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少年法の壁スピンオフ  作者: リンダ


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立ち続けるために

 少年法の壁 スピンオフ

 莉央の娘


 第18話「立ち続けるために」


 莉央は、葵から届いた手紙を恭介と絵梨奈に見せた。


 神谷家の居間。


 かつて家族の話し合いを何度もした場所。


 けれど今は、誰の声にも力がなかった。


 恭介は便箋を読む手を震わせた。


 絵梨奈は、途中で目元を押さえた。


 もう私たちに関わらないでください。


 私は、あなたのことを母とは思えません。


 思いたくもありません。


 その言葉は、莉央だけでなく、恭介と絵梨奈にも突き刺さった。


 恭介は絞り出すように言った。


「もう……葵とは会えないのか」


 絵梨奈も呟いた。


「孫だったのに……」


 莉央は何も言えなかった。


 孫だった。


 娘だった。


 家族だった。


 けれど、自分たちはその家族を守るために、何をしてきたのか。


 理人と美羽の痛みを軽く見た。


 莉央を止めなかった。


 謝らせなかった。


 金で済ませようとした。


 その結果、葵は自分たちから離れていった。


 誰かに奪われたのではない。


 自分たちが失ったのだった。


 一方、岐阜。


 立川家の居間には、静かな温かさがあった。


 達也の父、立川祐也。


 母、立川一果。


 二人は、葵の手紙のことを聞いていた。


 一果は葵の隣に座り、そっと背中に手を置いた。


「葵」


 葵は小さく顔を上げる。


 一果は優しく言った。


「自分たちは、葵の決めたことを尊重するよ」


 祐也も頷いた。


「無理して会わんでいい」


「無理して許さんでいい」


「葵が今、距離を置きたいと思うなら、それでええ」


 葵の目に涙が浮かんだ。


 一果は、そのまま葵を抱きしめた。


「ショックやったな」


「辛かったよな」


「よう頑張ったな」


 その言葉で、葵は泣いた。


 ずっと張り詰めていたものが、少しだけほどけた。


 一果の腕の中で、葵は声を押し殺して泣いた。


 祐也は静かに言った。


「夏休み、みんなで飯山に行こうな」


 葵は涙の中で頷いた。


「うん」


「理人さんたちに、ちゃんと会いたい」


 達也も隣で頷いた。


「一緒に行こう」


 葵は、初めて少しだけ前を向けた気がした。


 やがて春が来た。


 葵は中学生になった。


 岐阜市立岐阜西中学校。


 真新しい制服。


 新しい通学路。


 新しい教室。


 そして、新しい名字。


 立川葵。


 入学式の日、葵は校門の前で立ち止まった。


 過去は消えない。


 母のことも。


 横須賀のことも。


 理人と美羽のことも。


 何もなかったことにはできない。


 でも、自分は自分として生きていく。


 葵はそう決めていた。


 部活動紹介の日。


 体育館で、各部の先輩たちが勧誘をしていた。


 バスケットボール部。


 吹奏楽部。


 陸上部。


 美術部。


 その中で、葵の足が止まった。


 柔道部。


 畳の上で、先輩が受け身を見せていた。


 倒れる。


 そして立ち上がる。


 また倒れる。


 また立ち上がる。


 葵は、その動きをじっと見つめた。


 倒れても、終わりじゃない。


 立ち上がる。


 相手を傷つけるためではなく、自分と誰かを守るために。


 葵は入部届に名前を書いた。


 立川葵。


 柔道部。


 達也がそれを聞いた時、少し驚いた。


「柔道か」


 葵は頷いた。


「うん」


「怖くないか?」


 葵は少し考えてから言った。


「怖いと思う」


 そして、続けた。


「でも、立てるようになりたい」


 達也は黙って娘を見た。


 葵は言う。


「理人さんたちはボクシングで立ち続けた」


「美羽さんも光さんも、自分の足で立ってた」


「私は柔道で、誰かを守れる人になりたい」


 達也の目が少し潤んだ。


「そうか」


 葵は頷いた。


「誰かを傷つけるためじゃなくて」


「誰かが倒れそうになった時に、支えられる人になりたい」


 その言葉に、達也は静かに笑った。


「葵らしいな」


 葵は少しだけ笑った。


 柔道場の畳の匂い。


 先輩たちの掛け声。


 受け身の音。


 新しい生活が始まる音がした。


 第18話「立ち続けるために」。


 莉央たちは、失ったものの大きさを知った。


 一方で葵は、新しい家族に支えられながら、自分の道を選び始めた。


 母の過去に縛られるのではなく。


 自分の足で立ち続けるために。


 誰かを傷つけるのではなく。


 誰かを守る人になるために。

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