同じ音
少年法の壁 後日談
第21話「同じ音」
莉央の家だけではなかった。
獅童の家でも、同じ音が響いた。
引越し業者が家具を運び出す。
息子の机。
妻の本棚。
家族で選んだソファ。
玄関に立つ妻は、最後まで獅童を見なかった。
息子は一度だけ振り返った。
その目には、怒りよりも失望があった。
「父さんみたいにはならない」
それだけ言って、息子は外へ出た。
ドアが閉まる。
バタン。
獅童は、動けなかった。
こころの家でも、同じ音がした。
娘の服。
夫の荷物。
家族写真のアルバム。
ひとつずつ運び出されていく。
こころは何度も謝った。
「お願い、行かないで」
だが、夫は静かに言った。
「君が向き合わなかった時間の結果だ」
娘は泣いていた。
けれど、こころに抱きつくことはなかった。
そしてまた。
ドアが閉まった。
バタン。
それぞれの家に残されたのは、大人ひとりだった。
家具の跡。
消えた家族写真。
空っぽの子ども部屋。
冷蔵庫の音。
夜の静けさ。
誰も叫ばない。
誰も責めない。
ただ、いなくなった。
それが一番重かった。
莉央も。
獅童も。
こころも。
同じことを思った。
あの時、自分たちは理人と美羽から居場所を奪った。
安心して通える教室を奪った。
横須賀にいられる時間を奪った。
そして今。
自分たちは家族から見放され、家という居場所を失った。
因果は、同じ形では戻ってこない。
けれど、必ず姿を変えて戻ってくる。
笑い声として投げたものが。
沈黙として返ってくる。
見下した目が。
子どもの失望の目として返ってくる。
閉じ込めた苦しみが。
閉じられたドアの音として返ってくる。
第21話「同じ音」。
三つの家で、同じ音が響いた。
バタン。
それは家族が出ていく音であり。
過去が、ついに現在を閉じた音だった。




