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少年法の壁スピンオフ  作者: リンダ


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吐き出し口

 少年法の壁 後日談


 第14話「吐き出し口」


 莉央たちは、ようやく気づき始めていた。


 自分たちが、なぜ理人を傷つけていたのか。


 獅童の家は、幼い頃から借金の話が絶えなかった。


 両親の口論。


 督促の電話。


 重い食卓。


 こころの家では、離婚の話が何度も出ていた。


 母と父の冷たい会話。


 家の中で息を潜める時間。


 莉央の家も、決して穏やかではなかった。


 言い争い。


 ため息。


 見えない不安。


 子どもだった莉央たちは、それをどう処理していいか分からなかった。


 怖かった。


 不満だった。


 苦しかった。


 でも、家では何もできなかった。


 だから、その感情を学校へ持ち込んだ。


 そして、理人に向けた。


 理人をからかう。


 理人の反応を笑う。


 美羽が兄を助けようとすれば、美羽にも嫌がらせをする。


 誰かを下に置いた時だけ、自分が強くなったような気がした。


 優越感。


 支配感。


 自分はまだ大丈夫だと思える錯覚。


 でも、それは強さではなかった。


 ただ、自分より傷つけやすい相手に、不安を投げつけていただけだった。


 一方、理人と美羽は飯山へ行った。


 横須賀で傷つき、学校を離れ、勉強も心も遅れた。


 けれど、そこで止まらなかった。


 遅れた勉強を取り戻すために、必死に机へ向かった。


 分からないところを聞いた。


 基礎からやり直した。


 泣きそうになりながら、それでも続けた。


 ボクシングも同じだった。


 縄跳び。


 シャドー。


 フットワーク。


 ミット。


 走り込み。


 毎日、夕方六時まで。


 手を抜かなかった。


 逃げなかった。


 焦っても、基礎に戻った。


 怖くても、リングに立った。


 その結果が、今、突きつけられていた。


 全国大会。


 日本代表候補。


 新聞。


 ニュース。


 一般常識テスト全国一位。


 莉央たちは、自分たちが見下していた相手に負けたのではない。


 積み重ねてきた時間に負けたのだ。


 自分の不安を他人にぶつけていた時間。


 その同じ時間に、理人と美羽は自分を立て直していた。


 その差が、今になって形になった。


 莉央はランキング表を見つめながら、初めて思った。


 あの時、私は強かったんじゃない。


 弱かったんだ。


 弱いから、理人を傷つけた。


 弱いから、美羽を笑った。


 弱いから、自分を見なかった。


 その現実は、どんな敗北よりも重かった。


 第14話「吐き出し口」。


 理人と美羽の結果は、偶然ではなかった。


 傷ついた後も、必死に積み重ねた証だった。


 そして莉央たちの苦しさもまた、偶然ではなかった。


 他人を踏みつけて得た優越感は、いつか必ず、自分自身の弱さとして返ってくるのだった。

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