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少年法の壁スピンオフ  作者: リンダ


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16歳の代表

 少年法の壁 スピンオフ

 莉央の娘


 第28話「16歳の代表」


 岐阜高校に入学してからの葵の成長は、驚くほど早かった。


 柔道部。


 勉強。


 ボランティア活動。


 そのすべてに全力で取り組んだ。


 だが、ただ強いだけではなかった。


 葵は中学時代の経験を忘れなかった。


 一年生がいじめられていないか。


 困っている生徒はいないか。


 柔道部の後輩が孤立していないか。


 自然と周囲へ目を向けるようになっていた。


 ある日。


 一年生の女子部員が泣いていた。


 練習についていけなかったのだ。


 周囲は励ます言葉を探していた。


 その時、葵は静かに隣へ座った。


「大丈夫?」


 少女は涙を拭った。


「私、向いてないのかなって……」


 葵は少し笑った。


「私も毎日投げ飛ばされてたよ」


 少女が顔を上げる。


「本当に?」


「うん」


 葵は頷く。


「今でも負ける時はある」


「でも、負けることと向いてないことは違うから」


 少女は少し笑った。


 その光景を見ていた顧問は後に言った。


「立川は強いだけじゃない」


「人を立ち上がらせる力がある」


 柔道の実力も急激に伸びていた。


 高校一年。


 全国高校選手権優勝。


 高校二年。


 インターハイ連覇。


 全日本ジュニア優勝。


 世界ジュニア優勝。


 海外の強豪選手たちとも互角以上に渡り合った。


 だが、周囲が驚いたのは試合後だった。


 負けた相手に真っ先に歩み寄る。


 審判へ必ず礼をする。


 相手国の選手と言葉が通じなくても、笑顔で握手する。


 海外メディアからも注目された。


「日本の16歳は勝者の振る舞いを知っている」


 そんな記事も掲載された。


 ある国際大会。


 決勝で敗れたフランス代表の少女が泣いていた。


 葵は自分の英語で必死に声をかけた。


「You were very strong.」


「Thank you for fighting me.」


 少女は涙を拭きながら笑った。


 その映像は世界中に配信された。


 やがて。


 オリンピック代表選考会。


 柔道女子48キログラム級。


 ライバルは全員年上だった。


 大学生。


 社会人。


 世界選手権経験者。


 誰もが葵の年齢を見ていた。


 十六歳。


 高校二年生。


 だが。


 試合が始まると、その数字は意味を失った。


 準決勝。


 世界選手権銀メダリストを一本。


 決勝。


 オリンピック二大会出場経験者を破る。


 会場が静まり返った。


 実況席。


「信じられません!」


「十六歳の立川葵!」


「日本代表の座を掴み取りました!」


「歴史が動きました!」


 観客席。


 達也は立ち上がっていた。


 隣では祐也と一果が涙を流している。


 達也は何も言えなかった。


 ただ拍手を続けた。


 一方。


 飯山。


 秋生ジム。


 大型スクリーンの前に理人、美羽、光がいた。


 理人は静かに笑った。


「やったな」


 美羽は涙を拭いていた。


「ほんとに代表になっちゃった」


 光も頷く。


「あの時、柔道部に入るって言った中学生だったのに」


 理人は画面を見つめた。


「もう俺たちが教えることは少なくなったな」


 光が笑う。


「まだあるよ」


「世界で戦う時のプレッシャーとか」


 美羽も笑った。


「そこは先輩として教えないと」


 その頃。


 横須賀。


 小さなアパート。


 仕事から帰った莉央はテレビをつけていた。


 ニュース速報。


「柔道女子48キロ級代表に立川葵選手」


 画面には葵が映る。


 笑顔だった。


 強くなった。


 本当に強くなった。


 そして何より。


 まっすぐだった。


 インタビュアーが聞く。


「目標は?」


 葵は迷わず答えた。


「金メダルです」


 会場から拍手が起こる。


 だが。


 続く言葉に、莉央は息を止めた。


「でも、金メダルだけじゃありません」


「私は、人としても尊敬される選手になりたいです」


「相手を尊敬できる選手でいたいです」


「誰かが苦しんでいる時に寄り添える人でいたいです」


 その言葉を聞いた瞬間。


 莉央は泣いた。


 それは理人たちが伝えてきたこと。


 そして本来なら、自分が娘に伝えるべきだったこと。


 葵はもう、自分よりずっと立派な人間になっていた。


 テレビの向こうで。


 世界へ向かう娘が笑っている。


 莉央は画面に手を伸ばした。


 だが。


 触れられない。


 声も届かない。


 それでも。


 初めてだった。


 莉央は少しだけ思った。


 葵は大丈夫だ。


 自分がいなくても。


 ちゃんと歩いていける。


 それが嬉しくて。


 それが苦しくて。


 莉央は涙を流し続けた。


 第28話「16歳の代表」。


 立川葵。


 十六歳。


 柔道女子48キログラム級日本代表。


 その強さは、技や力だけではなかった。


 知性。


 人格。


 そして、人の痛みに寄り添う心。


 それこそが、彼女を世界へ押し上げた本当の強さだった。

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