことは言わないでもいいよね。
俺は頭を掻いて引きつった笑いで応えた。
「そういうことなら来週は、土曜に試合がありますから、日曜日10時にSC東京小平運動場に来てください」
「分かりました」
「ロッカーに、ユニホームは用意しておきますので、サッカーシューズなどは持ってきてください」
「分かりました。日曜日10時にSC東京小平運動場ですね」
松本さんとの話はそれで終わった。
「じゃ、赤嶺君は来週から小平運動場に行くようにね」
平岩剛監督がそう言いながら、俺の肩に手をのせた。




