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少年法の壁スピンオフ  作者: リンダ


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呼ばれない名前

 少年法の壁 後日談


 第27話「呼ばれない名前」


 年月は、さらに流れた。


 莉央にも、獅童にも、こころにも、再婚の話がなかったわけではない。


 職場の知人。


 昔からの友人の紹介。


 趣味の集まりで知り合った相手。


 一度は食事に行った。


 少しだけ会話も弾んだ。


 この人なら、と思いかけたこともあった。


 けれど、そのたびに過去が出てきた。


 名前を検索される。


 伊達理人。


 伊達美羽。


 横須賀。


 いじめ。


 転校。


 神谷莉央。


 中村獅童。


 中島こころ。


 消えない記事。


 消えないまとめ。


 消えない検索結果。


 デジタルタトゥーとなった過去が、何度も何度も目の前に現れた。


 相手は、最初は言葉を選んだ。


「昔のことだとは思うんですけど」


「でも、やっぱり気になってしまって」


「家族に説明できないので」


「今回はなかったことにしてください」


 破談。


 また破談。


 そしてまた破談。


 そのうち、三人は新しい誰かと会う気力さえ失っていった。


 誰かを好きになる前に。


 誰かに信じてもらう前に。


 検索される。


 知られる。


 離れていく。


 その繰り返しに、心が削られていった。


 やがて、親も亡くなった。


 莉央の母が亡くなった時。


 葬儀場には親戚が集まっていた。


 だが、莉央に話しかける人は少なかった。


「大変だったね」


 その一言だけ。


 あとは距離を置かれた。


 獅童の父が亡くなった時も同じだった。


 親族席に座っていても、どこかよそ者のようだった。


 こころも、母の葬儀で、親戚の視線を感じていた。


 かわいそう。


 でも関わりたくない。


 そんな空気だった。


 そして、身内の結婚式にも呼ばれなくなった。


 甥の結婚式。


 姪の結婚式。


 いとこの子どもの披露宴。


 案内状は来なかった。


 あとから写真だけを見た。


 集合写真の中に、自分の席はない。


 呼ばれなかったのだと分かった。


 理由を聞く気力もなかった。


 分かっていたからだった。


 祝いの席に、呼びたくない名前になっていた。


 子どもを傷つけた過去。


 家族を壊した過去。


 検索すれば出てくる過去。


 その人を呼べば、誰かが調べるかもしれない。


 空気が悪くなるかもしれない。


 新郎新婦に迷惑がかかるかもしれない。


 そう判断されたのだ。


 三人は、少しずつ社会の端へ押し出されていった。


 仕事は続けていた。


 生活もしていた。


 けれど、人生の輪の中には戻れなかった。


 家族の輪。


 親戚の輪。


 祝いの席。


 新しい出会い。


 そのすべてから、名前が外されていった。


 莉央はある夜、スマホの写真フォルダを開いた。


 昔の娘の写真。


 元夫との写真。


 消えた家族。


 そこから先の写真は、ほとんどなかった。


 獅童は、結婚式の集合写真をSNSで見つけてしまい、すぐに画面を閉じた。


 こころは、親戚の子どもの成人祝いの投稿を見て、しばらく何もできなかった。


 自分たちは、かつて理人と美羽から居場所を奪った。


 今度は、自分たちの名前が居場所から消えていく。


 因果は、同じ形では戻らない。


 けれど、確かに戻ってくる。


 第27話「呼ばれない名前」。


 過去は、時間が経てば薄れるかもしれない。


 だが、消えるとは限らない。


 誰かの人生に刻んだ傷は、いつか自分の名前に刻まれる。


 そしてその名前は、やがて招待状からも、家族写真からも、静かに消えていくのだった。

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