飯山駅の再会
少年法の壁 スピンオフ
莉央の娘
第19話「飯山駅の再会」
夏休み。
朝早く。
岐阜駅のホームに、立川家の姿があった。
達也。
葵。
達也の父・祐也。
母・一果。
四人とも少し緊張していた。
特に葵は落ち着かない。
何度もバッグの中を確認する。
理人たちへのお土産。
手紙。
スマホ。
何度も確認してしまう。
一果が笑った。
「三回は見たで」
葵は少し照れた。
「だって……」
祐也が笑う。
「初めて会うんやもんな」
達也も娘の頭を軽く撫でた。
「大丈夫や」
やがて列車が入線する。
名古屋行き。
四人は乗り込んだ。
名古屋に到着すると、今度は中央本線ホームへ向かう。
特急しなの。
長野行き。
葵は初めて乗る列車だった。
車窓には山々が広がる。
木曽川。
深い渓谷。
トンネル。
そして長野県へ。
一果は景色を眺めながら言った。
「きれいやなぁ」
葵も窓の外を見つめる。
「理人さんたちも、この景色見ながら育ったのかな」
達也が頷く。
「そうかもしれんな」
昼前。
長野駅に到着。
今度は飯山線へ乗り換える。
二両編成の列車が静かに待っていた。
千曲川沿いを走る列車。
田んぼ。
山並み。
小さな駅。
都会とは違う時間が流れている。
葵は窓に顔を近づけた。
「なんか落ち着くね」
達也も微笑む。
「そうやな」
そして正午過ぎ。
列車は飯山駅へ滑り込んだ。
ドアが開く。
葵の心臓が一気に速くなる。
ホームへ降りる。
そして。
改札の向こうに見覚えのある顔を見つけた。
理人。
美羽。
光。
三人とも笑顔だった。
理人が手を振る。
「葵さん!」
葵の顔がぱっと明るくなった。
「理人さん!」
美羽も駆け寄ってくる。
「本当に来てくれたんだね!」
光も笑う。
「ようこそ飯山へ!」
葵は思わず頭を下げた。
「今日はありがとうございます!」
理人が笑った。
「そんなに固くならなくていいよ」
その言葉だけで、葵の肩の力が少し抜けた。
そして美羽の隣に、小さな男の子が立っていた。
三歳くらいだろうか。
理人によく似た目をしている。
美羽が紹介した。
「うちの息子」
「隼人です」
男の子は葵を見上げる。
「こんにちは!」
元気いっぱいだった。
葵も笑顔になる。
「こんにちは」
隼人は美羽の後ろに隠れた。
一同から笑いが起こる。
さらに光の隣には、小さな女の子がいた。
大きな麦わら帽子を被っている。
光が優しく頭を撫でる。
「うちの娘」
「ひまり」
女の子は少し恥ずかしそうに会釈した。
「こんにちは……」
葵は思わず微笑んだ。
「こんにちは」
達也も理人に頭を下げる。
「今日は本当にありがとうございます」
理人は首を振った。
「こちらこそ」
「来てくれて嬉しいです」
祐也が笑う。
「テレビで見とる人が目の前におるなぁ」
理人が苦笑する。
「テレビほど立派じゃないですよ」
そのやり取りに、一同が笑った。
駅前には夏の風が吹いていた。
飯山の空は高かった。
葵は改めて理人たちを見た。
世界王者。
オリンピック金メダリスト。
でも今目の前にいるのは、テレビの中の人ではなかった。
家族と一緒に笑う人たちだった。
そして何より。
母の娘である自分を、拒絶しなかった人たちだった。
そのことが、葵には何より嬉しかった。
理人が言った。
「じゃあ行こうか」
美羽も笑う。
「まずはジム見てもらわないとね」
光が続ける。
「飯山の名物も案内するから」
隼人が元気よく叫んだ。
「しゅっぱーつ!」
ひまりも負けじと言う。
「しゅっぱつ!」
駅前に笑い声が広がった。
葵も自然と笑っていた。
飯山へ来る前。
少し怖かった。
少し緊張していた。
でも今は違った。
ここから始まる時間を楽しみに思っていた。
理人。
美羽。
光。
そしてその家族たち。
飯山での夏休みが、静かに始まろうとしていた。
第19話「飯山駅の再会」。
手紙から始まった縁は、ついに直接会う約束へと変わった。
そして葵は初めて知る。
強い人とは、拳が強い人ではなく。
傷ついた誰かに手を差し伸べられる人なのだということを。




