表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年法の壁スピンオフ  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/76

あなたはあなた

少年法の壁 スピンオフ

莉央の娘


第15話「あなたはあなた」


岐阜へ引っ越してから、一か月が過ぎた。


葵は新しい学校にも少しずつ慣れ始めていた。


達也も新しい職場で働き始めている。


生活は変わった。


住所も変わった。


名字も立川に戻った。


けれど。


心の中に残るものは簡単には消えなかった。


夜になると、横須賀のことを思い出す。


理人。


美羽。


光。


そして母のこと。


葵は机に向かっていた。


白い便箋。


何度も書き直した文字。


消しゴムの跡。


深呼吸をして、最後の一文を書いた。


そして封筒に入れた。


宛先は長野県飯山市。


伊達理人。


伊達美羽。


秋生光。


三人宛だった。


手紙にはこう書かれていた。



理人さん、美羽さん、光さんへ。


突然のお手紙をお許しください。


私は神谷莉央の娘の葵です。


母が皆さんに対して行ったことを知りました。


本当に言葉がありません。


皆さんがどれほど苦しんだのか。


どれほど傷ついたのか。


私には全部は分かりません。


それでも、母の娘として謝らなければならないと思いました。


本当に申し訳ありませんでした。


母がしたことは許されることではないと思います。


それでも私は、理人さんや美羽さん、光さんが今も人を思いやる心を失わずにいることを知り、ますます尊敬するようになりました。


私はこれから、人を傷つけない人間になりたいです。


皆さんのように、人の痛みを忘れない人になりたいです。


本当に申し訳ありませんでした。


立川葵



投函したあとも、葵は落ち着かなかった。


返事など来ないかもしれない。


読まれないかもしれない。


むしろ迷惑かもしれない。


それでも書かずにはいられなかった。


数週間後。


一通の封筒が届いた。


差出人は飯山ボクシングジム。


葵の手が震えた。


封を開ける。


中には三人の連名の手紙が入っていた。


最初の文章は理人の字だった。



葵さんへ。


手紙を読みました。


まず伝えたいことがあります。


あなたは母親とは違う人格を持っています。


あなたはあなたです。


母親がしたことの責任を背負う必要はありません。


謝る必要も本当はありません。


それでも手紙を書いてくれたこと。


向き合おうとしてくれたこと。


その気持ちは伝わりました。


ありがとう。



葵の目から涙がこぼれた。


続きを読む。



人は自分の親を選べません。


でも、自分がどんな人間になるかは選べます。


だから、どうかその心を大切にしてください。


人を思いやる心。


間違ったことを間違っていると言える勇気。


それはとても大切なものです。



次は美羽の字だった。



葵ちゃん。


あなたは何も悪くありません。


だから自分を責めないでください。


私が小学生の頃、一番苦しかったのは「誰も分かってくれない」ことでした。


でも、あなたは向き合おうとしてくれました。


そのことが嬉しかったです。



最後は光だった。



葵ちゃん。


理人も美羽も、今はちゃんと前を向いています。


だからあなたも前を向いてください。


そして、もし会いたいと思ったら。


いつでも飯山に来てください。


私たちは歓迎します。


一緒にお茶でも飲みましょう。



葵は最後の一文を何度も読み返した。


いつでも来てください。


歓迎します。


その言葉を見た瞬間。


胸の奥にずっとあった重たい石が、少しだけ軽くなった気がした。


涙が止まらなかった。


達也が部屋を覗く。


「どうした?」


葵は泣きながら笑った。


「返事来た」


達也は手紙を読んだ。


そして静かに頷いた。


「良かったな」


葵は何度も頷いた。


「うん」


「本当に良かった」


窓の外では、岐阜の夕暮れが広がっていた。


横須賀でもない。


長野でもない。


新しい町。


新しい生活。


傷は消えない。


失ったものも戻らない。


けれど。


それでも前を向いて歩いていくことはできる。


葵は手紙を胸に抱いた。


いつか飯山へ行こう。


理人さんに会いたい。


美羽さんに会いたい。


光さんに会いたい。


そして直接、ありがとうと言いたい。


そう思った。


第15話「あなたはあなた」。


母の過去は消えない。


だが、葵はその過去に縛られて生きる必要はない。


理人たちから受け取った言葉は、葵にとって新しい人生への最初の一歩だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ