使徒
ファルスファリアが外装が凍りついた教会に辿り着いた。彼女の力により周囲は極寒の景色となり、全てが凍り付いているはずだった。
「厄介な……」
彼女の鋭い視線の先には一つの白い扉があった。その扉は凍りつく訳でもなく、むしろ隙間から周囲を白で侵食している。
「『星々よ守りたまえ』」
彼女が先程の戦いよりも強力な結界を張った。躊躇うことなく教会の扉を開けると異様な光景が広がっている。長椅子や台座、柱や壁の内装まで全てが真っ白になっている。汚れ一つない純白が視界を覆い尽くす。白だけで描かれたステンドガラスから差し込む光がなければ何処が壁で家具が置いてあるかもわからなかっただろう。
そして、その白に溶け込みながらも確かな存在感を放つ人物がいた。その近くには一部が白に侵食されたミケの姿もある。
「星々の使徒とは珍しい」
その者の声には心に響くような心地の良さを感じる。隣にいるミケも暴れることも無く、その声の主に心酔するように聴き入っていた。
「その子を返してもらう」
「星々の使徒よ残念ながらそれは出来ません。彼女には使命があるのです。それは星々に仕える貴女には分からないかも知れません」
「神の依代」
「おや、知っていましたか」
白い人物は優しくミケを撫でる。心地良さそうにするミケの姿は家族に甘えているように見える。しかし、ゆっくりと白に染まっていく姿は病魔に侵されているようだ。
「この子は神子。我らが至上であらせられる『#*€$』、失敬。この世界では『白我』とお呼びするのでしたね。先程貴女はこの子を返せと言いましたね。ですがそれは彼女自身の意思でもあるのですよ?そうですね?」
「はい」
虚な顔で返事をしたミケを見て白の人物は微笑む。
「面倒な真似をしたな?」
「さて、何のことでしょうか?私は白我様に仕える純白ノ使徒としての責務を全うしているだけです」
「ふっ、下劣な神に仕えるだけはある」
「なんと不敬な。しかし、我が神は虚弱なる星どもに仕える者にも寛容であらせられる。けれども、神の威光を見逃す訳にもいきません。寛容である至上の御心を穢す者には私が処罰しましょう。何も心配はありません。至上が降臨なされば貴女の仕える星々も全て白へと還して下さるでしょう」
「『煉獄の世界』」
「『白ノ世界』」
両者から放たれた世界への変革は瞬く間に周囲の光景を変化させた。ファルスファリアが変革した世界は空間が歪む程の熱が放たれ、周囲の白を燃やし尽くす。唸るような恐ろしい熱気は地獄を連想させた。逆に、純白ノ使徒は周囲を侵食するように静かに世界を変革させる。
両者の新しい世界同士がぶつかると空間が歪む。
「我らが至上に劣るとはいえ、幾億を凌駕する星々の使徒。私の世界に抵抗するとは………ですが、場所が悪かったですね」
「くっ!」
しかし、白は煉獄の世界をゆっくりと呑み込む。ファルスファリアは押し返そうとするがいつの間にか全て呑み込まれていた。幸いにも彼女は結界によって守られたが、軋む音から長くは持たないだろう。
「聖域化したのか!」
「ここは至上をお呼びする場所ですから。しかし、その結界は厄介ですね。『純白の衣』」
純白の鎧に身を包んだ姿は、神話で描かれる天使の騎士のようだ。
「『超新星爆発』」
「『白ノ世界』」
高密度のエネルギーが爆発しようとしたが瞬く間に白が呑み込み不発に終わった。
「『絶対零ーー」
次の攻撃を仕掛けようとする間に、純白ノ使徒が彼女の結果に手を触れていた。
「ーーー度』!」
ファルスファリアが放った攻撃は確かに腕を凍らせる事はできたが全てを凍らせる事はできなかった。その上、純白ノ使徒は凍りついた腕を徐々に結界の中へと押し込む。
「ガッ!」
離れようとした時にはファルスファリアの首が掴まれていた。彼女を守る結界はヒビ割れており、ヒビの割れ目から白に侵食された全て剥がされた。
「貴女は悪くありません。至上が居ながら上位者のように振る舞い仕えさせた星々が悪いのです」
布に覆われた顔から表情を知る事はできない。しかし、その声に込められた感情には哀れみの念が強く感じられた。ファルスファリアが抵抗するも一切の攻撃が効かない。
「しかし、貴女は恵まれています」
純白ノ使徒が鎧を解くと、法服の上着が脱がれ、長い布に穴が空いたものを被り横を紐で結んだだけの官能的な服装になっていた。豊満な体は強い母性を感じさせる。
「今から至上に仕える使徒に生まれ変わるのですから」
「………?!」
顔に覆われていた布を純白ノ使徒が捲ると、両目と額の箇所には口があり、口に当たる部位に大きな白い目があった。
「一時的な痛みは至上の試練です。貴女なら乗り越えられるでしょう」
右目の口が話し、微笑んだ。
「新たなる純白への再誕者が生まれることを祝おう」
左目の口が話し、微笑んだ。
「あぁ、偉大なる至上に感謝を!」
額の口が話し、微笑んだ。
その顔がファルスファリアに近づき、大きな口が開けられーーー
「ーーー人は美味しくないですよ?」
後ろにミケを抱えた天瀬が立っていた。




