上を見た日
少年法の壁 後日談
第13話「上を見た日」
全国一般常識テストの結果発表から数日後。
莉央は、どうしても気になっていた。
一位の伊達理人。
二位の秋生光。
それだけではない。
トップ100の顔ぶりそのものが気になった。
放課後。
自室の机に座り、パソコンを開く。
公式サイトには、上位入賞者の簡単なプロフィールや紹介記事が掲載されていた。
莉央は何気なく、一位から順番に見始めた。
最初は理人。
全国高校ボクシング選抜優勝。
日本代表候補。
インターハイ上位入賞。
それはもう知っている。
次に光。
女子フライ級日本代表候補。
全国優勝経験あり。
これも知っている。
だが。
三位。
全国高校囲碁選手権優勝。
四位。
国際数学オリンピック日本代表候補。
五位。
全国吹奏楽コンクール金賞校の首席トランペット奏者。
六位。
ジュニア世界選手権優勝経験の体操選手。
七位。
全国高校将棋選手権優勝。
八位。
全日本ジュニアピアノコンクール優勝。
九位。
全国高校科学研究コンテスト最優秀賞。
十位。
ジュニア世界ランキング上位のテニス選手。
莉央は画面を見つめた。
そして。
十一位。
全国高校駅伝優勝校の主力選手。
十二位。
全国書道展大賞。
十三位。
高校生映画祭グランプリ受賞監督。
十四位。
国際天文学コンテスト入賞。
十五位。
ジュニア世界水泳代表。
十六位。
全国弁論大会優勝。
十七位。
全国高校チェス選手権優勝。
十八位。
高校生ロボットコンテスト優勝。
十九位。
全国高校演劇コンクール主演賞。
二十位。
ジュニアフェンシング日本代表。
莉央はマウスを持つ手を止めた。
「……嘘でしょ」
思わず声が漏れる。
上位二十人のほとんどが。
何かの世界で結果を残していた。
スポーツ。
芸術。
科学。
文化。
研究。
音楽。
競技。
ジャンルは違う。
けれど共通点があった。
皆、何か一つに本気で打ち込んでいる。
そして、その分野で全国や世界レベルの実績を持っている。
翌日。
莉央はその話をこころと獅童にした。
スマホを見せる。
こころが固まる。
「え……」
獅童も画面を見つめた。
「なんだこれ……」
三人は次々とプロフィールを開いていく。
出てくるのは。
日本代表。
全国優勝。
世界大会出場。
国際コンクール入賞。
そんな言葉ばかりだった。
こころが呟く。
「上位の人たちって……」
莉央が続ける。
「みんな何かで結果出してる」
獅童は眉をひそめた。
「勉強だけじゃないのかよ」
莉央は黙った。
そこが衝撃だった。
三人はずっと思っていた。
スポーツでダメなら勉強。
勉強でダメならスポーツ。
どちらかだと。
しかし。
現実は違った。
トップにいる人間たちは。
スポーツもやる。
勉強もやる。
音楽もやる。
研究もする。
世界を知ろうとする。
競技だけに閉じこもっていない。
視野が広かった。
そして。
理人と光も、その中にいた。
獅童がぼそりと言った。
「なんでだよ」
誰も返事をしない。
獅童は続けた。
「なんであいつらばっかり」
その言葉は途中で止まった。
自分でも分かっていたからだった。
理人は努力している。
光も努力している。
美羽も努力している。
それはニュースや記事を見れば分かる。
だが。
認めるのは苦しかった。
莉央は画面を見ながら考えていた。
理人たちは、世界を見ている。
それは前回の記事で分かった。
だから勉強している。
だから一般常識も身につく。
世界の選手と話すため。
海外遠征のため。
異文化を理解するため。
ボクシングのために学んでいる。
つまり。
勉強も競技の一部だった。
一方、自分はどうだろう。
いい大学へ行くため。
いい会社へ入るため。
それも大事だ。
だが。
それだけだった。
その差が。
順位の差になっているのではないか。
そんな考えが頭をよぎった。
こころも静かに言った。
「私、勉強頑張ってるつもりだった」
莉央が頷く。
「私も」
獅童も苦笑した。
「俺も」
三人とも努力していた。
決してサボっていたわけではない。
だが。
上位の人間たちは、努力の量だけでなく、見ている景色が違った。
その夜。
莉央は再びランキングを見ていた。
一位。
伊達理人。
二位。
秋生光。
そして、その周りに並ぶ名前。
全国王者。
日本代表。
世界大会出場者。
音楽家。
研究者。
芸術家。
発明家。
そこには共通するものがあった。
誰かを見下して優越感を得ている人間は一人もいない。
皆、自分の課題と向き合っている。
自分より上の世界を見ている。
だから成長している。
莉央は不意に思った。
小学生の頃の自分たちは。
理人を見下していた。
美羽を見下していた。
誰かを下に置くことで、自分が強くなった気になっていた。
けれど。
本当に上へ行く人間は。
下を見る時間などないのかもしれない。
もっと上を見ているから。
その考えにたどり着いた時。
莉央は初めて、自分の胸の奥にあるものの正体を少しだけ理解し始めていた。
それは嫉妬だった。
理人への。
光への。
美羽への。
そして。
自分が持てなかった強さへの。
第13話「上を見た日」。
理人と光が一位と二位だったことも衝撃だった。
だが、本当の衝撃はその先にあった。
頂点付近にいる人間たちは、皆それぞれの世界で本気で戦っていた。
そして、その事実は。
莉央たちに、自分たちがどこを見て生きてきたのかを静かに問いかけていた。




