第195話 隠しルート
3人組と別れて家に帰る。
いつものようにとーちゃんは飲みに出かけてしまったようだ。
朝が来てとーちゃんを回収に出かける。
いつものところで寝ているとーちゃんの寝顔は幸せそうだ。
……ぼったくられても満足なんだね。
家に背負って帰り、布団に寝かせて枕元に100万円を置き、登校せずに直接池袋西探索者ビルに向かった。
パーラーでしっかり朝食をとる。
エントランスホールで待ち合わせの予定だったが、3人組も朝食を取りに来て鉢合わせになった。
「よー! 天心、今日はよろしく頼むぜ」
お調子者の田畑康太が寄ってくる。
「おはよう。天心」
梶谷猛が同じテーブルの正面に座り、金城守が左の席に。
「おはようございます。皆さんも朝飯ですか?」
「まあな」
「そういうことさ」
「…………」
ウェイトレスが注文を取りに来ると、いつものハンバーグ定食(デミグラと和風)をたのんだ。
「注文通りピッケルを用意してきたぜ」
梶谷猛が金城守の持つピッケルを指さした。
「たまたま猛の家にあったんだとよ」
田畑康太は自分のことのように自慢顔でにししと笑った。
「俺のオヤジは、今は土木作業員だからな」
「上手い具合にメタルスライムがいればいいんですけど、いなかったらすみません。それから、奥の方に行くとスライムと言えども攻撃してくるんで油断しないでくださいね」
「分かってるって」
「気をつけるよ」
「…………」
「スライムバレットって知ってますよね。消化液を飛ばしてくるんで、当たれば溶けます」
「マジか!」
「気をつけるよ」
「…………」
「マジか!」って言うのだから、レベル3以上のスライムとは戦った事が無いのかもしれない。
大丈夫かな……。
「スライムバレット対策として木の盾かなんかがあればいいのですが……」
「お前、持ってるんだろう?」
「さんざんスライムと戦ってきたんだもんな」
「…………」
持ってねーわ。
「俺のは壊れちまったんで」
「しょーがねーな」
「俺たちは始めに買った古い盾が木の盾だったな」
「…………」
「竹竿もあったよな」
「ああ、あった。あった」
「…………」
「装備は大丈夫そうですね?」
「あたりめーだろ!」
「大丈夫だ」
「…………」
ちょっと不安。
念のため…………レベル3以上のスライムは、俺が先行して倒しておくか。
案内はスライム君にやってもらおう。
食事を食べ終え装備を整えると第1階層に移動した。
途中トイレに行くと言って、スライム君と入れ替わる。
そして俺は不意打ち(56367)で姿を隠すと、隠しルートにつながる岩壁の前に急いだ。
途中、レベル3以上のスライムは、数匹残して全て倒し、魔石を拾っていく。
スライムがいないことに、少し違和感を感じるかもしれないが、隠しルートにつながる岩壁にたどり着く前にリタイアされても困るからね。
隠しルートにつながる岩壁の前で、中の様子を気配察知と見識眼で探る。
あの銀色の大岩にへばりついているメタルスライムの姿がはっきり見えた。
やった! ラッキーだぜ。
そろそろリポップされていてもいいころだと思っていたけど、本当にリポップされてたじゃん。
それと、サンダーストームサイクロプスが、俺より早く俺たちを発見していた方法が分かったぜ。
見識眼は、見ようとすれば遠くまで見ることができるらしい。
これでサンダーストームサイクロプスに先制攻撃されることは防げるはずだ。
何しろ見識眼の性能は、俺の方が高いのだからね。
それにしても、見識眼で探った岩壁の厚みはかなりのものだ。
ピッケルで崩せる厚みに削っておこう。
消化液で溶かし、厚みを減らす。
後はここをピッケルで砕かせればいいだけだ。
3人組がやって来て、「ここを壊せば隠しルートが現れる」とスライム君の声だけ俺が肩代わりをした。
金城守がピッケルで岩壁を叩く。
少しずつ岩壁が崩れて穴が開いた。
「おお! 本当に隠しルートがあったじゃん」
「やったな! おい」
「…………」
3人が感激するが、まだ穴が開いただけだ。
交代しながらピッケルを振るい、人が通れる大きさにまで穴を広げ、中に入る。
遠くの大岩に銀色のスライムを発見して3人が顔を見合わせた。
「あれが、メタルスライムか?」
「間違いないだろ!」
「…………」
「逃げ足が速いんだぜ」
「逃がすなよ」
「…………」
3人がゆっくり近づく。
金城守がピッケルを振り上げ、メタルスライムに叩きつけた。
その瞬間を逃さずに、俺は無言でスチールを発動した。
メタルスライムが煙を上げて魔石に変わる。
タイミングを合わせて奪ったドロップ品のプラチナの塊を落とした。
「おい! なんか魔石の他に銀色の塊が落ちたぞ!」
ピッケルを振った金城守が大声を上げた。
「やったぜ!」
「プラチナの塊か!」
「分かんねー!」
金城守がしゃがんでプラチナの塊をを掴み高く掲げた。
「おー!」
「これかー」
計画通り、上手くいったぜ。
それにしても、気付かれなくてよかったわ。
3人がプラチナの塊を囲んで喜び合っていた。
「やったな!」
「本物だよな!」
「ずっしりくるぜ」
「どれどれ、俺にも持たせてくれよ」
「次、俺な!」
「ほら、落とすなよ」
「うわ! 重てー!」
「どれどれ…………うわ、本当だ」
「これいくらすんのかな」
「今、プラチナってグラムいくらだ?」
「これ、キロはあるよな?」
「分かんねーけど、あると思うぜ」
「買い取ってもらえばわかりますよ」
3人が盛り上がっている隙に、スライム君と入れ替わった俺がアドバイスする。
「そうだな!」
「クロークに戻ろうぜ!」
「善は急げだ!」
3人は喜び勇んでクロークを目指す。
俺も3人の後ろに続いた。
クロークに着くと、3人はスライムの魔石とスライムゼリー、メタルスライムの魔石とプラチナの塊を買い取りに出す。
クロークのお姉さんがプラチナの塊を持って奥に引っ込んだ。
「いくらになるかなー!」
「落ち着け。大金に間違いないぜ」
「…………」
「スライムの魔石42個、4200円。スライムゼリー5個、3000円。メタルスライムの魔石が1000円になります。それから、プラチナ塊ですが……この重さですと、現在のプラチナ相場で、1127万6700円になります。合計で1128万4900円です。よろしいでしょうか?」
「やったー!」
「すげーな」
「…………」
3人は顔を見合わせ目玉をぱちくりとしている。
そして、向きなおるとお姉さんに食いついた。
「それで」
「お願い」
「します」
「お支払いは、4頭分ですか? 口座に振り込みますか?」
3人がまた顔を見合わせ、そして振り返って後ろにいた俺を見る。
「分け前は、4等分でいいよな?」
「天心のおかげで手に入れた金だからな」
「半分くらいはお前のものでも仕方ないけど……」
金城守はよく分かってるな。
「今回は、皆さんの装備を購入する資金を調達する目的で隠しルートを狙ったわけで、俺はその手伝いをしただけです。
元々手伝うだけで、金を貰おうとは思っていませんでした。
まさかこんなに上手くいくとは思ってませんでしたけどね。
俺としては元々全額装備購入資金に充ててもらうつもりでしたから、大金が手に入ったからと言って、いまさら金を貰おうなんて思いませんよ。
できるだけ、よい装備を整えてもらった方が、嬉しいですね」
「マジか!」
「それでいいのか?」
「そういうわけにはいかんだろう!」
「じゃあ、装備を整えて、余った金を貰いましょう」
「マジか!」
「それでいいのか?」
「お前は本当にその方がいいのか?」
「俺としては全額使って、3人に強くなって欲しいですね」
「マジか!」
「それでいいのか?」
「分かった。喜んで使わせてもらうぜ」
「じゃあ、一旦現金でもらっておきましょう」
「申し訳ありません。あまりに高額ですので1000万円分の小切手と現金128万4900円でよろしいでしょうか?」
「どうする?」
「いいよな?」
「いいんじゃないか?」
3人は顔を見合わせる。
そして梶谷猛が代表して金を受け取った。




