第198話 買い出し
その晩も、とーちゃんは帰って来なかった。
やっぱり、ぼったくられには行ったらしい。
『酔いどれ』に嵌っても、ぼったくられにはいくのかよ!
ぼったくられに行かなくなる――という予想は間違いだったみたい。
朝になり、とーちゃんを回収に行く。
やっぱりいつも通りのところで寝てるのかよ。
今日は綾華と買い出しに行く予定だ。
とーちゃんを家に連れ帰り、布団に寝かせて100万円を枕元に置く。
学校に行くのは嫌だが、昨日欠席したので出席日数が足りなくならないようにしなければならないんだよね。
我慢して学校で1日を過ごし、待ち合わせの池袋西探索者ビルに行った。
当然俺の方が早く着くことになるので、エントランスホールの長椅子に掛けて待っていると、30分ほどして綾華と門松さんが入って来た。
綾華は俺を見つけると、高く手を上げて大きく振った。
俺も小さく手を上げて応える。
走り寄る綾華に俺は立ち上がってゆっくり近寄った。
「待った?」
「今来たところ」
30分前に。
「じゃあ、車に乗って」
「ああ」
俺たちは、外に出て駐車場に向かった。
黒塗りの高級車に乗り込み、大型スーパーマーケットのサ〇ミットで降りる。1000円買えば駐車料は無料だそうで、その辺は心配なさそうだ。
入口でカートを取り、買い物かごをセットする。
たくさん買うことになりそうなので上下に2つだ。
ガラス製の自動扉を抜けると、ひんやりした冷気が体を包んだ。
外の暑さが嘘のようだ。
しばらくここにいたいと思う。
「広いなー」
天井は高く、目の前は最奥まで通路が続き、その両側にたくさん商品が並んでいる。
壁際は冷蔵の棚になっていて、冷たい空気が生野菜の鮮度を保っているようだ。
「この辺りは、果物や野菜のコーナーみたいだね」
冷やす必要のない野菜や果物は、逆側のただの棚に置かれていた。
「生野菜や果物って、ダンジョンのなかでは食べてないね?」
「食べられるなら、食べたいわね」
「俺が収納しておけば鮮度は落ちないと思う」
「じゃあ、買っていきましょうか」
「いいのがあるかな?」
目の前には各種の果物が並んでいた。
バナナ、リンゴ、なし、かき、ブドウ、桃。
「とりあえずバナナかな?」
「バナナは、皮が手でむけるからいいかもね」
リンゴ、なし、かきは包丁で皮をむく必要がある。
その点バナナは渡せばいいから簡単だ。
「1房3本になっているのが多いみたいだね。3房買っておく?」
「朝食代わりにもいいみたいよ。そのくらいあっても問題ないかも」
俺はバナナを3房、買い物かごに入れた。
リンゴ、なし、かきなどを買おうと言わないところを見ると、綾華は皮をむくのは得意じゃないのかな?
「あそこに生野菜のサラダが売ってるわ」
綾華が指さす先によくコンビニで売られているようなプラスチック製の容器に入った野菜サラダが並んでいた。
「1人で食べるのに丁度いい量だし、ドレッシングの小袋もついてるから、これは買いだね」
俺は次々に買い物かごに入れていく。
「幾つ買って行く気なの?」
「うーん。3人で夜、昼、夜……9個かな」
「確かに、お昼と夜にはサラダが欲しいわよね」
「だろ!」
「バナナとサラダが朝食以外に付く感じかー。ちょっと食べ過ぎになりそうね」
綾華の表情が、なにかを心配するように曇っていた。
スリムなスタイルが維持できないとでも思っているのかな?
そんな心配、杞憂だと思うけど。
「バナナは食べても食べなくてもいいじゃない。収納しておけば悪くはならないからね」
「そっか。それもそうね」
サラダのパックを9個も買ったので、それだけで買い物かごが1ついっぱいになってしまったな。
上下の買い物かごを入れ替えて、コロコロとカートを押して先に進む。
「この辺にレトルト食品がたくさんあるわ。天心君好きなおかずを選んでよ」
「どれどれ」
綾華が指さす先にたくさんのレトルト食品が並んでいた。
俺はレトルト食品をチェックしながら呟いた。
「レトルトカレーに、レトルトの牛丼、親子丼、中華丼か。
ご飯にかけて食べる感じかな。
こっちは、おかず系だ。
肉じゃが、豚バラ大根、麻婆豆腐、すき焼き肉豆腐、煮込みハンバーグ、ビーフシチュー、サバの味噌煮、豚の角煮、照り焼きチキン、鮭の塩焼き……なんでもある感じだな――」
こりゃ、驚いた。
レトルト食品がこんなにたくさんあるとは知らなかったぜ。
「こんなにあったら、選べないや。綾華は何かお薦めはないの?」
俺は困って綾華を見返した。
「私もこんなにあるとは知らなかったわ。でも、筑前煮とか、切り干し大根の煮物、ひじきの五目煮、ごぼうと牛肉のしぐれ煮とか、――煮物系はシェアして食べるといい感じかな」
少量ずつ、いろんなものを食べたいのか。
確かにその方が豊かな食卓という感じがするな。
「じゃあ、1回に5品くらいシェアして食べる感じで選ぼうかな?」
「うん。それでいいわ。天心君選んでよ」
「じゃあ、肉じゃが、豚バラ大根、筑前煮、切り干し大根の煮物、ひじきの五目煮、ごぼうと牛肉のしぐれ煮、豚の角煮、マグロとこんにゃくの煮物、鶏肉と大豆の旨煮、じゃがいもの煮っころがしの10個で良いかな?」
「すごーい。食べきれるかなあ?」
「3人でシェアすれば食べ切れるよ」
「天心君がたくさん食べてくれれば、大丈夫だね」
綾華がそう言いながらクスクス笑った。
可愛いじゃないか!
でも、いかんいかん。
身分の違いをわきまえなきゃな。
「じゃあ、後はご飯だね。
ご飯もレトルトで色々あるみたいだよ」
移動しながら探してみるとレトルトのご飯ものもたくさんあった。
わかめ御飯、トマトリゾット、コーンピラフ、五目御飯、カレーピラフ。
白粥、梅粥、玉子粥、鮭粥、かつお醤油粥、鶏塩粥、参鶏湯風粥、中華風粥、
蟹雑炊、鯛雑炊、帆立雑炊、鶏雑炊。
うーん。
俺は白いご飯が一番好きかな。
「綾華は何が食べたいかな?」
「参鶏湯風粥とかも食べたいけれど、おかずがたくさんあるからやっぱり白いご飯かな」
だよねー!
俺も同じ意見だわ。
「じゃあ、白いご飯を6つ買おうね」
「うん。それでいいわよ」
「あとは朝食用と、昼用かな」
「じゃあ、昼用に参鶏湯風粥、蟹雑炊、鯛雑炊を買いましょう」
それを食べてみたかったのね。
「あとは朝飯の分を買うだけだね。やっぱりパンとか、カロリーブロックとかかな?」
「そうね。時間を掛ければ、ちゃんとしたものが食べられるけど、探索時間が無くなっちゃうから、パンとかカロリーブロックがいいかもね」
「じゃあ、それを買って明日の準備は完了だ」
「卓上コンロと鍋と水も、買うのを忘れちゃだめだからね」
「分かった。分かった」
俺たちは、レジを通って駐車場に戻った。




