第196話 3人組、装備を買う。
3階に上がり、3人の装備をあれこれ見て回る。
資金はあるが、あまりにあり過ぎてかえってどうすればいいのか分からないありさまだ。
「今までにそろえた装備も有効に使いたいし、何を買ったらいいのかね?」
「康太の言う通りだぜ。何かいい考えはないものかね?」
「…………」
「それなら、バフをかけるアイテムを身につけるってのはどうですか? それならステータスが上がって強くなるし、今までそろえた装備も使えます」
俺の意見に3人が関心を示す。
「そうだな。それなら武器や防具が無駄にならねーな」
「金を有効に使うにはそれが一番良さそうだ」
「…………」
「あの辺の一角はそういう装備が売ってますよ」
俺はこの前、綾華がバングルアームレットを買ったあたりを指さした。
「あの辺は女物のアクセサリーとかを売っているところだろう?」
「いや、男物も売っているぜ」
「天心がそう言ってるんだから、とにかく行ってみようぜ」
4人が歩いて行くと、店員さんが俺を見て挨拶をしてくる。
「おや、この前お嬢さんと一緒にいらしたお客さんじゃないですか。あの時はお買い上げありがとうございます」
「いや、俺は何も買っていないから、礼を言われてもねえ」
「いえいえ、あなたがいらっしゃらなかったら、あの腕輪は売れてませんでしたからね」
俺が1億円貸したことを言っているのかな?
でも、それは3人には知られたくない。
康太が興味を持ったようで、俺と店員のやり取りに聞き耳を立てていた。
これ以上詳しい事情をばらされたくないので、俺はとっさに話を変える。
「今日は、この3人用にバフ効果のあるアイテムを探してるんだけど、いいものはないかな?」
「3人分ですか? 予算はいかほどです?」
店員が嬉しそうに揉み手をした。
「総額で1100万くらいしかないんだけど……」
「運が良い人たちですね。ちょうどいいのがありますよ。ちょっと待っててくださいね」
店員が奥に引っ込み、しばらくして何やら持ってきた。
「この男性用のバングルなんですがね……」
店員が見せたのは無骨な金色の腕輪だった。
「全ステータスを50ずつ上げる効果があります。値段は一つ350万。この性能で、この価格はかなりお得だと思いますよ。ちょうど3つありますし、結構カッコいいでしょう?」
3人組がバングルを食い入るように調べだす。
「ちょっとつけてもかまわないか?」
梶谷猛が店員に聞くと、店員は喜んでバングルを差し出した。
梶谷猛は早速手首につけてみる。
「なかなかカッコいいじゃんかー」
「俺にもつけさせてみてくれよ」
田畑康太も店員からバングルを受け取り、つけてみる。
「俺にも」
「はいはい。どうぞ」
金城守も気に入ったようだ。
「3つ買っていただけたら50万サービスして、1100万でいいですよ」
「「「本当か?」」」
3人の声が揃った。
「サービスさせていただきますよ」
店員が揉み手をして微笑んだ。
「でもなー」
「1100万使っちまったら、天心の分け前がなくなっちまうなー」
「その通りだ。流石に天心の分け前まで使っちまう訳にはいかんだろう」
3人が顔を見合わせ、そして一斉に俺を見た。
店員も俺に視線を向ける。
一斉に4人に見られて、なんだか恥ずかしくなった。
「さっきも言ったじゃないですか。俺の分け前はいらないって」
「でもよー」
「それじゃあお前に」
「わるいよなー」
「大丈夫、大丈夫。3人が強くなってくれた方が嬉しいって言ってるでしょう。友達が強くなるための手助けをしただけなのに、金なんてもらえないよ」
「友達……」
「俺達みたいな人間でも……」
「友達にしてくれるのか……」
「俺だって……」
「好意は……」
「有難く……」
「……受け取っておくぜ」
「いい話ですねえ……よっしゃ、ここは私も男気を見せましょう。3つで1000万円にいたしましょう。大幅値引きだ! 持ってけ泥棒!」
『持ってけ泥棒!』って、俺の胸にぐさりと刺さるぜ。
「あざす!」
「よ! 男前!」
「…………」
梶谷猛が1000万円の小切手を渡した。
腕輪はクロークに送られ、代わりに預かり証が渡された。
「こいつを出してクロークで受け取るのか」
「持ち出し禁止の品なんだな」
「…………」
「腕輪と言えども、武器の扱いなんですね」
「さようでございます」
「大幅値引き、助かったぜ」
梶谷猛が、店員さんに礼を言った。
4人は二階に下りて、遅い昼飯になった。
いつものハンバーグ定食を頼む。
「だいぶ遅い昼飯になっちまったなあ」
「もう4時か」
「…………」
「しかし、あんなに値引きしてもらえてよかったな」
「天心のおかげだな」
「残った金は天心にやろうぜ」
「いえいえ。いりませんよ。その金も回復薬とか状態異常対策とかのために使った方がいいですよ。いざという時の治療費だって貯めておかないといけないし」
「そうか?」
「すまないな」
「恩に着るぜ」
「これで、オークも軽く倒せそうですね」
「おうよ!」
「そんなもんかな」
「…………」
「全ステータスが50ずつ上がったら、相当強くなりますよ。オークも軽く倒せるでしょうね。第4階層の奥の方まで行けそうじゃないですか?」
「そう言えば、俺達って第一階層すら全て踏破していないんだよな。あんな隠しルートがあるなんて知らなかったしよ」
「天心は、ずーっと第一階層だけ探索してたから、あそこのことを知ってたのか?」
「…………」
困ったことを聞いてくるな。
まさかスライムバレットのことは言えないし。
「ま、まあそんなとこですかね」
「他にも隠しルートがあったりするのかな?」
「そりゃあるだろうぜ」
「…………」
「探してみるか?」
「そうするか?」
「…………」
「スライムは、遠距離攻撃をしてくる奴がいるので気をつけてくださいね」
「おう」
「それは、数匹経験したぜ」
「…………」
「中には火の玉を撃ってくるのもいます」
ファイアバレットね。
「そんな奴もいるのかよ」
「スライムも、侮れないな!」
「…………」
「ですです」
「めんどくせ――な」
「まずは、オークと戦って、腕試しをしたくないか?」
「して――な」
「この後、第5階層に行ってみねーか」
「い――ねえ!」
「賛成だぜ!」
楽しそうに話をする3人組を見て、俺もなんだか幸せな気分になった。
食べ終わると、3人組は再びダンジョンに潜り、俺はとーちゃんに会いたいので、3人組に付き合わず家に帰った。




